微生物学の試験はおおむねよくできていたが30問以上間違っていたものに答案を返してやり直させて再提出させることにした。ところが学生らがやってきて『自分の答えはあっている!』という。人間のやることだ。模範解答がずれたりして本来正解を間違いにして間違いを正解にすることもないわけではない。さっそく調べると彼らの言う通りで、何故か91番から96番にミスがある。生来のザル人間である。5,6点低く見積もられてやり直しをさせられた学生には申し訳ないが、『自分の勉強になった』と思って大目にみてくれ。なお40番、致死性のリンパ球増殖性疾患はEBウイルスであり解答は7である。なぜかこれも間違っていた。91番はクロストリジウムとバクテリオロイデスは偏性嫌気性なので1と3が正解。問題を修正するのを忘れたらしい。
ただ阿部先生の問題の71番はIV型ではないかと言って来た学生がいたがよく調べるとやっぱりVI型が正解。『コレラ菌は他のグラム陰性菌の細胞壁(ペリプラズム)に,VI型分泌装置を用いてVgrG-3を注入してペプチドグリカンを加水分解する。』これは私が正しい。
とはいえ褒められたものではない。教授としては学生に間違いを指摘されては恥ずかしい。ザルは一生治らないので常に他の先生にチェックをお願いするようにしなければ。今回模範解答まで見直さなかったのがよくなかった。まあ私のミスで『不合格』となった者はいないのでそれは安心して欲しい。再度見直ししたら皆5~6点あがっていたので喜んでよい。
つらつら考えていたのだが、やはり私に教育にかける時間が足りないのが一番いけなんいんだな。問題はつくっても、解答をつくる(検証する)時間を十分確保できていない。出張続きですべてに余裕がない。でもそうしないと干上がる。ジレンマだがそこをやりきるのが日本の教授の宿命というものだろう。
稲葉真弓さんに初めて会ったのは確か久留米大学の時代である。私の異動に伴って2000年に九州大学大学院に入学、2003年に医科研に移り2004年に学位を取得している。その後も医科研の中内先生のところでポスドクをした後にアメリカの山下先生のところに留学、それからもう随分長くミシガン大学にいるのではないだろうか。彼女の論文がNatureに掲載されていた。分野違いのため原著は難しいが、新着論文レビューでも紹介されている。幹細胞の不等分裂のメカニズムの発見のようだ。これ以外にも稲葉さんは山下研で多数の優れた論文を出している。いよいよアメリカで独立を、と考えているようだ。
稲葉さんも普通の物差しではとらえられない大人物だった。たいした紹介状もなくアメリカに渡った野口英世みたいに、確か山下先生のところへは押し掛けるようにして行って熱意で雇ってもらったのだった。九大での学位の研究はSTAP-2-KOマウスの作成から解析まで、ひとりで全部やったすごい仕事だった。ところが九大の学位の公聴会では発表が極めて杜撰で審査をやり直させられた。前代未聞のことだった。学位審査の時はすでに医科研に移っており練習が十分できなかったし、優秀な彼女なら何の問題もないはず、とたかをくくっていた私のせいでもある。しかししどろもどろ、途中で舞い上がってしまったのかレーザーポインターを振り回したので審査の教授がよけまわっていたのを今でも思い出す。それがこんなに立派な研究者になって、嬉し涙が出てくる。ぜひアメリカで独立して欲しいものだ。
今日は免疫学の本試験。まだ数名しかみていなが記述式はあきれる答案ばかり。4問のうちひとつは講義のなかで何回も説明した皮膚移植に関するもの。2つは実習レポートの課題そのまんま、である。このblogでも紹介したではないか。一問はわざわざ河上先生の講義のときに黒板で解説した。決して難しくはないはず、なんだが。。過去問はよくできている。彼らには当然か。うーん、やっぱ教え方が悪いんだとすこぶる自信をなくす。
まあ約束通り、出来なかった学生は手書きノート3冊提出だ。エッセンシャル免疫学一冊を写本してもらおうと思う。写経みたいなもんだ。一心に念じつつ写せば必ず意も通る、、、に違いない。
