2017年

4月11日

投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2017-04-11 00:59:18 (1763 ヒット)

 長らくお待たせしました。七田君の論文がNature Medicineのon-lineに掲載された。JSTからプレスリリースも。結構専門的な内容だから新聞報道 はわからないが、これまであまり光が当たってこなかった『炎症の終息(あるいは収束)』に焦点をあてており、内容はかなり画期的と言える。
これまで脳梗塞数日間の炎症は梗塞領域を拡大させ神経症状を悪化させるとしてきた。しかし炎症はいずれ終息し組織修復に向かわないといけない。もしその仕組みがわかって終息を早めることができれば新しい画期的な治療法になるだろう。七田君は数年前に脳梗塞によって死んだ細胞から放出されるペルオキシレドキシン(PRX)が重要なマクロファージ活性化因子(DAMPs)であることを報告した。PRXのDAMPsとしての機能は次第に認知されるようになってきている。活性化されたマクロファージはIL-1βやIL-23を放出してγδT細胞からIL-17を誘導することで神経細胞死を早める。しかし3、4日もするとPRXを含むDAMPsは脳内から消えて行く。どうやらマクロファージの性質が変化してPRXなどの死んだ細胞成分(すなわちDAMPs)を食べて消化するらしい。また神経成長因子などを分泌して組織修復にも働く。マクロファージがDAMPsを認識し処理する機構はこれまで不明だった。
七田君は蛍光ラベルしたPRXがマクロファージに急速に取り込まれる性質を利用して、まず取り込むことができなくなった変異細胞を単離した。変異細胞と元の細胞を比較することで取り込みに関与する可能性のある遺伝子の候補がいくつか浮かび上がってきた。それらの遺伝子を一つ一つ変異細胞に戻すことで取り込みに重要な遺伝子を同定することができる。極めて難度が高く時間と手間がかかる方法だが七田君は見事にやりきって、細胞表面のスカベンジャー受容体(Msr1)がPRXやHMGB1などのDAMPsの受容体であること、スカベンジャー受容体の発現を規定するのがMafbという転写因子であることを突き止めた。
次にスカベンジャー受容体とMafbの遺伝子欠損マウスを手にいれて、細胞成分(DAMPs)の掃除がうまくいかずに炎症が長引き、脳梗塞症状も悪化することを示した。しかしこれでは治療にならない。Mafbの発現を上げられれば炎症は早く終息するだろう。七田君は色々調べて、ビタミンAの類縁化合物Am80がMafbの発現をあげて結果的にスカベンジャー受容体を増やす効果があることを示した。Am80は脳梗塞発症後に投与しても炎症の終息を早めて治療効果があることを示した。Am80はある種の白血病の治療薬としてすでに使われているのでヒトでも検証可能であろう。

マクロファージが死んだ細胞の成分を取り込むことを見出してから今日まで5年の歳月が過ぎている。実は仕事内容が3年でほぼ完成したのに論文にするのに2年かかっている。なかなか思うようにいかない時代になったものだ。私のようなせっかちな人間には辛い。マウスの入手でもそうだった。スカベンジャー受容体Msr1は東京大学の児玉先生が発見されたもので遺伝子欠損マウスも作成されていた。しかし手を尽くして調べたが国内で持っている人はほとんどなく、唯一某社の研究所で維持されていることを突き止めた。すぐに分与してくれと依頼したものの、社内手続きがどうのこうのと言われて2ヶ月くらい音沙汰なしだった。催促してもまだまだ時間がかかるという。もともと待てる性格ではない。つい頭に来て『そんならいらん』と断ってしまった。しかたない。海外からもらうしかない。文献を調べてスウェーデンのカロリンスカの研究者が持っていることを見つけてメールを書いたらすぐに送ってくれたのだった。ここでトラブっていたらどうなったことか。


 

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