T細胞を若返らせる--K君の論文

投稿日時 2017-02-24 00:28:46 | カテゴリ: TOP

 K君は4年前に獣医学部を卒業して大学院に入って来た。当時『免疫リプログラミング』に取り憑かれていた私が彼に与えたテーマは『一旦活性化されたT細胞を若返らせて自己免疫疾患や癌の治療に役立つT細胞を創出しよう』というものだった。炎症部位に集まっているT細胞は抗原特異的に活性化されているはずである。このT細胞の分化をリセットしてナイーブ(未感作)状態に戻して制御性T細胞(Treg)に再分化させれば自己免疫疾患や炎症が関与するあらゆる疾患の究極的な治療法になるはずである。また腫瘍に集まっているT細胞は疲弊しているのでこれを若返らせてもう一度活性化できれば強い抗腫瘍効果が得られるだろう。この『若返り』(=リプログラミング)の方法として有名なのはiPS細胞である。iPSは「若返り」というよりも「生まれ変わり」というべきかもしれない。実際にiPSにしてTregにしようという試みもやったことがあったがCD4は上手くいかない。CD8であればすでに河本先生や中内先生がiPSからT細胞に分化させて抗腫瘍免疫に使う方法を発表されている。しかしiPSからT細胞を作るのは効率が悪く時間もかかる。やはり部分的な『若返り』が可能になれば大きな利点であるに違いない。ではどうやって若返りさせるのか?
K君はいろいろ試したがなかなかうまくいかない。3年前のあの日に私はメールでいくつか試みてみるべき方法を示した。その中には『酸処理してみろ!』というのもあったがやっぱり死んだだけだった。なぜかそのときに『ストローマ細胞と共培養してみろ』というのがあったらしい。iPSからT細胞を作るのに使うのと同じ方法である。K君はこの共培養で活性化T細胞の中に『ナイーブ』(未感作)の性質を示す細胞集団が現れることに気がついた。このナイーブ様のT細胞は当時少しずつ提唱されていた『幹細胞様メモリーT細胞』(Tscm)に近いものだったのだ。そこで試験管の中で誘導できるTscmということでinduced Tscm(iTscm)と名付けた。これまで試験管内で誘導するTscmはナイーブT細胞から作られたものでリプログラミングではない。K君の方法は一旦活性化されたT細胞から「分化を巻き戻して」作くれるところが大きな違いだ。iTscmはどの種類のT細胞よりも抗原によく応答して増殖し長寿命である。さっそく抗腫瘍効果を調べたところ他のどの細胞よりも抗腫瘍活性が強いことを確認した。ヒトでも作成可能だった。
あまりに衝撃的だったせいか論文はなかなか通してもらえなかった。投稿を始めたのは1年以上前からだった。メカニズムはまだわからないがヒトでいうと60歳の老兵を少なくとも30歳くらいは若返らせることに成功したのではないか?と言うとどこかで聞いた話か?と疑われるので詳細は論文を待ってほしい(ただ一応メモリー細胞なので、何にでもなれる15歳くらいまで若返らせているわけではない)。K君は地道に実験を繰り返しひとつずつTscmの条件を検定し見事に大発見を成し遂げた。ヒト腫瘍免疫への応用も十分期待できる。大学院生の仕事としては立派すぎる出来だと思う。私にとっても8年以上前からお題目のように吹き続けた『免疫リプログラミング』がひとつ完成したので感無量である。
 

 






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