7/11 福岡で皮膚科の研究会で講演を行った。いつもの西本君のH1-T細胞をTh17にして移入して乾癬様の病態を起こす話と、腸内細菌でTh17が誘導されアレルギーを抑制するという話。Th1/2/17は三すくみの状態にある。普段アトピー性皮膚炎などアレルギー疾患を診られている皮膚科の先生には思いのほかアピールできたようだ。
九大の皮膚科の古江先生に久しぶりにお会いした。私は10年ほど前に原因不明の皮膚病に罹患した。手には小さな水疱が多数でき、背中や胸にも湿疹が広がった。不思議なことに顔には出ない。あちこちの皮膚科をまわったが原因はわからず、軟膏を塗っても効果はなかった。思いあまって大学病院を受診した。若い医師が最初にみてくれたがわからない。そこに古江教授が通りがかって、これは「自家感作性皮膚炎」だ、プレドニンを内服しなさい、と指示された。見立ての通り数ヶ月間悩まされた皮膚炎がステロイドによってあっという間に軽快した。さすが教授と思ったが、今日古江先生に会ってその話をすると、実は先生自身が「自家感作性皮膚炎」持ちなのだそうだ。時にステロイドが手放せないらしい。なるほど即時に診断できた訳だ。ちなみに完治は難しく症状が出るたびにステロイドに頼る必要がある。原因も抗原も未だに不明の疾患である。
呼んでいただいた福岡大学の今福教授は疫学がご専門だそうで、自己免疫疾患の起源について興味深い説を伺った。乾癬など自己免疫疾患がHLAと相関することはよく知られている。何万年前だか現人類の人口が激減したことがあって、我々はそのときの子孫で思いのほか遺伝子的には均一なのだそうだ。そのなかでおそらくある感染に有利なHLAを持ったひとが残った。その感染がなくなった今では特定のHLAは自己を認識しやすい性質だけが残って自己免疫疾患にリンクしている。つまり特定のHLAは何らかの理由で生存に有利であったはずだと言われる。そうでないと人口の3%に乾癬に関連するHLA遺伝子が残っていることが説明できないそうだ。なるほど、そういう見方もあるんだ。自己免疫疾患の発症は何らかの感染と関係があるのではないかと疑われているが、これも説明できるような気がする。
7/9 今日から3日間東大伊藤国際学術センター内伊藤謝恩ホールでがん免疫学会/マクロファージ分子細胞生物学国際シンポジウム合同国際シンポジウム(ICCIM2015)が開催される。これからは腫瘍免疫だ!(腸内細菌じゃないんかい?)というわけで私も勇んで参加する。国際シンポジウムなのに行ったらずっと日本語だった。これはすごいコペルニクス的発想の転換ではないか?朝から超満員のはずである。「日本語での国際学会」大会長の松島先生の革命的なアイデアに違いない。と称賛したら一日目は日本がん免疫学会の集会でもともと日本語でやることが決まっていたという。本日最後の特別講演からずっと英語だそうだ。ひどく残念な気がする。それにしても大変な熱気である。朝9時からトイレ休憩もほとんどなく講演が詰まっている。CTLA4抗体、PD1抗体の成功から、第四のがん治療法と言われた腫瘍免疫療法がそのうち第一選択になる日が来るのかもしれない。当教室からは大学院生の近藤君が発表した。注目されたのだろう。質問攻めにあっていた。はやく論文として発表しなければ。
腫瘍免疫は免疫応答のリードアウトとして時々使っていた。特にSOCS1は立派な免疫チェックポイントのひとつで十分創薬標的となりうる。細胞外は競争が激しすぎる。細胞内まで範囲を広げるとまだまだ多くの標的があるように思う。
2日目はやはり英語だったが、腫瘍免疫の大御所と言われる人たちが次々に講演をしたのでこの分野の現状がよくわかった。松島先生はCD4を消すと抗腫瘍効果が極めて強くなりPD1抗体との併用効果も見られるという発表をされた。抗CD4抗体をつくるベンチャーを立ち上げて来年臨床試験をするそうだ。この、教科書とは反対の常識破りの方法がうまくいけば本当の『コペルニクス的発想の転換』だろう。うまくいくことを祈りたい。
特に間違いが多かった問題. 西沢先生の出題。
