SOCS3に続いてSOCS1とJAKの共結晶構造が発表された。オーストラリアのBabon(ウイスキーはbourbon)のグループである。数年前にすでに解いていたというのは聞いていたのでpublishするのに苦労したのだろう。メカニズムとしてはSOCS3の時と同じくkinase-inhibitor-regionが擬基質として作用し基質が入り込むのを妨害するというもの。我々の仮説は証明された。しかし最も驚きだったのはSH2ドメインとリン酸化ペプチドの結合は阻害に必要ないというのも。彼らは様々なリン酸化ペプチドを試してやはりJAKのキナーゼactivation-loopのペプチドが最も強く結合することを確認している。これは20年近く前に安川君が報告した通り。ところが生のJAKのactivation-loopとは立体構造が邪魔になって結合できないらしい。つまりSH2ドメインの本当の相手は分からずじまい。早速BabonにメールしたところSH2ドメインの謎に2年間取り組んだが結局分からなかった、という返事だった。これがこの論文が御三家に載らなかった要因かもしれない。
しかし、試験管内ではSOCS1の抑制効果はJAKのリン酸化に依存しないとしても、細胞レベルではSH2ドメインの変異体は相当に抑制活性が落ちる。謎が残った格好だが、私はやはり相手はactivation-loopだろうと思う。様々なリン酸化ペプチドと比較しても結合の強さが全然違う。Babonも同様に相手はactivation-loopではないかと考えているらしいが証明ができない。実は結晶をつくるの使われているJAKはキナーゼドメインだけである。私はその隣の「調整機能を持つ」とされるpseudo-kinaseドメインがおそらく構造を変化させてJAKとSH2の結合を助けてくれるのではないか、と思っている。いずれにしてもSOCSのJAK阻害活性はサブnMレベルなので人工的なキナーゼ阻害剤と同程度である。リン酸化に依存しないでもこれくらいあるのだからSH2を介してJAKに接近できればもっとすごいのではないかと想像する。リン酸化に依存しないとすると創薬標的としてもやりやすいのではないか?Babonたちも最後にSOCS阻害剤のことを述べていた。残念ながら我々の総説を引用してくれなかったが、機運は高まりつつある。
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