4/1新学期が始まる。科研費のほうは悲喜こもごも(悲のほうが多いようだが、、、)。今日から微生物学免疫学教室はひとり教授体制となる。小安教授が理化学研究所の統合生命科学研究センターのセンター長代行に栄転されたためだ。私は新教授の赴任まで旧小安研と吉村研を束ねて教育と研究を推進する任をまかせられた。とても一人でできることではないので教室員一丸となってこれまで以上のパーフォーマンスを披露したい。同時に新教授が一日も早く決まって赴任できる環境を整えることがもうひとつの私の使命である。そのために全力を注ぎたいと思う。午前中教室会議を開きそのような意向を教室員に伝える。その後恒例の御苑での花見を行った。幸い昨日までの寒さは和らぎ薄日が心地よい花見日和だった。残念ながら桜の峠は過ぎて桜吹雪のなかでの食事会となったがそれもまたよし。今年は2名の気鋭の大学院生が参加してくれた。旧小安研の方々も一緒に花見を楽しんだ。写真はこのHPのトップページに掲載されている。
花田俊勝君は九大時代のうちの助教から平成17年にオーストリア科学アカデミー分子生物科学研究所(IMBA)のPennigerのところに留学した。それからもう7年の歳月が流れ彼のオーストリアでの仕事がようやくNatureのArticleとして2日ほど前に掲載された(今日気がついた)。実際には昨年より京都大学で特任准教授になっているので留学期間としては6年だろうか。それでもよく頑張り、粘ったと思う。そのひたむきな姿勢があっての成果だろう。心からおめでとうを言いたい。Reviewerが途中で替わったり、多くの追加実験を要求されたりで大変だったと聞く。さすがにNatureのArticleなのだからその苦労は推して知るべし。私は日和見なので実はJCIクラスでもいいから早く論文にして帰ってこいと呼び戻そうとしたことがあった。しかしそれは間違いだった。花田君には途中で投げない、妥協しないことの大事さを教えられた。これをステップに次はぜひ教授を目ざして欲しい。
Toshikatsu Hanada et al. CLP1 links tRNA metabolism to progressive moto-neuron loss
Nature in press doi:10.1038/nature11923
インターフェロンサイトカイン学会/マクロファージ研究会の学会の資金作りに当HPにバナー広告を募集したところ、タカラバイオ(株)さんに一口のっていただいた。残念ながら私の収入になるわけではない。でももしこれで宣伝効果があると判断されたら学会終了後も引き継き利用してもらえたらありがたい。
それにしても学会の資金集めは難しい。昨今は寄附も集まりにくいとは聞いていたがその通りだった。それでもプログラムがもうすぐ完成する。派手なことはできないがこじんまりとでも学術的に充実した会にしたい。ぜひ多くのサイトカイン、免疫、炎症関係の研究に興味ある方々の参加をお願いしたい。
関谷君はTregをつくるのに必須の遺伝子を発見しました。この遺伝子はNR4aと呼ばれるもので単独でFoxp3プロモーターを活性化できます。こんな遺伝子は他にありません。詳細な内容は以下のJSTのプレスリリースおよび原論文を参照ください。
免疫反応を抑える細胞が作られる新たな仕組みを発見
慶應のプレスリリースはこちら。
"Nr4a receptors are essential for thymic regulatory T cell development and immune homeostasis" Sekiya et al. Nature Immunology on line
「医療・介護情報CBニュース」
Yahooででていたのはこちら。
アメリカの時間ではまだ12月12日。12日に長谷川君の論文といっしょに2つacceptになった。なんともうれしいことだ。しかしImmunityからは同じ日にrejectが来たがそれは忘れよう。写真は卒業生の若林君から贈られたケーキ。
IL-23-independent induction of IL-17 from γδT cells and innate lymphoid cells promotes experimental intraocular neovascularization by Eiichi Hasegawa et al. J. Immunol. on line
九大の眼科から参加してくれた長谷川君の労作。もちろん最初はハイレベルの雑誌からスタートしたのですがなかなか意義を理解してもらえずようやくJIに落ち着きました。加齢性黄斑は失明のおおきな原因のひとつで網膜の障害と炎症、血管新生によって起こります。これのモデルとされるのが(そこがいつもたたかれるところであるが)レーザーによる網膜の障害モデルで、最終判定を血管新生でみます。本論文ではγδT細胞やILC17からのIL-17がVEGFに匹敵する血管新生能力があることを示しています。また興味深いことにこの網膜のモデルでは一般的にIL-17の誘導に必須とされるIL-23が必要でないこと、代わりにIL-1βなどを使っていることを明らかにしました。RORγtは必要なのでもう少し詰めれば新たなIL-17誘導機構を解明できたかもしれません。またILC17も細胞数が少なく結局characterizeできませんでした。やはり眼ですから細胞数が大きな壁になりました。しかし内容的にはレベルは高い。ほぼ同じreviewerにまわったと思われ同じことを何度も聞かれましたがモデルが十分普及していないのか我々のdisplayが悪かったのか当初IL-17の意義を十分認めてもらえなかったのが痛かった。しかし脳といい眼といいIL-17の重要性はますます明らかとなってきている。次のリベンジに期待したい。
そういえば今日は12-12-12。何かおめでたいことがあるかと思ったらこれだったか?