103 真菌が起こす病気について正しい記述はどれか。
多くは4を正解としているが、ミコナゾールはエルゴステロールの生合成の阻害剤で細胞膜に作用する。細胞壁とは大違いだ。2が正解。健常人にも感染してクリプトコックス症を引き起こす。3は侵襲感染ではなく日和見感染。
採点の結果、おおむね大変よく出来ていることがわかった。やはり過去問まんまでは彼らにとっては赤子の手を折るよりも簡単だったか。ただ5択で30問間違えるのはいただけない。80点未満は再提出させようと思う。もちろん理由をつけてレポート形式で。
7/7お昼から札幌に向かい、夕方一般向けのセミナー。翌朝薬学部3年生向けに講義を行ってそのまままた東京に戻った。札幌は肌寒いくらいで壮快だったが東京に戻ると湿度100%と思えるほど蒸していた。
一般向けのセミナーは伊藤さんの脳梗塞/BTK阻害剤と森田君の内皮細胞リプログラミングの話。このふたつを無理矢理結びつけるのはやはり無理がある。話しているうちに自分でも混乱してくる。それでもたくさん質問していただいた。
薬学部3年生の講義はサイトカインのまとめとTregの話。いつものようにアスピリンは何で解熱作用があるの?と聞くが薬学なのに答えられない。免疫抑制剤の作用点も聞いたことがないという。薬理で習ったやろ、と聞くとそんな気がするという返事。隣で担当の先生が頭を抱えている。学生は試験がないと覚えようとしないし、試験が終わればすぐに忘れる。それでいいんだと思う。少しずつ澱のように知識は溜まってくるだろう。そのプロセスとして講義と試験は重要なんだと自分に言い聞かせる。
東京に戻ると微生物学の本試験。いつものように問題番号のミスがあった。ザルで申し訳ない。修正に時間がとられたので『試験時間を延長して下さい』という声がしたが無視。なに新作は少なく過去問がほとんどだったので皆かなりできている。問題は階段教室での受験。常々思っていたがこれはいかん。見たくなくても前のひとの答案が否応なく眼に入る。自信がない問題で、もし自分の答えと前のひとのが違っていたら前の解答に書き換えたくなるのが人情だろう。でもそんな時は大抵自分のほうが合っている。書き換えて間違いになることが多い。ひとのを見てもろくなことはない。やっぱり自分の解答に自信をもつことだ。もちろん意図的に見てはいけない。すぐに不正行為で捕まる。試験はフラットな部屋でやるように提言したい。
先日のNHKの撮影が夕方5時のニュース「シブ5時」で放送された。私はワンセグでしか見れなかったが、とても人様に見せられたものではない。実は朝の番組と勘違いして朝5時に起きて「なんだ飛ばされたのか」と思ってがっかりしたのだったが。
7/4,5 恒例の守谷での合宿。吉村研、小安研、皮膚科の天谷研の3研究室で始まったが昨年から本田研、今年から長谷研(薬学部)が加わって層が厚くなった。免疫適塾は福沢諭吉も学んだ緒方洪庵の適塾にちなんでいる。福沢諭吉の他大村益次郎、高峰譲吉(アドレナリン、タカジアスターゼの発見者)、手塚治虫の曾祖父も学んでいる。若い人たちが自由闊達に切磋琢磨して学んでもらいたいという気持ちから名付けられた。その期待にたがわず年々発表内容も質疑応答もレベルが上がって来たように思える。今回は雨のためレクリエーションのソフトボールは中止となったがいい研究会だった。
もうひとつの楽しみはバーベキューと夜の飲み会。若い人たちは夜遅くまで騒いでいて来年から宿泊お断りにならなければよいが。。私は昔酔いつぶれたことがあったが今年は胃の調子が悪く早々に引き上げた。
本田研、長谷研の参加もあって腸内細菌ばやりである。飲みながら勢いで『頭を良くする菌』『肌をきれいにする菌』を見つけて起業しよう!という話が出た。酔ったK君から『美人から便をもらって便移植はどうですか?』という提案。なるほど、これはいいかも。私は回収する役目を請け負おうか。
今朝は日本ーアメリカの女子サッカーを見ている。前半4-1で大量リードされている。開始早々かなり浮き足立っていた。もともと実力差は歴然としている。奇跡は起きるか?
