2020年

6月6日

投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-06-06 10:06:20 (2917 ヒット)

 CD19-targeted CAR regulatory T cells suppress B cell activities without GvHD

プレプリントはこちら。
https://insight.jci.org/articles/view/136185/pdf

JCI insightというやや臨床よりの雑誌に受理された。CAR-TはT細胞にCARと呼ばれる人工遺伝子を導入して治療につかおうというもの。遺伝子操作と細胞療法を組み合わせた未来の医療のようにみえるが、一部の白血病ではすでに実用化されている。我々は制御性T細胞(Treg)を自己免疫疾患や臓器移植の拒絶反応の抑制に応用しようと長年研究して来た。マウスではかなりのところまで達成していたがヒトTregはマウスとはかなり違って難しかった。これに正面から取り組んでくれたのが某製薬企業から出向してしてくれていたI君。さすがに優秀で短い期間で卓越した成果を出してくれた。アカデミアでも十分すぎるほどやれると思うが悪い誘惑はしていない。

今回の研究ではSLEなどの抗体依存性の自己免疫疾患の治療を想定している。SLEではB細胞からの自己抗体産生が発症もしくは増悪化に関与することが知られている。重篤な場合はB細胞の除去が治療として選択されることもある。そこでB細胞を認識するCARを導入したTregを作成したところ試験管内でも個体レベル(特殊なマウスを用いているが)でも抗体産生を極めて効率よく抑制することができた。
CAR-T療法の問題のひとつは過剰な免疫応答によるサイトカインストームの発生。IL-6阻害等で対応はできるそうだが危険性はつきまとう。Tregはむしろサイトカイン産生を抑える細胞なのでGvHDのような標的以外を攻撃する危険は少ない。だがヒトTregを応用する場合の問題のひとつはマウスと違って安定なヒトTregを高純度で取り出すことが難しいことだった。I君は試行錯誤の末、これを複数のマーカーで純化することで長期間拡大培養してもTregの性質を維持できる分画法を見つけた。この分画はTregと思われる集団のうちのわずか3%しかいない。幸いヒトT細胞は刺激によってものすごく増える。実験に十分な量のTregは確保できるようになった。しかしヒトの治療にはまだ数は足りない。将来的にはiPS由来のTreg利用もあり得るだろう。
もうひとつの成果はヒトTregの表面には大量のTGFβの前駆体が発現しており、これがB細胞機能の抑制機構として重要であることを確認したこと。TGFβには免疫抑制効果の他様々な生理機能があるが、この性質をうまく利用した疾患標的を見つけると応用範囲が広がる気がする。

私的にはこの数年間ヒトT細胞を用いた研究をやりたいと意気込んで来た一つの到達点なので極めて感慨深い。あとはもう少し倫理申請がわかりやすくなるといいのだが。一番の課題はそこか?
abstractの英語が変なのは変に修正したせい。校正時に直します。

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