週末は大阪で腫瘍免疫の講演を行ってその足で台湾台北に飛ぶ。台北は国立台湾大学で行われている台湾の免疫学会での講演と長庚大学でのセミナー。大阪の講演は失敗だった。臨床家の集まりというので基礎的な話をと言われたのでPD1の効果などおそらく何度も聞いたと思われる話を延々として肝心の疲弊のメカニズムをじっくり話す時間がなくなった。後でもっと先生のお仕事の話を聞きたかったと言われて落ち込む。このごろ「聴衆の顔を見ながら話ができるようになった」と少し自信がついてきたと思っていたのは過信にすぎなかったか。
11月なのに台北は暑い。学会での講演の後、お昼に大学の外に出ると日本では真夏の日差しで、肌に刺さる。少し歩くだけで汗が吹きだした。大学近くの魯肉飯が有名な店でかなり並んだが、ものすごく美味しかったし2人前で900円くらい。安い。やはり暑いところは味が濃いほうがいいのだろう。生まれて初めてタピオカを飲んだ。確かに「ぷにゅぷにゅ」がクセになりそう。こちらではbubbe teaと呼ぶらしい。暑さと移動の連続でかなり疲れたので早めにホテルに帰って昼寝をしたら気がついたら夜になっていた。懸案の学位論文の修正を行うがなかなか捗らない。
長庚大学は台湾を代表する私立大学でキャンパスは台北郊外の岡の上の広大な敷地にあった。長庚というのは創立者の大金持ちの王永慶氏の父親の名前なんだそうだ。貧しい茶農家から身を立てて台湾屈指の大企業を創出した立志伝中の人物。自分の名前ではなく父親の名前をつけるというのは儒教の影響なのかもしれないが立派な人物だ。はじめは一万床(普通の日本の大学病院は千床もないだろう)もある巨大な病院を造ったのだが、働いてくれる医師が足りないというので医科大学も造って、さらに工学部なども増やして行ったらしい。それまで台湾の医師の収入は低く患者からの袖の下が横行していたが王氏は医師の待遇を改善して袖の下を禁止し誰もが平等な医療を受けられるようにしたのだそうだ。まことにたいした人物だ。講演では呼んでくれた先生が学生に「もし今日の講演者を知らないなら免疫学の教科書のサイトカインのところをみろ。サイトカインの負の制御機構としてSOCSというのが必ず出ている。今日の先生はその発見者だ」と持ち上げてくれた。いやいやそんなたいそうなことではしていないしもうすぐ定年だと謙遜すると「台湾なら特別教授になれる」と言われて御世辞とはわかっていてもそんな道もあるかと少し気持ちが動く。
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