結局5-2だった。アメリカの壁は厚く高かった。
Smad2 and Smad3 Are Redundantly Essential for the TGF-β–Mediated Regulation of Regulatory T Plasticity and Th1 Development
The Journal of Immunology July 15, 2010 vol. 185 no. 2 842-855
7/1に卒業生の瀧本智仁君が亡くなった。37歳。急性白血病だった。彼は九州大学医学部卒業後小児科で研修を行い平成18年に博士課程大学院に進学した。4年間私のところで研究を行い本論文を完成させて小児科に戻っていった。私の力が及ばずにtop journalには通せなかったが論文は極めて完成度が高くすでに200回以上引用されておりTGF-β研究において重要な地位を占める。この研究内容は永遠に生き続けるだろう。
TGF-βは強力な抗炎症性サイトカインであり、T細胞においてはFoxp3の発現を誘導して制御性T細胞(iTreg)を産み出すとともに、炎症性のTh1やTh2を抑制する。しかしTGF-βのどのようなシグナルがこれらの現象に必要なのか、またiTregの誘導とTGF-βのもつ抗炎症機能の関係もよくわかっていなかった。
TGF-βはSmad2およびSmad3を介して核内にシグナルを伝達する。瀧本君はT細胞特異的Smad2欠損(Smad2cKO)マウスとSmad2/3-両欠損(DKO)マウスを作製した。Smad2あるいはSmad3 の単独欠損T細胞では、TGF−βのiTreg誘導能もTh1抑制能も減弱し、さらに両欠損T細胞では完全に消失した。したがってTGF-βによるFoxp3の誘導とTh1の抑制はSmad2/3が重複して必須であることを示している。さらにDKOマウスは重篤な炎症のために生後一ヶ月以内に死亡したことから、個体レベルでもSmad2/3が重複して炎症抑制に寄与することが明確に示された。Foxp3の誘導がTGF-βの免疫抑制機能に必須かどうかを調べるためにFoxp3を欠損するScurfyマウスにTGF-βを連日投与したところ致死的な炎症が抑制された。血中の炎症性サイトカインの濃度もTGF-β投与によって低下した。また試験管内でもTGF-βはFoxp3が存在しなくてもTh1分化を抑制することができた。すなわちTGF-βはiTregの誘導に必須であるものの、Foxp3に依存しないメカニズムでも炎症や炎症性サイトカインの産生を抑制することがはじめて明らかにされた。
7/1 消化器(膵臓)の正宗先生にお呼びいただいて仙台に行き講演を行って来た。GIセミナーということで腸内細菌と食物アレルギー、そして当日Immunityにon lineとなったTGFβの話をする。分子レベルの話が多いので臨床系の先生にはどうだったろうか?しかし鋭い質問が続いて『にわか腸内細菌学者』にとっては冷や汗ものだった。腸内細菌は何処でTregやTh17をつくるのか?粘膜固有なのかリンパ節か?あるいはパイエル板か?これは実に難しい問題だ。少なくともリンパ節までいかなくてもいいような気はするが。。。
杜の都は肌寒いくらいだった。失礼とは思ったが正宗先生は名字から”伊達家”に縁浅からぬお方では?と伺うと『全く関係ありません。そもそも伊達政宗の”まさむね”は名前だし漢字も違います。”正宗”は岡山の名字だそうです』と笑って答えられた。よく聞かれるのだそうだ。
柏木君のImmunity論文がon-lineに掲載された。なんと編集部に『わかりにくいし長ったらしいから』とタイトルをかえられてしまった。
Smad2 and Smad3 inversely regualte TGF-beta autoinduction in Clostridium butyricum-activated dendritic cells
しかしこちらのほうがSmad2/3の反する機能に言及しておりオリジナルよりいいような気もしてきた。慶應とJSTにお願いしてプレスリリースもしてもらったらNHKが取材に来てくれた。なぜかNHKは腸内細菌が好きだ。腸内細菌とTレグ。流行のテーマをふたつ並べたらそれは注目されるだろう。普段しないネクタイもして我ながらさもしいと恥ずかしくなる。エピゲノムの班での成果ははじめてで、次につなげるためにもアピールは必要だろう。
腸内細菌の重要性は明らかでも医薬品にするとなるとハードルは高そうだ。ヨーグルトでもそうだが、もし一度食べたらずっと腸内で定着してくれるような夢の善玉菌ができたら、、、もう売れなくなってしまうだろう。
日刊工業新聞に出てました。
