2019年

1月3日

投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2019-01-03 07:50:49 (2058 ヒット)

新年おめでとうございます。2019年も張り切っていきたい。と意気込んでいたら元旦からノロにやられた。でももう回復した。今日から頑張りたい。
さてようやく伊藤さんの論文がNature on lineになった。なんと英国時間では1月2日である(欧米は休みは元旦のみか)。印刷は1/10号だそうだ。acceptが来てからずいぶん待たされたが「速報誌」なのでしかたない。プレスリリースも行ったが、残念ながら正月休みで何処もとりあげてくれてない。。。まあ正月からめでたい話と納得したい。ライフサイエンス分野では「新着論文レビュー」というのがあって3大誌本誌姉妹誌に掲載されたら総説を書いてくれと依頼が来る。意気込んで早めに原稿を送ったら11月末で新規掲載は停止だそうだ。インパクトファクター至上主義を助長すると批判されたのだろうか。。。せっかくなので日本語で理解しやすいだろうから内容はこちらで
プレスリリースでは一般受けを狙って脳内制御性T細胞(脳Treg)がセロトニンで増えるのでセロトニンを増やす抗うつ薬が脳梗塞のリハビリに効果があるのでは?という話を中心にしている。実際に今までの報告では治療効果があるとされてきたのだが、昨年末発表された大規模試験の結果は微妙でまだ研究の必要があるらしい。私は某社の間葉系幹細胞療法のように直接投与したらよいのではないかと思っているのだが。

ともかく日本語総説を読むのは面倒、内容を簡単に知りたいという方のためにあらすじを書くと以下のようになる。
通常脳内にはリンパ球の数は少なく脳内の免疫細胞といえばマクロファージの仲間のミクログリアだけだった。しかし脳内で炎症が起きるとリンパ球(T細胞とB細胞)が浸潤してくる。特に脳梗塞のような大きな組織損傷が起きるとリンパ球の浸潤が起きる。しかし脳梗塞後の一週間程度は浸潤マクロファージを中心とした自然免疫応答が中心で、リンパ球の意義はγδT細胞という特殊な自然免疫系のT細胞以外不明であった。おおまかに言うと、脳梗塞後1日目にマクロファージが炎症性サイトカインを放出し炎症を煽るが3,4日もすると今度は同じマクロファージが掃除屋になって炎症の引き金となるような物質を食べて炎症を収束させる。余談だが「はたらく細胞」のマクロファージ(なぜかカワイイ少女)は大ナタを振り回して細菌をやっつけているのと、ほうきを持って掃除しているのと2種類描かれているがマクロファージの性質を的確に表現している。
ということで脳梗塞後1週間を過ぎるともう免疫の役割は終わりと思われてきた。一見炎症の症状が見られないからだ。ところが伊藤さんは2週目以降にはT細胞が脳内に大量に集積することに気がついた。特に梗塞を起こした部位の内部だけでなく周辺にも集積している。またCD4陽性のT細胞の半分がTregであった。これほどTregが多ければ炎症反応が見えないのもうなずける(Tregは炎症を抑える細胞だから)。実はこの研究を行っている途中で「脳梗塞後30日もするとTregが脳内に集積する」という報告がなされたので「先を越されたか!」と肝を冷やしたのだが内容は記載のみでTregの除去実験は不完全だった(おそらく脳梗塞研究の専門家でCD25抗体でTregを除去したとしているのだが、免疫学の界隈ではこの方法ではほとんど除去できないことはよく知られている)。ここは落ち着いて伊藤さんは解析を進めた。重要なことは(1)脳Tregは神経症状の回復に一役買っている。そのひとつの役割はアストロサイトの過剰な活性化を抑制することにある。(2)脳Tregはいわゆる組織Tregの一種で組織特異的なTCRを有し、IL-33受容体を発現してIL-33に依存して増える。(3)アンフィレグリン(Areg)というサイトカインを放出することでアストログリオーシスを抑制する。(4)一方他の組織Tregと異なりCCR6,CCR8を発現し特殊なケモカインに引かれて脳内へ浸潤する。(5)なぜか7型セロトニン受容体(HTR7)を発現しセロトニンに応答して増幅、活性化される。
脳Tregは脳梗塞という特殊な状況でのみ生じるわけではない。現在自己免疫性の脳内炎症モデルなども調べているが、脳内にTregが留まることでセロトニン受容体を発現するなど脳Tregの性質を獲得するようである。「脳と獲得免疫」。多くのヒトの神経疾患は長い時間のかかる「慢性疾患」である。慢性(=長期間)であれば獲得免疫の出番だ。脳の病気における獲得免疫の意義の解明はこれからだと思う。
 

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