助教の七田崇君が「脳梗塞後炎症における免疫応答の解明」で日本免疫学会奨励賞を受賞しました。12/5からの学術集会で表彰される予定です。
<内容と受賞理由>七田崇氏は、脳卒中医療に関わった経験から脳内免疫機構に興味を持ち、大学院進学後に、脳内炎症の機能研究を開始した。七田氏は脳虚血後の急性炎症に、IL-17を生産する 型T細胞が関わることを見いだした。さらに、このような急性炎症とそれに引き続く神経障害が、T細胞浸潤の阻害剤であるFTY720で抑制することが可能であることを示し、新たな治療法の可能性を示した点で高く評価されている。さらに、脳虚血時に浸潤するマクロファージの活性化が壊死細胞から放出されるペルオキシレドキシンによって誘導されることを見いだし、ペルオキシレドキシンが新規の内因性炎症誘起因子であることを証明した。七田氏の進める研究は、炎症性疾患の発症機構の理解や新規治療法の開発に資するものであり、今後の発展が大いに期待される。
インターフェロンサイトカイン学会のニュースレターにJAK発見の経緯を書いて欲しいと頼まれておりその原稿を探していた。このHPの奥深くに隠れていたのを見つけて来た。他にニュースはないのかよ?!
http://new.immunoreg.jp/modules/pico_jinsei/index.php?content_id=18
手を入れたversion。こちらのほうがどうしてチロシンキナーゼに着目したかがわかる。
念のためアナウンス。学生課から連絡を受けた3年生は東校舎4F会議室の掲示板を見に来て欲しい。先日免疫の再試の時にアナウンスはしたのだが口頭で言ったきりなので伝わっているのかどうか。まあここまでして気がつきませんでした、なら私も免責だろう。というかオレはなんて甘いのだろうと自分にあきれる。
君たち3年生は後輩(現2年生)2名以上に『微生物学と免疫学の講義は必ず出るべきである』と伝えるべきだ。君たちは”自分たちはゆとり世代の学生でかつ医学部定員もかなり増えている、そんな時代の学生である”ことを自覚すべきだ。講義なんて出なくて大丈夫、なんていう先輩らの戯言は今の時代通じない。呼び出しの学生の97%は免疫の再試受験に引っかかっていることを考えると複数の科目間の成績にはきわめて強い相関関係があることが容易に想像できる。3年生は今からでも遅くないから2学期からの講義には真面目に出席して聴講して欲しい。
来年は出席を厳しくとる。欠席はマイナス点。講堂の後ろ半分は封鎖する。講義中に寝ている者は減点。というふうに厳しく対処してみようと思う。多くの先生は慶應の学生は優秀で厳しい指導は必要ないと考えている。学生もそのように錯覚、誤解している。実態はゆとり世代なのでモル計算も満足にできないかもしれないということを教師も生徒も自覚すべきだ。また自分の子供を見ていても強く感じるのは予備校や塾で手取り足取り指導してもらうことに慣れ、家で自分で計画をたてて机について勉強する習慣ができていない。現代の学生には厳しくしてしすぎることはないと思う。微生物学はまさにそのようなコツコツとした地道な勉強が必要な科目である。
学生のひとりが”高校の同級生と話していると医学部だけが他の学部と違う、厳しい、楽しめない”というふうなことを言う。医学部は高等教育の場でもあると同時に職業訓練校でもあるのだ。専門学校と思えば当然だろう。ちと長くて学習量も多いのは同情はするが。。
8/19日恒例の免疫適塾(リトリート)のソフトボール大会。今年はグランドが宿泊施設に付随しているので早朝早くから試合を行う。それでもかんかん照りでかなり暑い。死人が出るといけないということで一試合わずか3イニング。ホームランなしで外野を超えたら2塁ストップというルールになった。第一試合は小安研と天谷研で3-4で天谷研の勝利。意外と引き締まったいい試合で思いのほか打てない。第二試合は皮膚科と吉村研で私は一回表に投げる。最初二人は軽く抑えたがそのあと打たれていきなり3点のビハインド。2回表から七田君にスイッチ。七田君は1年間投球練習したというだけあって速い。腕をふりまわすビュンビュン投法だ。2、3回とゼロに抑える。しかし味方の打つほうはなかなか飛ばない。1,2回とゼロ。今回は駄目かと思ったが3回裏に4点を挙げて劇的な逆転サヨナラ勝ちを納めた。すこしづつ球に慣れて来た。続く第三試合。小安研対吉村研。こちらが先行で一回にいきなり4点を挙げ楽勝かと思いきやその裏私も七田君も打ち込まれて5点を入れられあっさり逆転される。特に小安先生のバッテイングはすばらしい。私の内角低めの明らかなボール球をすくいあげて外野を超えた。3回にも外野を超えられた。2回は共にゼロ。3回表に3点をあげ3回裏を抑えれば優勝だ。しかしここでまた私が投げて3連打をあびて1点計上して降板。七田君が投げて後続を断ち切りなんとか勝利をおさめた。しかしよく打たれた。七田君が投げなかったら大差でどちらの試合も負けていただろう。来年に向けて精進しなければ。
Shichita T et al. Peroxiredoxin family proteins are key initiators of post-ischemic inflammation in the brain Nature Medicine 18, 911-917, 2012 | doi:10.1038/nm.2749
News&Viewでもとりあげてもらいました。
脳卒中は患者数約140-150万人で日本ではがんと同程度で、年間13万人が死亡すると言われています。脳梗塞は脳卒中の3/4を占め、脳の血流が4分間止まるだけでその部分の脳組織は壊死し、運動麻痺・感覚麻痺・言語麻痺等の様々な神経症状がでます。しかし梗塞がどのように広がり終息するかは不明でした。近年梗塞後に起こる炎症が梗塞巣の拡大に寄与することが報告されはじめ、トピックスとなっています。七田君もこれまでにマクロファージがIL-23を放出し、それがγδT細胞からIL-17を誘導し、IL-17が梗塞の拡大を招くことを示してきました。(NMのN&V)ではIL-23はどうやって作られるのか?以前からマクロファージが細菌を認識するのに使っているtoll-like-receptor(TLR) (2011年ノーベル賞)が梗塞後の炎症に必要だということはわかっていました。しかし脳は無菌的でクリーンな臓器であり、細菌やウイルスなどの外敵は通常存在しません。したがって、脳組織の中にもともと存在しており、壊死に陥った時には細胞外にばらまかれて、マクロファージを刺激して活性化させる因子(DAMPs : Danger-associated molecular patternsとひろく呼ばれている)が存在していると考えられます。七田君は新しいDAMPsを見いだすべく研究を行いました。詳細はpress-release参照。JSTへはこちらから。ライフサイエンス新着論文レビューはこちら。
