2011年
4月28日
樋渡清司君は鹿児島大学外科学教室に所属していましたが学位取得後、基礎研究も手がけてみたいと平成20年12月より慶応ラボに参加してくれました。主に腫瘍形成や転移におけるマクロファージの役割をSOCS3欠損コンデショナルノックアウトマウスを使って解析しました。彼の在任期間は実質1年半程度でしたが、その間に大いに仕事をしてくれて立派に論文をまとめあげてくれました。それがようやく日の目を見ました。その後昨年H22年9月より愛媛大学に移動しましたが現在は臨床を中心に活躍しています。当ラボで身に付けた科学的な考え方や実験方法は実証に基づいた医学(evidence-based medicine)の体得に大いに役立ってくれるでしょう。
Suppression of SOCS3 in macrophages prevents cancer metastasis by modifying macrophage phase and MCP2/CCL8 induction Cancer Letters 308 (2011), pp. 172-180
本論文ではまずマクロファージ特異的SOCS3欠損マウスがBL16メラノーマの腫瘍移植モデルおよび転移モデルに抵抗性を示すことを見いだしています。SOCS3欠損マクロファージは通常M2タイプと言われ腫瘍の成長を促進すると予想していましたが逆の結果で驚きました。樋渡君は腫瘍抽出液にTLRを介したマクロファージ活性化因子があることをつきとめWTとSOCS3欠損マクロファージで活性化の違いを比較しました。その結果SOCS3がないと炎症性サイトカインTNFαやIL-6の産生が低く、炎症が抑制されていることがわかりました。このような炎症性サイトカインの低下は全身性に腫瘍抵抗性(あるいは全身状態の改善)を導くものと考えられます。一方で腫瘍内のマクロファージはSOCS3欠損のほうが集積していました。アレイ解析の結果、SOCS3欠損マクロファージはSTAT3を介してMCP2/CCL8を高産生していることがわかりました。MCP2は単独投与で腫瘍の転移モデルを抑制しました。MCP2の抗腫瘍効果のメカニズムは十分わかっていませんが、マクロファージでSOCS3を低下させることでケモカインを介した抗腫瘍効果を増強できることが明らかとなりました。本研究は炎症と転移の関係に新しい知見を加えたものとして高く評価できると思います。