2011年
9月6日
JEMon line Takahashi et al. 208 (10): 2055
高橋さんは2008年12月から当教室に所属しています。臨床の助教からの転身で、マウスを扱ったことは初めてでした。しかしポスドク期間わずか2年余りで論文をJEMに発表できたことは本人の才能と努力の証でしょう。もっとも最初の投稿は昨年の夏だったので本当に短い期間で集中して仕事を仕上げてくれました。その技術力、集中力、構想力は称賛に値すると思います。
内容的にはTregのplasticityと機能異常の話でtimelyな話題なのだが、すでに一部の表現型はRudenskyらのグループとImmunityとCellに報告しており、その点をつかれた。しかしSOCS1を欠損したTregがなぜFoxp3を失い、なぜvivoでは抑制機能を持たないか分子レベルで明らかにした点は大きい。さらにTregが樹状細胞に働きかけてeffectorのTh1/Th17分化を規定するというinstruction説を打ち出しているのが極めて新しいのだが、残念ながらさらにハイランクのjornalでは理解してもらえなかった。
JSTにプレスリリースを依頼したが諸般の事情で却下された。せっかく原稿を用意したので添付する。一般のかたはこちらをどうぞ。
現在抗炎症機能をもつ細胞としては抑制性T細胞(Treg)が中心的であると考えられている。TGFβやIL-10の供給源としてもTregは重要である。しかしTregの発生、維持に関する制御機構はほとんど知られていない。最近TregがFoxp3を失いeffectorThとなって自己免疫疾患に関与するのではないかという説(exFoxp3説)やFoxp3を失わないまでも炎症環境化ではTregがサイトカインを出して炎症に寄与するという説が出されている。最近のNature MedicineでもMS(多発性硬化症)患者ではFoxp3+IFNγ+T細胞が存在することが報告されている。
今回SOCS1のTregにおける機能について集中的に解析を行った。まずFoxp3Creマウスと交配しTreg特異的SOCS1欠損マウスを作製したところ皮膚炎や肝炎などの自己免疫疾患様の症状を呈した(Cell. 2010 Sep 17;142(6):914-29.)。SOCS1のnTregにおける役割を解明するために、in vivoでその抑制能を検討した。RAG2欠損マウスへのnaïve T細胞とそれぞれのnTregの移入実験では、SOCS1欠損Foxp3陽性nTregを移入した方が腸炎の抑制効力が劣っていた。そこで、RAG2欠損マウスへそれぞれのnTregのみを移入して、nTregの運命を検討した。GFPでマーキングしたFoxp3陽性T細胞を移入した所、4週後にWT nTregは約60% がFoxp3 陽性を維持しているのに対して、SOCS1欠損nTregは40%までFoxp3陽性率が低下した。SOCS1欠損nTregを移入したRag欠損マウスではFoxp3陽性、陰性どちらの分画からもIFNγやIL-17の産生が認められた。これらの結果から、SOCS1がnTregにおいてFoxp3の安定性およびサイトカイン産生抑制に寄与することが明らかとなった。
次にIFNγSOCS1両欠損T細胞で調べた。するとFoxp3の減少は見られなくなった。STAT1はSOCS1欠損Tregで過剰に活性化されていたがIFNγSOCS1両欠損T細胞ではSTAT1は正常であった。よって自身が出すIFNγによってSTAT1が過剰に活性化されることでFoxp3が不安定することが示唆された。しかしFoxp3が安定でもこのIFNγSOCS1両欠損Tregはvivoでは抑制能がなくnaiveT細胞の移入による腸炎を抑制できなかった。よく調べてみると移入したTregからIL-17が産生されeffectorもTh17が増えていた。同様の変化はIFNγ欠損TregでもみられたがIFNγSOCS1両欠損Tregのほうが顕著であった。つまりIFNγがなくなったことでTh1による腸炎はおこらなくなったかわりにTh17が顕著に誘導されたことによって腸炎が起こったのだ。
これらの結果はFoxp3の増減はTregからのサイトカイン産生には直接関係ないこと、またTergからIL-17が出る(Th17型Tregになる)ことでeffectorもつられてTh17に分化する(instruction説)ことを示している。このときSOCS1欠損TregではSTAT1ではなくSTAT3の過剰な活性化が起こっていた。試験管内でもTregの培養上清はナイーブT細胞をTh17へ分化誘導させやすくしていた。つまりTregのなかでSTAT3が活性化されすぎるとIL-17(おそらくIL-6なども)を出しやすいTregになり、Tregから出るサイトカインがさらに樹状細胞に対してIL-6やIL-23を誘導してナイーブT細胞をTh17へと誘導する、というモデルが考えられる。
Tregがeffectorの分化の方向性を決めるとしたら非常にユニークで新しい考えだと思われる。TregはCTLA4を高く発現しておりナイーブT細胞よりも先に樹状細胞と相互作用すると考えられているのであながちあり得ない話ではない。これからの問題は炎症でみられるIFNγ+Foxp3+T細胞やIL-17+Foxp3+T細胞が単に炎症の結果なのか、あるいは樹状細胞のinstructionを介して自己免疫疾患などの原因ないし増悪化に寄与するのか、これを明らかにする必要があるだろう。また治療の観点ではSOCS1をTregで強化することでexFoxp3やTh1Treg、Th17Tregの出現を減らせるのかもしれない。