6/29月曜日。一月半に及ぶ長い講義と実習が終わった。さすがに相当消耗した。しかし嬉しいことに最後の実習で脾細胞のNO産生がしっかりと観察された。ぶっつけ本番だった。十分免疫したマウスから脾細胞を取り出し、抗原で刺激した。脾細胞中にはT細胞とともにマクロファージが存在する。免疫によってTh1が誘導されれば、Th1はIFNγを産生するのでマクロファージを抗原特異的に刺激してNO産生を促進するだろう。しかし講師に頼んだリハーサル実験では結果はnegativeだった。私は細胞数が足りないと考えて10倍の細胞数をシャーレに撒くように指示した。幸いにも多くの班で抗原特異的にNO産生が認められた。少数ながら写真のように抗原peptideでも刺激がうまくいっている例もあった。抗体と違ってT細胞応答を示す実習はクリアカットに結果を示すことがかなり難しい。しかしこの方法は学生でもうまくいく。これは望外な大きな発見だった。学生諸君はなぜ脾細胞の培養で抗原を入れた時にNO産生が検出されたのか?そのメカニズムをしっかり説明できるようにしておいてほしい。私は何度も講義したはずだ。
"Suppression of TH2 and TFH immune reactions by Nr4a receptors as integral components of a Treg specific transcriptional program". I am pleased to inform you that their evaluations were generally favorable, and that your manuscript should be publishable in JEM so long as it is modified in accordance with the referees' remarks and our editorial policies.
長ったらしいがacceptと思われる。NR4aがTregの発生に必須であることを示したのが2013年はじめ。今回NR4aがTregになったあとどのような機能を持っているかFoxp3Creを使ったコンデショナルノックアウトマウスで解析した。Nr4aはFoxp3の発現の維持のみならずEosの発現やIL-4やIL-21などのサイトカイン産生の制御に必須で、NR4aがないとTregがTh2やTfhになってしまう。NR4aはTregの可塑性を制限する重要な因子のひとつと言えるだろう。
この論文でも、Editorとのやりとりも含めて関谷君がほぼすべてを行っており私はほんとんど何もしていない。彼ならいつでも独立できる。どこかいい話があればぜひご連絡を。
またまた腸内細菌の話。今朝のニュースに出ていた。私も痛風持ちなので毎日ザイロリックを飲んでいるが、明日からヨーグルトを食べよう。いや普通のヨーグルトではダメでPA-3株が入っていないといけないのか。この菌株はプリン体を分解してくれるらしい。でも今度発作が出たらぜひBTK阻害剤を試してみたい。BTK阻害剤はインフラマソームを抑制するので痛風の炎症を起こすIL1βの産生を抑えるのだ。
ウイルス学の講義をしていて面白いことに気がついた。ザイロリック(アロプリノール)は1988年にノーベル医学生理学賞を受賞したエリオン、ヒッチングによって開発された。キサンチンオキシダーゼの阻害薬で尿酸の産生を阻害する。1960年代に開発された薬が今だに第一選択剤として使われているのはすごい。エリオンは抗ヘルペス剤のアシクロビルの開発で有名だが他にも合計8種類の化合物を合成し世に出している。これもまたものすごいことだと言える。
ウンチクとして知っていると何かいいことがあるかも。
なお痛風持ちはもとになるプリン体の摂取を抑えようという気はさらさらない。だからヨーグルトやザイロリックが必要なのだ。
6/19-21 沖縄科学技術院大学(OIST)での第6回シグナルネットワーク研究会に出席。OISTは初めてだがウワサにたがわぬ絢爛豪華な造りだった。近くに東シナ海が見え景色もすばらしい。建物、設備、住環境、学生へのサポート、どれをとってもため息のでるようなことばかりで、学生にはみせたくなかった。ボロは着てても根性だけは負けてはいけない。嬉しいことに大学院生部門で伊藤さんが、ポスドク以上部門で森田君が奨励賞を受賞した(残念ながら副賞無しだが、、)。建物で成果が出るわけではない、と大きな声に出して言いたい。口惜しいが、幸いなことに根性や忍耐力や発想力にはお金はかからない(むしろ多すぎる金は有害)。
ところでOISTの大学院博士課程では全員奨学金(学術振興会DC1よりも高額)が支給され、寄宿舎もあるそうなので経済的な理由で進学を躊躇しているひとはぜひOISTを考えてみるといい。