毎日新聞の記事はこちら。
吉田亮子さんは昨年4月に卒業して現在は佐賀大学でポスドクをしていますが、彼女が当教室でやっていた(やり残した)仕事を論文にすることができました。以前cFosがIKKによってリン酸化され安定化しNF-kBを抑制することで樹状細胞やマクロファージで炎症性サイトカイン産生を抑制することを報告しました (Koga et al. Immunity 2009)。吉田さんは安定化c-Fosのトランスジェニックを作成し解析を行いました。cFosを強制発現させた樹状細胞はLPS刺激によってサイトカイン産生が減少し、マウスはEAEに抵抗性を示しました。以前のimmunityの報告通りの結果となったのですが、それだと新規性がないということでハイランクの雑誌は無理でした。本当は個体内では面白いTregを作るのではないか?と期待していたのですがそのような現象はとらえられませんでした。樹状細胞の改変によるT細胞のリプログラミングは結構ハードルが高いことを思い知らされました。
ついでながら今年卒業した吉田秀之君の論文も。Biochem Biophys Res Commun. 2012 May 25;422(1):174-80. Preferential induction of Th17 cells in vitro and in vivo by Fucogalactan from Ganoderma lucidum (Reishi). Yoshida H,et al. 理由も聞かされず長く放置されて、これには相当口惜しい思いをした。一応形になったので忘れよう。
何故かBBRCの論文が増える。卒業生の残した仕事をまとめるのは残った者にとっても大変なことだ。以前もぼやきを書いたが。。。。ちゃんと期限内に書かせられない指導者が悪いんだろう。
3年前に九大で学位を所得して卒業した真田君(東大医科研、笹川先生指導)がfirst-authorの論文がNatureにでていました。私が何かしたわけではありませんが嬉しかったので紹介します。細菌とホスト両方を解析し新しい防御とエスケープ機構を発見したなかなかスケールの大きな仕事です。本人の努力と笹川先生のご指導のたまものでしょう。我々もあやかりたい。いや、やはり指導者の違いは大きいことが証明されたということか。。。
The Shigella effector OspI deamidates Ubc13 to dampen the inflammatory response Nature DOI 10.1038/nature10894
医科研の紹介記事より
毎年約1500万人が感染症で命を失われ、そのなかの約200万人は腸管感染症が原因である。腸管は無数の微生物に常に暴露されているが、微生物の侵入から生体を守るために自然免疫を中心とする堅固な防御システムが幾重にも備えられている。一方、赤痢菌やその仲間である病原性大腸菌(O157等)等の腸管病原細菌は、それら防御システムを巧みに回避して生体へ侵入する高度に進化した機能を備えている。病原細菌の腸粘膜への侵入に対する自然免疫応答と、それを病原細菌がどのようにして回避するか、そのメカニズムは全く不明であった。今回、東京大学医科学研究所の笹川千尋教授と真田真人研究員らは、兵庫県立大学の水島恒裕教授および大型放射光施設(SPring-8)との共同研究により、赤痢菌をモデルにして、(i) 粘膜上皮に対する病原体の侵入認識機構。(ii) この宿主認識・防御に対抗する赤痢菌の手段 を明らかにした。具体的には、(i) 細菌が細胞侵入するときに形成される葉状突起(ラッフル膜)を危険信号として認識する仕組みとして、「葉状突起に局在するジアシルグリセロール(DAG)-TRAF6-NF-κBに依存した炎症シグナル経路が重要である」ことを明らかにした。(ii) 赤痢菌の対抗手段として菌から分泌されるOspIを同定し、そのタンパク質の立体構造(図2参照)および生化学的性状を解明した。(i)と(ii)の結果から、OspIは、上述の炎症シグナル経路の制御に重要なTRAF6の活性化に必要なUBC13に結合性して、UBC13の100番目のグルタミンを脱アミド化する「新規な脱アミド化酵素である」ことを発見した(図1参照)。本研究により、感染初期の病原体に対する粘膜上皮の新規な防御機構と、それに対抗する病原体側のあらたな戦術が解明され、これを標的に創薬やワクチン開発への応用が期待される。
JAK's SOCS: A Mechanism of Inhibition
Immunity, Volume 36, Issue 2, 157-159, 24 February 2012
1999年に安川君が膨大なSOCS1変異体を作製して解析を行った結果、我々はSOCS1のKIRはpsudesubstrateだろうと予想した。それを今日まで延々と流布させてきたが、今日修正を迫られることとなった。KIRはJAKの活性中心に潜り込むのではなく何処か別の場所でJAKと結合し、その結果活性中心の構造を変化させて酵素活性を抑制するのであった。Bacon,Nicolaらは大量の組替え体タンパクを使ってNMRと古典的な酵素反応のkineticsを追うことで新しいモデルを提唱している(Immunity, Volume 36, Issue 2, 239-250, 16 February 2012)。おそらくこれが正しいだろう。生化学の見事な成果だと思う。JAKの阻害剤はがんやリウマチの治療薬として多くの会社が開発にしのぎを削っている。この成果は全く新しい作用機序のJAK阻害剤の開発に役に立つことだろう。それにしても我々の予想が裏切られたことは口惜しい。当時はあらゆるデータと他の阻害分子の報告から最も可能性の高い機構であると信じて仮説を発表したわけだ。それが技術の進歩によって修正された(もちろん全部間違っていたわけではない)。これが科学の進歩の一例だろうと思う。修正を受けより正しい、しかも革新的なモデルが提唱されたことは科学の進歩という意味では大いに喜ぶべきことでもあるのだ。
