フィンゴリモド開発秘話

投稿日時 2017-07-14 18:09:00 | カテゴリ: TOP

 13,14日と神戸の田尾寺というところでシンポジウム。ゼロックスの研修所を一般にも公開しているらしい。施設は立派だが駅から遠い。いや徒歩10分程度なのだがお昼の炎天下10分歩くと汗が吹き出して結構つらかった。日頃日中外に出ないのでたまにだと堪える。
そこで田辺三菱製薬のフィンゴリモド開発を担当されて来た方の講演があった。フィンゴリモド(FTY720)は実験でもよく使うし、学生講義でもとりあげたばかり(試験の出来は悪かったが)。多発性硬化症(MS)の治療薬として世界で3000億円/年を売り上げるという。
もともとは京都大学薬学部の藤多哲朗教授(昨年亡くなられたそう)が有名な漢方薬「冬虫夏虫」からいくつもの新規化合物を発見されており、そのうちのひとつ、マイリオシン(ISP-1)がリンパ球増殖抑制活性を持っていたことから台糖や吉富製薬(当時)と共同研究を始めたことがきっかけだそうだ。ところがマイリオシンは不斉炭素が3つと多く、とても合成できない。そこで大胆にその部分を削ってさらにベンゼン環を入れて、開発コードFTY720を合成した。これをマウスに注射したところ、なんと血中のリンパ球が激減したのだった。そこから有名な「スフィンゴシン1リン酸(S1P)受容体の阻害によりT細胞のリンパ節からの流出を阻害」という作用機序が解明されて来たのだった。ところが最初の冬虫夏虫由来のマイリオシンにはその活性はない。マイリオシンには別の標的酵素があるそうで合成展開していくうちに「たまたま偶然に」優れたターゲット分子を阻害する化合物が得られたのだそうだ。むろん開発には大変な苦労があったそうだが、こんな幸運はそうないだろう。藤多先生は結構なロイヤリティが入って京大に寄付もされていたそうだ。私のような下世話な人間にはそちらのほうが気になってしかたない。いや藤多先生も初めは多発性硬化症の薬になるなど思ってもみられなかったらしい。やはり目先の利益に走らず、倦まず弛まずこつこつ努力するところに幸運は訪れるのだろう。また開発途中では周囲は「そんなの効く訳がない、やめろ」大合唱だったそうだ。これも成功物語ではよく聞く話だが「諦めずに信念を貫けるか」もサイエンスの神様は見ているのだろう。

なおフィンゴリモドは確かにS1P受容体を阻害してT細胞の流出を抑制するのだが、脳脊髄系への影響はそれだけではないらしい。どうもアストロサイトのS1P受容体も重要だそうで、教科書にはまだ書かれていない作用もこれから解明される可能性があるそうだ。



 






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