またNHKで恐縮だが昨晩の「ためしてガッテン」の『食べて糖尿病大改善』をつい見てしまった。血糖値高めだし、慶應の伊藤先生も出演していたからだが、要するに腸内細菌のラクトバチルスが多いとインスリン分泌のスイッチがはいるのでラクトバチルス(ラクトバシラス属、たぶん一般的には乳酸菌)を増やすような食事をするといい、というお話。腸内細菌のつくる短鎖脂肪酸は腸からのインクレチン分泌を促すらしく、これが膵臓からのインスリン産生を増やすと言うしくみらしい。それでラクトバチルスを増やす「水溶性食物繊維」を多く含む食品を一品多く食べましょう、ということだった。実際に被験者の腸内細菌を2週間後に比べると緑で示された善玉菌?がわずかに増えている。。。こんなN=1でかつわずかな増加で説明できるのか?とつっこみたくなったが、ともかくも腸内細菌は伊藤先生のお言葉では『今最も注目を集めている医学研究』なのだ。本田先生の講義によると腸内細菌がセロトニンを大量に合成しておりこれが情動に関係しているのではないか言われているそうだ。Cellに論文出ていた。腸内細菌と自閉症の関係が話題になったが、あながち荒唐無稽な話ではないらしい。うつ病にも効果があるかも?と言われている。血糖値も鬱も気になっている自分も明日から根菜類をたくさん摂るべきか。。
伊藤さんのNature Coomunications の論文がopen-aceessになりました。
Bruton’s tyrosine kinase is essential for NLRP3 inflammasome activation and contributes to ischaemic brain injury Nature Communications 6, Article number: 7360 doi:10.1038/ncomms8360
JSTと慶應からプレスリリースを行ってもらった。どうも期待先行だが、本当のところはBTKがインフラマソーム活性化に寄与することの発見が基礎的には重要だろう。
共同通信社が配信してくれ日経新聞オンラインに出ていた。日刊工業新聞にも。まだまだマウスのモデルの段階。でもFTY720の時のように基礎研究であちこちで効果が確認されたら臨床でも使ってみようという気運が高まるかもしれない。もちろんBTK阻害剤はIL-1が関わる様々な炎症性疾患にも効果が期待できるだろう。実際に間接リウマチモデルでも効果が確認されている。関節リウマチでは仲間のSyk阻害剤が臨床で試されたことがあるが現在は開発はストップしているらしい。Syk阻害剤よりもBTK阻害剤のほうが効果があるのではないかと密かに思っているのだが。。。
先週木曜日より免疫学講義がはじまった。講義中さっそく寝ている学生をつっついて起こしたらどよめきが起きた。寝るくらいなら半ページでもいいから出席代わりのレポートを出して有意義なことに時間を使ったほうがいい。しかしさすがに2こま続けての講義は私も疲れる。歳のせいか昨年に比べると消耗が激しい。話すペースも遅れて講義が予定よりもどんどん遅れて行く。所々スライドの間違いに気がついて立ち往生する。
今朝は9:15頃学生が『先生、講義は?』と呼びに来た。は?一瞬何のことかわからなかった。なんと1,2コマ目を午後からと勘違いしてのんびりしていたのだった。相当にヤキがまわっている。日頃学生に厳しく言っているだけにめちゃめちゃ恥ずかしい。しかし今年の学生は偉い。普通『休講だぁ!』と喜んで帰るだろう。よく呼びに来てくれたものだと感心する。でもさらに講義が遅れて遺伝子再構成の話の途中で終わってしまった。何度話してもMHCとTCRのところは、理解してもらえるように話すのが難しい。ここが面倒くさくて免疫が嫌いになるのだろう。
さらに教科書で言っていることが違うことがある。補体のC4bC2aは最近はC4bC2bにしようという動きだが教科書によってはどちらも出てくる。isotype switchingも class switchingも同じものだし、CD8TをキラーT細胞ということも細胞傷害性T細胞ということもある。用語くらいは統一しないとますます嫌われる。今朝はNK細胞がT細胞と同じ前駆細胞からでてくるのか、B細胞と同じ前駆細胞から出てくるのか、教科書によって図が違うことを発見してまた固まってしまった。どうもまだどちらが正しいのか定説になっていなようだ。そんなの教科書にのせんなよ、と言いたくなる。
Jun 07, 2015
IMMUNITY-D-14-00739R2
Dear Dr. Yoshimura,
We have reviewed your revised manuscript, "Induction of Intestinal Regulatory T Cells is mediated by AP-1 and Smad3 Transcription Factors-Dependent TGF-β1 production from Dendritic Cells"(IMMUNITY-D-14-00739R2), and I am delighted to be able to accept the paper for publication in the next available issue of the journal.