九州大学時代に準教授として活躍し、慶應ではかんりん丸プロジェクトで特任准教授としてラボを構えていた小林隆志君が4/1付けて大分大学医学部感染予防医学講座の教授として就任することが決まりました。最近少ないうれしいニュースです。
吉田秀之君は長年JAK阻害剤のTH分化への影響を調べてきました。これまでJIなどに共著で既存のJAK阻害剤がTh1,Th2は抑制するもののTh17は増加させることを示してきました。今回リウマチ治療薬として開発中のファイザー社のCP690550というJAK阻害剤が同様にTH17を促進してしまうこと、コラーゲン関節炎モデル(CIA)は抑制するのに自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は増悪化させてしまうことを見いだしました。その理由としてCP690550は試験管内でSTAT3の抑制効果が弱いことが原因と思われます。JAKの強制発現から細胞内ではJAK1に対してCP690550は抑制が弱い可能性が示唆されました。本論文はどうしても早く出すためにBBRCに投稿しましたが発見の価値はJIを超えると思います。
Low dose CP-690,550 (tofacitinib), a pan-JAK inhibitor, accelerates the onset of experimental autoimmune encephalomyelitis by potentiating Th17 differentiation
D4杉山さんの論文がInt.Immunologyにacceptになりました。
Smad2 and Smad3 are redundantly essential for the suppression of iNOS synthesis in macrophages by regulating IRF3 and STAT1 pathways
本論文ではLysMCreを用いてマクロファージにおけるSmad2/3の機能を解明しています。当初Smad2単独cKOでは思うような差が出せず、Smad2/3-DKO(なかなか生まれない)のマクロファージを使っての大変な実験でした。実に根気のいる仕事でしたが杉山さんはこれを粘り強く見事にやってのけました。TGFβのマクロファージに対する作用としてはNO産生の抑制とサイトカイン産生抑制です。LPSやインターフェロンによってNO合成酵素が誘導されるのですが、TGFβはこれを強力に抑制します。杉山さんは骨髄由来マクロファージを用いてSmad2とSmad3が相補的にこの抑制に関与することを示しました。また驚いたことにTGFβがない状態でもSmad2/3欠損マクロファージは非常に強くNOやサイトカインを産生することを見いだしました。このことからSmad2/3が直接IRF3とSTAT1に作用して抑制する新しい機構を提唱しています。今後Smad2/3のM1/M2分化への影響やTGFβ非依存的なSmad2/3のマクロファージ抑制作用にも興味をもたれると思われます。
11/12箱根の古風な旅館での現代的なさわやかな結婚式、披露宴だった。関谷君のマンガと俳句の披露もあった。
二人分しゃべったのでかなり長くなってしまった。予行演習では15分を超えることはなかったのでその程度とは思うが30分くらいしゃべってたと言われた。それはないとおもう。スピーチ原稿へリンク。
多数のご応募ありがとうございました。募集は終了いたしました。
私どもの研究に参加してくれる特任助教を募集します。採用はH24年4月からで学位取得見込み者も歓迎です。もしもっと早く始められるかたはH24年1月からでも可能です。
保証できる期間はH26年3月末(H24年4月からですと2年間)までですがgrantがとれれば延長は可能です。研究内容はT細胞のリプログラミングで、細胞培養や細胞生物学に習熟したひとを希望します。免疫に経験がなくても再生医学などでリプログラミングの経験があればなおよいでしょう。待遇は学振PD並みですが自分自身で研究費が獲得できれば優遇できます。照会できるかたの連絡先(メールアドレス)を添えてCV、業績目録(様式自由)を下記までメールで送付ください。
JEMon line Takahashi et al. 208 (10): 2055
高橋さんは2008年12月から当教室に所属しています。臨床の助教からの転身で、マウスを扱ったことは初めてでした。しかしポスドク期間わずか2年余りで論文をJEMに発表できたことは本人の才能と努力の証でしょう。もっとも最初の投稿は昨年の夏だったので本当に短い期間で集中して仕事を仕上げてくれました。その技術力、集中力、構想力は称賛に値すると思います。
内容的にはTregのplasticityと機能異常の話でtimelyな話題なのだが、すでに一部の表現型はRudenskyらのグループとImmunityとCellに報告しており、その点をつかれた。しかしSOCS1を欠損したTregがなぜFoxp3を失い、なぜvivoでは抑制機能を持たないか分子レベルで明らかにした点は大きい。さらにTregが樹状細胞に働きかけてeffectorのTh1/Th17分化を規定するというinstruction説を打ち出しているのが極めて新しいのだが、残念ながらさらにハイランクのjornalでは理解してもらえなかった。
JSTにプレスリリースを依頼したが諸般の事情で却下された。せっかく原稿を用意したので添付する。一般のかたはこちらをどうぞ。
現在抗炎症機能をもつ細胞としては抑制性T細胞(Treg)が中心的であると考えられている。TGFβやIL-10の供給源としてもTregは重要である。しかしTregの発生、維持に関する制御機構はほとんど知られていない。最近TregがFoxp3を失いeffectorThとなって自己免疫疾患に関与するのではないかという説(exFoxp3説)やFoxp3を失わないまでも炎症環境化ではTregがサイトカインを出して炎症に寄与するという説が出されている。最近のNature MedicineでもMS(多発性硬化症)患者ではFoxp3+IFNγ+T細胞が存在することが報告されている。
