SOCS1遺伝子をなくすと抗腫瘍免疫が増強される

投稿日時 2022-01-04 09:47:05 | カテゴリ: TOP

 SOCS1はサイトカインシグナルの伝達に必須の酵素JAKの天然の阻害分子である。私のライフワークとも言える分子であるが、抗腫瘍免疫の中心となるインターフェロンγのシグナルを阻害することから、SOCS1阻害剤は強力な抗腫瘍効果を引き出す可能性があることは随分前から指摘されていた。が実際にヒトCAR-T細胞を使ってSOCS1を欠損させた例はなかったと思う。今日紹介する論文は(だんだん西川先生に似てきた)はフランスのグループからScience Immunologyに掲載されたもので、タイトルは「in vivo genome-wide CRISPR screes identify SOCS1 as intrinsic checkpoint of CD4+TH1 cell response」。Science Immunologyなのですごい話かと思ったら、内容は昔から言われてきたことの再現でどうにも不思議な論文である。まず彼らはCD4ヘルパーT細胞の疲弊に関与する分子をCRISPR screeningでサーチした。T細胞は強い抗原刺激を頻回に繰り返すことで疲弊し増殖できなくなる(業界用語でアナジー状態ともいう)。マウスT細胞を用いて遺伝子をCRISPRでノックアウトして個体にもどし、アナジーを誘導しても増殖できるようになったT細胞を集めて、どの遺伝子が潰れたのかをシークエンスで確認するという手法だ。CD8はよくやられているのでCD4でやったのがミソなのかもしれない。ともかくノックアウトして増殖が回復する遺伝子はSOCS1が最も強力だったようだ。それでがんを移植したマウスの系を用いて、CD4とCD8でSOCS1を欠損させたT細胞を移入して治療する実験を行うと、CD4とCD8両方で潰した方がより強い抗腫瘍効果が得られている。最後にヒトCAR-T細胞を使ってヒト白血病細胞を駆逐する実験系(超免疫不全マウスを用いる)で調べている。ところがCD4だけではあまり効果がなく、CD4、CD8両方で潰した方がかなり治癒している。さらにCD8でSOCS1を潰しただけでも十分治療効果が出ている。結局当初の話とはズレて、腫瘍の系ではCD8T細胞でSOCS1を潰すのが一番よさそうなのだが、それだと新規性が少ないと思ったのかCD4をしつこく実験している。
ともかくT細胞でSOCS1を欠損させると疲弊が起こりにくくなり強い抗腫瘍効果が得られることは明確にされた(前から明確だったような気もするが)。SOCS1阻害剤を開発しようという企業が現れてくれることを期待したい。






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