美白剤はネオ抗原

投稿日時 2017-07-16 13:56:59 | カテゴリ: TOP

 神戸から戻ると翌日は自己免疫疾患研究会。都内だが昼から夜遅くまで結構タフな会だ。明日からは大阪で炎症再生学会。少しでも時間があると試験の採点と助成金の審査。助成金の審査もこの頃はWeb採点でコメントを書き込むようになって適当では済まされない(今まで適当だったわけではありません)。この忙しさは当分続く。それでも研究会で聞いたためになる話をひとつ。来年の講義のネタにしたい。書き留めておかないと必ず忘れる。
埼玉医科大学からの発表で、少し前に(カネ)某化粧品メーカーから美白剤として売り出されたロドデノール。メラニン合成酵素を阻害するので肌が白くなるのだが、それが行きすぎて白斑の副作用がでたというのは記憶に新しい。一般にはロドデノールの代謝物が細胞死を誘導するからと説明されている。しかし埼玉医大の松下教授らは美白剤を塗ってない部分にも白斑ができることから免疫の関与を疑った。松下先生らはロドデノールがチロシナーゼに結合することでチロシナーゼの構造が変わって新しい抗原決定基(エピトープ)が出現すると考えた。一般的に化学物質がタンパク質に結合してその化合物(ハプテン)を含んだ抗原になることは「接触性過敏症」などでよく知られている。ただロドデノールの場合はタンパク質の構造変化によってこれまで抗原として認識されていなかった部分が抗原になる、ということらしい。これを「隠蔽自己抗原(cryptic self)」といって自己免疫性糖尿病におけるインスリンなどで知られていた。松下先生らはチロシナーゼのペプチドからHLA-DR4およびHLA-A2, B44に結合しT細胞を活性化するペプチドを見出した(学生諸君はT細胞の種類が言えるかな?)。なるほど。これなら全身性に白斑が出ることも、人によって症状に差があることも理解できる。先生らのすごいのはこれを逆手にとってロドデノールがメラノーマの癌治療に使えるのではないかと考えたことだ。動物実験ではうまくいったようだ。これまで自己免疫疾患や過敏症起こすような化合物は忌み嫌われていただけだったが発想を転換することで癌治療に使えるかもしれない。なかなか勉強になった。


今年は症例問題の出来が悪かった。もっと実際の症例を基に関連する免疫の話をすれば皆興味を持ってくれるかもしれない。今学んでいることが実際に診断や治療に必要不可欠なんだということを知れば少しは勉強に力が入るか、、、入らんだろうな。






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