今回SOCS1のTregにおける機能について集中的に解析を行った。まずFoxp3Creマウスと交配しTreg特異的SOCS1欠損マウスを作製したところ皮膚炎や肝炎などの自己免疫疾患様の症状を呈した(Cell. 2010 Sep 17;142(6):914-29.)。SOCS1のnTregにおける役割を解明するために、in vivoでその抑制能を検討した。RAG2欠損マウスへのnaïve T細胞とそれぞれのnTregの移入実験では、SOCS1欠損Foxp3陽性nTregを移入した方が腸炎の抑制効力が劣っていた。そこで、RAG2欠損マウスへそれぞれのnTregのみを移入して、nTregの運命を検討した。GFPでマーキングしたFoxp3陽性T細胞を移入した所、4週後にWT nTregは約60% がFoxp3 陽性を維持しているのに対して、SOCS1欠損nTregは40%までFoxp3陽性率が低下した。SOCS1欠損nTregを移入したRag欠損マウスではFoxp3陽性、陰性どちらの分画からもIFNγやIL-17の産生が認められた。これらの結果から、SOCS1がnTregにおいてFoxp3の安定性およびサイトカイン産生抑制に寄与することが明らかとなった。
次にIFNγSOCS1両欠損T細胞で調べた。するとFoxp3の減少は見られなくなった。STAT1はSOCS1欠損Tregで過剰に活性化されていたがIFNγSOCS1両欠損T細胞ではSTAT1は正常であった。よって自身が出すIFNγによってSTAT1が過剰に活性化されることでFoxp3が不安定することが示唆された。しかしFoxp3が安定でもこのIFNγSOCS1両欠損Tregはvivoでは抑制能がなくnaiveT細胞の移入による腸炎を抑制できなかった。よく調べてみると移入したTregからIL-17が産生されeffectorもTh17が増えていた。同様の変化はIFNγ欠損TregでもみられたがIFNγSOCS1両欠損Tregのほうが顕著であった。つまりIFNγがなくなったことでTh1による腸炎はおこらなくなったかわりにTh17が顕著に誘導されたことによって腸炎が起こったのだ。
これらの結果はFoxp3の増減はTregからのサイトカイン産生には直接関係ないこと、またTergからIL-17が出る(Th17型Tregになる)ことでeffectorもつられてTh17に分化する(instruction説)ことを示している。このときSOCS1欠損TregではSTAT1ではなくSTAT3の過剰な活性化が起こっていた。試験管内でもTregの培養上清はナイーブT細胞をTh17へ分化誘導させやすくしていた。つまりTregのなかでSTAT3が活性化されすぎるとIL-17(おそらくIL-6なども)を出しやすいTregになり、Tregから出るサイトカインがさらに樹状細胞に対してIL-6やIL-23を誘導してナイーブT細胞をTh17へと誘導する、というモデルが考えられる。
Tregがeffectorの分化の方向性を決めるとしたら非常にユニークで新しい考えだと思われる。TregはCTLA4を高く発現しておりナイーブT細胞よりも先に樹状細胞と相互作用すると考えられているのであながちあり得ない話ではない。これからの問題は炎症でみられるIFNγ+Foxp3+T細胞やIL-17+Foxp3+T細胞が単に炎症の結果なのか、あるいは樹状細胞のinstructionを介して自己免疫疾患などの原因ないし増悪化に寄与するのか、これを明らかにする必要があるだろう。また治療の観点ではSOCS1をTregで強化することでexFoxp3やTh1Treg、Th17Tregの出現を減らせるのかもしれない。
中川竜介君はうちの助教でしたが昨年山梨大学の準教授で異動しました。彼のうちでの仕事がこのほどJournal of Immunologyにacceptされました。この論文は森君のIIと同じ系統の仕事でファイザーのCPではなくMerkのpyridone6を使っている。pyridone6は構造はCPと異なるが活性はほぼ同じでpan-jak阻害剤である。JAK阻害projectを開始したころCPは手に入らなかったがpyridone6は合成法が論文に出ていたので自前で大量に合成したのだった。しかし直接vivoには使えなかったのでPLGA化を行った。JAK阻害剤がTH2型のアレルギーによく効くだろうというのは以前山田さんとやったサイトカインのシミュレーションからも予想できていた。当然IL-4のシグナルをブロックするのでアトピー性皮膚炎モデルのNg/Ncマウスをpyrideon6は軽快させる。しかし興味深いことにTh17は上昇していたのである。これは吉田君のin vitroの実験で確認された。森君の論文の紹介でも述べたがJAK阻害剤は何故かSTAT3(Th17に必須)の阻害効果が弱くSTAT1やSTAT5(Th17を抑制)を先に抑えてしまうためにある濃度の範囲ではTh17を増やしてしまう。アトピー性皮膚炎の場合は実はこれがむしろ治癒にプラスに働く。Th17からのIL-17やIL-22はケラチノサイトの増殖を促進したり常在菌感染を防御するディフェンシンを増やしたりして皮膚の傷を早く治してくれる。実際にIL-17やIL-22の直接投与でもアトピー性皮膚炎の改善が見られた。よってJAK阻害剤はアレルギーには極めて有望であると結論できる。ファイザーやMerkはぜひ塗り薬としても開発して欲しいものだ。
森君は整形外科から派遣されて来た大学院生でうちには2年間しか在籍していませんでしたが、短い期間でよく論文をまとめてくれました。執筆の多くは宮本先生(整形、かんりん丸講師)に完全にお願いしてしまいました。宮本先生は 英語がすごい。私は英文校正依頼なしには一行も正しい英語を書けないのに宮本先生は校正なし。やはり英語は才能か。
IL-1β and TNFα-initiated IL-6-STAT3 pathway is critical in mediating inflammatory cytokines and RANKL expression in inflammatory arthritis.
