2019年

3月24日

投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2019-03-24 15:58:14 (1092 ヒット)

脳梗塞(正確には脳卒中や外傷性脳損傷か)の治療にエイズ治療薬の一種、マラビロクが有効かもしれないという論文が2月号のCellに出ていた。『Cell』といえば我々の業界では基礎生物学の最高峰の雑誌のひとつである。こんな疾患治療系も最近は載せるのだ。マウスだけではなくヒトでも有効性が示唆されたので価値が高いと判断されたのだろうか。。。Scienceにも紹介記事が出ていた
簡単にいうと、脳梗塞や脳損傷によって神経細胞にケモカイン受容体CCR5が発現誘導される。マウスの実験では神経細胞でCCR5を阻害すると脳傷害からの神経回復が早まる。CCR5は通常は白血球などが炎症部位に集まる時に使われる受容体であるが、エイズウイルスHIVが細胞内に侵入する時に使う副受容体でもあり、その阻害剤マラビロクはエイズ治療薬として使われている。マウスモデルではマラビロクが神経症状の回復を促進した。この薬をヒト脳卒中患者で使ったわけではないが、ヒトではCCR5に変異を持った人がある一定数いてHIVに耐性を持つことが知られている。だから中国の世界初のゲノム編集ベビーでも標的に使われた。この変異を持った脳卒中患者(N=68)は通常の患者(N=328)と比べて神経症状の回復が早かったのでおそらくヒトでもCCR5の阻害は治療として有効なのでは?という話だ。Phase2/3の臨床試験も始まっているらしい
ではなぜCCR5が神経損傷の回復を遅らせるのか?最新の高価そうな技術で詳細に調べられており(私は専門外でよくわからないのだが)イメージングなどによって、CCR5の阻害によってCREBやDLKシグナル経路が活性化し、運動野の神経の樹状突起スパインの消失が抑制されたり、新たな投射が形成されてりするのだそうだ。しかし最後にやっぱりCCR5が阻害されるとマクロファージの浸潤が少なく、アストロサイトの活性化は抑えられることも示されている。この論文にケチをつけるつもりは毛頭ないのだが、神経細胞の機能回復は炎症抑制の結果ではないのか?という疑問は残る。。。

本論文は何がすごいのか?実はマウスではCCR5欠損のほうが脳梗塞モデルに抵抗性を示すことやヒトでも虚血性脳血管傷害に関連する病気にかかりにくそうなことは過去に報告されている。なので本当は神経細胞に、これまで免疫細胞で機能すると考えられていたCCR5が脳損傷によって発現誘導されて(誘導の仕組みは不明)神経機能の障害を促進していることを強調したかったのだろうと思う。そこが一番新規性が高いのだろう。繰り返すがケチをつけたいわけではない。ただ免疫細胞のCCR5の阻害と完全に分けて実験できているわけではなさそうなのでやや不満が残る。なぜ神経特異的CCR5欠損マウスを使わないのか?mRNAのみでCCR5の細胞局在を示しているが、免疫学者としてはanti-CCR5抗体を使ってFACSや免疫染色でタンパクレベルでの存在を示してほしい(やっぱりケチをつけている?)。そもそもなんで神経は損傷時に回復を遅らせる分子を発現せなあかんの?その理由が説明されていない(確かにケチをつけている)。ともかくも初期の炎症を抑えることは治療価値がありそうな話だが、我々の論文は完全に無視されているのが最も癪にさわる。彼らはCCR5が炎症ではなく神経細胞そのものに作用するという立場なので当然か。


興味本位のついでに言うと、マウスではCCR5欠損は学習能力や記憶力が向上するらしい。ならばマラビロクは「頭が良くなる薬」かもしれない、ということで私など明日からでも飲みたいと思ってしまう。しかしCCR5に変異がある人は頭が良いと言う報告はなさそうなのでマウスほどは効果がないかもしれない。

なお伊藤さんに確認してもらったところ、脳梗塞慢性期で脳全体で確かにCCR5の発現は増え、Tregを除去すると発現はさらに上がる。よって神経症状の悪化とCCR5の上昇は関連はありそうだ。でもCCR5は当然TregにもエフェクターT細胞にも発現している。これを阻害したらどうなるかは研究してみないとわからない。

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