2022年
9月25日
20日よりハワイで開かれている国際サイトカイン学会(ICIS2022) に参加している。メインの目的はこの学会がくれるというファイザー賞の受賞講演。立派なクリスタルをもらった。しかしひどく重く持って帰るのに一苦労しそうだ。講演は詰め込みすぎでだいぶ反省したがまあスライドがあるのでよく理解できたと思う。2日後、講演よりも恐ろしいものが待っていた。別の賞の受賞者と合わせて4名が壇上に上がって、パネルディスカッションをせよという。お昼を食べながら気楽にという趣向だが、英語ができない身にとってはこれは拷問に近い。サイエンスの話というより「20年前の自分にアドバイスするとしたら何か?」とか「好きなコーヒーは何か?」とか日本語でも(気の利いた)回答が難しいものばかり。「スーパーヒーローのパワーを持てるなら何をしたいか?」と聞かれて「ロシアとウクライナの戦争を止める」と言ったらWarの発音が悪くて「ヲー」とか「ワー」とか言いなおしても伝わらない。全くもってこんな恥ずかしいことはなかった。
会場は広くマスクをしている人は一人もいないかと思ったらさすがというべきかアメリカNIHからの参加者と日本人の一部はマスクをしている。しかしポスター会場はコロナ前と同じかそれよりも狭い。ぎゅうぎゅう詰めで、うるさいので皆口から泡を飛ばす勢いで大声で話している。換気もほぼないしこれではマスクなど何の意味もない。しかしそれが世界標準なのだろう。感染したので飛行機に乗れずにオンライン発表になった人も何人かいたが、それ以外は全く気にしていないようだった。もう肺炎で死ぬ人はいないというのは皆知っているのだろう。ともかくも面と向かって(face to faceで)議論する。まだ論文になっていない情報も耳にできる。どこそこでこんなことをやっているらしい、などといったウワサ話もある。これが学会の面白さなんだろう。また何処かに行きたくなった。
子供とワクチンと感染について小児科医の神園先生のブログが最新のデータを基に、まことに精密で冷静な議論をされています。ぜひご一読を。さしたる根拠もなく来年の春には終わるかもとうそぶくような自称専門家とは違います。小児においてオミクロンに対する重症化抑制効果は現行のワクチンでは低いらしい。半量では十分なT細胞応答が誘導できないのだろうか?まだまだヒトの免疫応答には謎が多い。mRNAワクチンは偉大だと思うが、2回目以降は安全性が確立しているコンポーネントワクチンのほうがよいのではないかというのは全く同感。
もう一点気になったニュース。エーザイのアルツハイマー病新薬「レカネマブ」に有意な進行抑制効果がみられたという。兄貴分の「アデユカヌマブ」は効果が不透明だったのに比べると大きな前進だ。アデユカヌマブが単純なアミロイドβに対する抗体に対し、レカネマブは可溶性のアミロイドβの凝集体に対する抗体なのが大きな違い。ついでに発音もだいぶ楽。凝集体のほうが神経毒性が高いと考えられており、おそらく効率よく毒性の高いアミロイドβを除去できるのだろう。しかし抗体療法は高くつく。mRNA創薬の技術は体内での抗体産生に応用できるはず。これでぜひ価格を下げてもらいたいものだ。mRNAワクチン並なら一回数千円で済むだろう。すでに進行していると思われる私はぜひ治験を受けたい。