本論文の仕事は次世代関節リウマチの飲める特効薬!として期待されているファイザーPfizer社の tofacitinib (CP690550)の作用機序を明らかにしようと始まったものです。CP690550はJAK阻害剤として知られています。確かにSTAT1やSTAT5をよく抑えSTAT3もやや有効濃度が高いものの十分強く抑制できる。森君はCPがIL-1によるIL-6やRANKLの発現も抑えることに気がつきました。もしかしたらCPはJAKだけでなくNF-kBやMAPKも抑えるのでは?という疑いを持ちました。しかしCPはIL-1のシグナルには全く影響を与えなかった。結局わかったことはIL-1で誘導されたIL-6が間接的にSTAT3を活性化しこれがさらにIL-6やRNAKLの発現を誘導するといういわゆる平野先生らの『IL-6-アンプ』が効いていて,CPはIL-6-STAT3のところを抑えているというものだった。確かに関節炎モデルをCPはよく抑え、そのときSTAT3の活性化も抑制している。2001年に(もう10年も前か!)久留米大学整形外科の庄田君がドミネガSTAT3やSOCS3をアデノウイルスで関節に過剰発現させると関節炎がよくなることを示したが、まさにCPはSOCS3をmimicしていることになる(ともにJAK阻害剤だから当たりまえか。。しかし10年前の私たちの予想がもうじき臨床で結実するというのは他人の仕事はいえうれしいものだ。)。一方で自己免疫なのでTh17も効いているだろうと思ったがこちらはそれほどでもなく、in-vitroではCPはむしろTh17を増やしてしまう。これはそう驚くべきことではない。すでに吉田(秀)君がpyridone6で示している。関節炎は特に滑膜細胞からのIL-6が主要な役割を果たしていてT細胞は活動期ではそんなに効いていないのかもしれない。ともかくもCPはSTAT3を抑えて関節炎を抑制する、TNFもIL-1もIL-6やRANKLを誘導するためにある。というのが本論文の主要なポイント。
若林君は慶應1回生の大学院生。彼の論文がJBCに掲載されました。
Histone 3 lysine 9 (H3K9) methyltransferase recruitment to the interleukin-2 (IL-2) promoter is a mechanism of suppression of IL-2 transcription by the transforming growth factor-β-Smad pathway.
TGFβの重要な作用のひとつはT細胞からのIL-2の産生抑制である。本論文で若林君はその分子機構に迫りました。まず彼はSmad2もしくはSmad3欠損T細胞を用いてTGFβのIL-2抑制にはSmad2およびSmad3が重複して機能することを示しました。次にIL-2プロモーターを用いてSmad2/3はプロモーター部位に会合して(直接DNAに結合ではない)プロモーター活性を抑えることを示しました。転写の抑制にはヒストンのメチル化が重要であることが知られています。Smad2,Smad3欠損T細胞と野生型T細胞を比較したところ、IL-2プロモーター上のヒストンH3のK9のメチル化がSmad依存的に起きることを見いだしました。そこでヒストンH3K9のメチル化酵素のうち代表的なSedbd1とSuv39h1を調べたところともにSmadと結合してIL-2プロモーターを抑制することがわかりました。しかしT細胞への強制発現ではSuv39h1が強い抑制活性を持っていました。そこでSuv39h1のRNAiを行ったところIL-2の産生が上がりTGFβの効果も減弱していました。よってTGFβはIL-2プロモーター上でSmad-Suv39h1を介してヒストンH3K9のメチル化を誘導してIL-2を抑えるという仕組みがあることがはじめて証明されました。
本研究では大学院生の田宮君がreviseの実験の多くを行い、講師の高田君が助言を行ってくれました。彼らの助け無しには完成しなかったでしょう。しかし話の流れ自体は若林君がが見いだして実験を行ったもので、入学まで臨床経験しかなかった彼が、難しい生化学の仕事をやり遂げたことに賛辞を贈りたい。
今日は以前秘書をしてくれていた西由起子さんの結婚式と披露宴だった。乾杯のあいさつとひとことを。
7月2日は守谷市でのリトリート(免疫適塾)、その翌日、本日は恒例のソフトボール大会。産総研の辻先生のご厚意でグラウンドを借りて試合を行う。今回は昨年の反省に基づきルールを明確化した。吉村研をA,B2チームにわけて、試合時間は30分を超えると新しいイニングに入らないようにした。4チームによるトーナメント制で3位決定戦もやることにしたので一チーム2試合づつ行うことになる。吉村研ABどうして優勝もしくは3位決定戦を行う可能性はあるのだが、気にしないこととする。第一試合は皮膚科と吉村研Aチーム。いきなり強力な相手だ。皮膚科は強かった。2-1でリードするも3回(最終回)裏2アウト満塁のピンチ。昨年も同じような場面で打たれて逆転サヨナラ負けを喫した。こう見えてもガラスのハートの持ち主なのだ。しかし今年は球に自信があった。最後のバッターを打ち取りゲームセット。薄氷の勝利を得る。第二試合は吉村研Bチームと小安研チーム。A,B力は均等に分けたつもりだったがBのほうがやや経験者が少ない。小安研も強い。小安研ピッチャーの佐々木君の球は山なりで内野ゴロの山を築いた。2回戦からよく打たれた。内野に転がされるともうだめ。こちらは1-5で簡単にひねられてしまった。第三試合は3位決定戦。吉村研Bチームと皮膚科。私もさすがに疲れたのでピッチャーを関谷君に代わってもらった。これが素直なストライクで3連打され満塁。これはいけないと私がマウンドに戻ったがボールに切れがなくなりさらに打たれた。一回に6点とられてそれが致命傷となった。2回から長谷川君に投げてもらい、こちらも結構打って反撃したものの劣勢を挽回できず5-9で破れた。
