2018年

11月5日

投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2018-11-05 23:52:20 (2395 ヒット)

 マリー•キュリーへの祈りが通じたのか。いやいやすべては伊藤さんの4年にわたる頑張りがすべて。reviewerの無理難題にもしっかりと正面から正攻法で対峙してきた。私はただ神社とパルテオンで拝んでいただけだ。これから日本に戻るので詳細は別の記事で紹介したい。

『脳Tregはアストログリオーシスを抑制し神経症状を改善する』(論文のタイトルはまだ出してはいけないらしいので日本語で。つまんね〜世の中だな。)

それにしても4人のreviewerのうち1人には「brain Tregなんぞ他のtissue Tregの仲間ではないか。全く新規性がない」と完全否定されていた。誰かは薄々わかる。「それをいっちゃあおしまいよ」という類いの批判だ。なんとeditorはこれを無視してくれた。今まで一人でもダメと言われるとrejectされることが多かったのでこれは本当にluckyだった。
内容は簡単に言うと『脳梗塞などの損傷を受けた脳組織には慢性期(人間でいうとリハビリ期)に制御性T細胞Tregが大量に集積し、脳Tregと呼ぶべき特殊な性質を獲得し、神経症状の回復に一役買う』ことを証明した論文。修復因子としてはとりあえずはアンフィレグリン(Areg)なので確かに筋肉Tregと同じと言えなくもない。でも脳Tregはセロトニン受容体を発現しセロトニンに応答して増える。セロトニンの脳内濃度を上げる薬は脳Tregを増やす。この薬は抗鬱薬として実際に使われている。脳梗塞のリハビリ期でも効果があるかもしれない。

今回の論文で最も重要なことは、「これまで脳梗塞の慢性期には炎症は治まり、免疫はあまり関係ないと思われていたのだが、実際はそうではなく、獲得免疫が発動しTregが集積することで一見静的な状態に見えていただけ、すなわち脳損傷の慢性期は実は免疫学的には”動的平衡状態”にある」ということを示したこと。脳梗塞に限ったことではなく多くの組織損傷でも似た機構が存在するのではないか。『動的平衡』はどなたかの決め台詞のようだが、実際には物理化学用語で古くから存在する。生物学的には「定常状態が維持され、一見何も起きていないように見える状態」をさす。しかし実際には様々な細胞が様々な分子を介して相互作用し生まれては消えて定常状態を維持している。『行く河の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず(方丈記)』実は日本人には親しみ深い自然観なのだ。脳梗塞という一見単純な組織損傷の慢性期がそんな『動的平衡』にあること、それに組織Tregが極めて重要な役割を果たしていることを証明したこと、それがこの論文の出色な点であると思う。

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