2019年

11月21日

投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2019-11-21 08:33:49 (1180 ヒット)

がん免疫療法の課題のひとつはいかにT細胞の疲弊を抑え、若いメモリー(Stem Cell Memory=Tscm)を増やすかにある。少なくともCAR-T療法ではTscmを増やすことがより強い抗腫瘍効果をもたらすと考えられている。これは若いメモリーT細胞ほど長生きして最終的には多くのエフェクター(兵隊)T細胞を生み出せる、と考えられているから。近藤君は2017年に一旦活性化したT細胞をNotchリガンドを発現するOP9細胞(OP9-DL1)と共培養するとTscm様の細胞に変換することを見出した。このTscm様の細胞、iTscmはやはり強い抗腫瘍活性を持っている。ではiTscmがより若いメモリーT細胞であるメカニズムは何か?代謝に注目してその機構を探ったのが今回の論文である。簡単に言うとiTscm化するとエネルギー(ATP)を産生するミトコンドリアと細胞内の燃料タンクである中性脂肪が増える。つまり中性脂肪を燃料にミトコンドリアという発電所でどんどんATPを産生してくれる。なのでiTscmは長生きしてたくさんの子細胞であるエフェクターT細胞を作ることができる。

といっても代謝転換(metabolic reprograming)とメモリー分化と抗腫瘍効果については数年前から膨大な論文が発表されており周回遅れの感は否めない。エフェクターT細胞はエネルギー源として解糖系を、メモリーT細胞はミトコンドリアによる酸化的リン酸化をそれぞれ主に使っていることはよく知られている。現在の焦点は体内あるいは体外でどうやって解糖から酸化的リン酸化に転換するか?それによって疲弊を解除してエフェクターを増やせるか?ということだろう。その転換の鍵となる遺伝子の探索が必要で今回の仕事ではFoxM1を提案している。FoxM1はがん幹細胞に重要な遺伝子として広く知られている遺伝子。FoxM1の強制発現によってiTscm様の表現型と強い抗腫瘍効果が得られることがわかった。しかしFoxM1はがん遺伝子なので使い道は限られるとは思う。しかしこうやって代謝転換のメカニズムを明らかにしていけば効率的にiTscm化する方法が見つかるだろう。理想的には体内で使用できる薬剤が見つかればチェックポイント阻害剤との併用も可能であろう。

ただ一つ訂正しておくと我々はiTscmを発表した時に、「腫瘍内で疲弊化したT細胞を若返らせることができる可能性がある」と宣伝した。その後の研究で我々のOP9-DL1との共培養くらいでは疲弊化しきったT細胞をTscmどころか普通のメモリーT細胞にも転換することは困難であることが判った。誇大広告であったことを謝罪したい。腫瘍内にいて完全にヘロヘロになったT細胞をiPS技術を使わずに直接復活させることは並大抵のことではできないらしい。でももしそれができたら本当にすごいことだろう。まだまだゴールは遠く誰も成功していない。でもだからこそ挑戦する価値があると思いたい。


 

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