今回はボールの握り方を変えて球速もコントロールもよくなった。毎日夕方こつこつピッチング練習を積んだ効果が出た。ストレートだけだが緩急を多少は使えたと思う。しかしやはり真ん中に集まると集中打を浴びた。速くても打ちごろなのだろう。速い球ほど芯に当たると飛ばされる。次回はぜひ変化球を身につけたい。
第四試合(優勝決定戦)は吉村研Aと小安研。1回裏小安研が1点先制。2回表にこちらが2点をとり逆転するも3回裏に2点取られて逆転を許す。普通ならここで試合時間がなくなり終了だったのだが、まだ6分あるというので4回の表裏の攻防となる。4回表ツーアウトながら満塁。ここでM2の柏木君。実は彼は昨晩小安研の某M女史にさんざん飲まされて完全にグロッキーでこれまでいいところなし。しかしここで打たなければ男ではない。激を飛ばしたものの逆に緊張したのかボテボテの内野ゴロ。万事休すかと思ったが、勝利の女神はまだ見放していはいなかった。ショートのF先生がめずらしくエラー。一塁悪送球でファーストが逸らす間に2人返って逆転した(我々が勝てたのは単に運がよかっただけか。。。)。さらに連打で2点追加し3点差にリードを広げた。4回裏ランナーをひとり出したものの最後のバッターの白木さん(女性)をファウルフライに打ち取ってゲームセット。熱戦を制し2年ぶりの優勝。最後の白木さんには手加減せずに3振にとろうと結構速い球を投げたのにバットにあてられフライを打たれてしまった。聞くとボストンで少し野球をやっていたという。どうりで。3試合を投げて相当にくたびれたが、久しぶりに汗をかいてすがすがしい気分になった。
計11回を投げて14点くらいとられた計算になる。三振は5,6個程度か。さすがに翌日肩があがらなくなった。
<p> 今日はこの3月まで在籍した整形外科からの大学院生森智章君の結婚式と披露宴だった。<a href="http://new.immunoreg.jp/modules/pico_jinsei/index.php?content_id=34">詳細は次ページを。</a></p>
これまで一流製薬会社約10社(いづれも国内製薬メーカーで上位の企業ばかり)から声をかけられほとんどすべて最終面接にまで進みながら常に敗退して来たY君、ようやく内定をもらえました。化学メーカーではtop10に入る某企業の製薬部門。一時はどうなることかと気をもんだが、本人もだろうが私もほっとした。最近は海外留学しろとばかり言っていたのだが。面接のあったその日に内定の連絡があった。だいぶ面接慣れしてきたのか、それとも思いっきり力のはいった推薦書が効いたのか。いづれにしろ博士課程を出ると企業の研究職にも有利、という説は裏付けられた。何にしろよかったよかった。
On lineで出ました。
JST,慶應とのプレスリリースも。http://www.jst.go.jp/pr/announce/20110520/
Immunityに出していた市山君の論文がやっとacceptになりました。ほほacceptと言われてから3ヶ月近くたったので全く異例のことです。一時はrejectかと気をもみましたが、粘り強くやりとりをしてようやくacceptにまでこぎ着けました。
市山君は当教室を先春卒業し別教室に一時移籍後すでにアメリカに留学中。そんななかでreviseの作業は困難を極めましたが多くを学ぶことができたはず。これを糧にアメリカでも更なる活躍を期待したい。reviseには理不尽な要求であることも多いが今回のはきわめてまっとうで追加実験で論文はかなりよくなったと思います。
この論文はT細胞特異的Smad2/3欠損マウスのリベンジでもありました。Smad2/3-KOは考えられないほどの労力と時間と資金をかけたにもかかわらずJIどまり。私自身やるかたない思いを抱き続けてきましたが、そのなかなからSmad非依存性の応答遺伝子を見つけ出した市山君の頑張りが今回の成果につながりました。それにしてもタイトルまでかえられてしまった。"Transcription factor Smad-independent T helper 17 cell induction by Transforming-Growth factor-b is mediated by suppression of Eomesdermin" Ichiyama et al. Immunity
Th17のマスター転写因子であるRORgtはTGFβによって転写誘導されますが、Smad2/3-両方が欠損したT細胞でもRORgtは誘導されることからTh17の分化はSmad非依存的な経路によって誘導されると考えられてきました。しかしTGFβのSmad非依存的経路とは何か?どんな遺伝子がRORgtの誘導にかかわるのか?現在でも完全にはわかっていません。本論文ではまずSmad2、Samd3の両方が欠損したT細胞でTGFβで増減する遺伝子(つまりSmad非依存性応答遺伝子)をピックアップしました。これらの遺伝子をT細胞に導入したところ、eomesdermin(通称eomes、エルメスではない)という遺伝子が強力にTh17分化を抑制することがわかりました。eomesの発現はTGFβによってSmad非依存的に発現が抑制されます。もし抑制されないとTh17誘導が起こりにくくなります。eomesは転写抑制因子として働きRORgtのプロモーターに結合してRORgtの発現を抑制します。なのでTGFβがeomesの発現を抑えることでTh17分化を促進していることになります。
ではSmad非依存的経路とは何か?市山君は様々な阻害剤を用いて検討したところ、JNK阻害剤がeomesの発現抑制を解除しTh17分化を抑制することを見いだしました。TGFβはJNKを活性化することは以前から知られていましたので、全く新しい経路の発見とはいきませんでしたが、ともかくもTGFβ-->JNK-->eomesの抑制-->Th17促進というスキームが完成しました。JNK阻害剤はTh17によって引き起こされる自己免疫疾患EAEモデルを著しく改善しました。この経路の発見によって新しい治療戦略を提示できたと思います。
しかしeomesはRORgt誘導を抑制するものであって、RORgtを本当に誘導する本体はまだわかっていません。この単純そうで難しい問題こそがTh17に残された大きな問題で今後も取り組んでいきたい課題です。分子のレベルで免疫を理解して治療方法を開発する、という当ラボの方向性に興味をもってくれる学生の参加を期待します。
科学新聞社が掲載してくれたそうです。
樋渡清司君は鹿児島大学外科学教室に所属していましたが学位取得後、基礎研究も手がけてみたいと平成20年12月より慶応ラボに参加してくれました。主に腫瘍形成や転移におけるマクロファージの役割をSOCS3欠損コンデショナルノックアウトマウスを使って解析しました。彼の在任期間は実質1年半程度でしたが、その間に大いに仕事をしてくれて立派に論文をまとめあげてくれました。それがようやく日の目を見ました。その後昨年H22年9月より愛媛大学に移動しましたが現在は臨床を中心に活躍しています。当ラボで身に付けた科学的な考え方や実験方法は実証に基づいた医学(evidence-based medicine)の体得に大いに役立ってくれるでしょう。
Suppression of SOCS3 in macrophages prevents cancer metastasis by modifying macrophage phase and MCP2/CCL8 induction Cancer Letters 308 (2011), pp. 172-180
本論文ではまずマクロファージ特異的SOCS3欠損マウスがBL16メラノーマの腫瘍移植モデルおよび転移モデルに抵抗性を示すことを見いだしています。SOCS3欠損マクロファージは通常M2タイプと言われ腫瘍の成長を促進すると予想していましたが逆の結果で驚きました。樋渡君は腫瘍抽出液にTLRを介したマクロファージ活性化因子があることをつきとめWTとSOCS3欠損マクロファージで活性化の違いを比較しました。その結果SOCS3がないと炎症性サイトカインTNFαやIL-6の産生が低く、炎症が抑制されていることがわかりました。このような炎症性サイトカインの低下は全身性に腫瘍抵抗性(あるいは全身状態の改善)を導くものと考えられます。一方で腫瘍内のマクロファージはSOCS3欠損のほうが集積していました。アレイ解析の結果、SOCS3欠損マクロファージはSTAT3を介してMCP2/CCL8を高産生していることがわかりました。MCP2は単独投与で腫瘍の転移モデルを抑制しました。MCP2の抗腫瘍効果のメカニズムは十分わかっていませんが、マクロファージでSOCS3を低下させることでケモカインを介した抗腫瘍効果を増強できることが明らかとなりました。本研究は炎症と転移の関係に新しい知見を加えたものとして高く評価できると思います。
大学院生の石埼君(群馬大内科出身)の論文がGenes to Cellsに受理されました。 慶應ラボがスタートした年に参加してくれた院生の最初の論文ですので私も喜びひとしおです。Spred1コンデショナルKOマウスとmiR126を組み合わせた内容でmast-cellのIgE応答をmiR126がSpred1を介して正負に制御していることを示した論文です。Spred1はIgE受容体からのERKを抑制しサイトカインの産生を抑制しています。miR126の強制発現によってSpred1が減少しサイトカイン産生が増えます。Spred1欠損マスト細胞ではmiR126の効果が見られないことからmiR126--Spred1--ERK--サイトカイン産生という制御系が成り立つことをきれいに証明しました。
Spred1/2-DKOの解析等まだまだこれから発展させるべき仕事の端緒ですが、とりあえずひと呼吸おいて次につなげて欲しいものです。
miR126 positively regulates mast cell proliferation and cytokine production through suppressing Spred1
Genes to Cells (2011) 16, 803–814
関谷君の論文
"The nuclear orphan receptor Nr4a2 induces Foxp3 and regulates differentiation of CD4+ T cells"
この論文ではオーファン核内受容体NR4a2がFoxp3の誘導とIFNγの抑制に重要な役割を果たすことを示しています。NR4aファミリーは生体内で神経系や造血系で重要な役割を果たしていることがすでに知られており今回免疫系、特にT細胞での機能が明らかになりました。最も重要なことはNR4a2は単独で抑制性T細胞のマスター遺伝子であるFoxp3を誘導できることで、TGFβに次いで、人工的にTregを作り出しうる可能性が示されました
詳細はプレスリリース参照。
関谷君は当ラボに来てまだ2年半ですが、優れた実験技術と論理的な考察で姉妹紙に短期間で論文を発表できたことは快挙です。内容的には論文2つ分以上の実験データが詰まっています。今後もこのファミリーを中心にエピジェネテック転写制御による免疫コントロールという極めて大きな、先進的分野を開拓して行ってもらいたいものです。
炎症を抑える新しいたんぱく質を発見
-花粉症などのアレルギー疾患や、炎症性疾患の新たな治療法開発に期待-