クロストリジム属菌は消化管でTregを増やすことはよく知られている。ではどうやってTregを増やすのか?菌がつくるブチル酸などの短鎖脂肪酸が大事と言う話はあるが誘導性TregにはTGFβは必須。ではどの細胞がどういう機構でTGFβをつくるのか?は知られていなかった。柏木君らは消化器内科の金井先生のグループと協力してクロストリジウム属菌の一種であるクロストリジウムブチリカムがCD103陽性腸管樹状細胞(LPDC)をTLR2依存的に刺激してTGFβ産生を促すことを見出した。さらにその際にERK-AP1経路がまず働いてTGFβ遺伝子の転写のスイッチをいれること、次にTGFβはオートクリンでさらにTGFβを誘導すること、TGFβ遺伝子の活性化はSmad3がドライブしてSmad2は抑制的に働くことを明らかにした。柏木君はChIPアッセイを駆使してこれらのepigeneticな制御を詳しく調べた。また樹状細胞特異的Smad2欠損マウスは腸管Tregが増えて腸炎に抵抗性を示した。
修士から5年がかりの大作。柏木君が『修正無しでsubmitできるように書きました』と言って持ってきたのが昨年の連休明け。一行目から文法が間違っていて読む気を失ったのが今になってはなつかしい。よくみると英語ばかりか図もミスだらけでsubmitしたのが9月。reviewerの意見も厳しかった。3人のreviewerがついてRevise実験に5ヶ月以上かかった。reviewerのひとりは新規性がない(AP1もオートクリンもがん細胞では知られている)という理由でrejectだと言ってきた。いいがかりとしか思えないがこれを覆すことは不可能に思えた。Reviseを送って一月後に返事が来た。この強硬なreviewerはやはりrejectを指示したがなんとeditorはこれを無視してよいと言って来た。これまでかなりの数の論文を投稿して来たがeditorが一回目のreviseでreviewerを無視してよいと言ったのはこれがはじめての経験だった。そんなreviewerはじめから選ぶなよと言いたいが、ともかくもacceptされてよかった。『新規性』は抽象的なことで文句をつけようと思ったらいくらでもつけられる。このreviewerはではどういう実験をすればよいのかも指示せずにただただダメというばかりだったのでさすがにeditorも同情してくれたのだろう。最初から最後まで波乱の論文だった。
Congratulations! I am pleased to inform you that your manuscript titled "Spred1, a suppressor of the Ras-ERK pathway, negatively regulates expansion and function of group 2 innate lymphoid cells" has been accepted for publication in The Journal of Immunology.
大学院生の鈴木さんが取り組んできたのはSpred1というRas-ERK経路の阻害分子のノックアウトマウスを用いた肺の気道炎症(喘息モデル)の解析である。現在ではSpred1はRas-GAPのNF1を細胞膜にリクルートすることが明らかにされており欠損細胞ではRas-ERKの活性化が亢進する。Spred1欠損マウスはもう随分前にアレルギー感受性が高いことがわかっていた。このときIL-5やIL-13の産生が高いことも報告していたのだがその原因は不明だった。鈴木さんは肺のILC2に着目してT細胞の関与しない急性の肺傷害モデルを用いてSpred1欠損マウスではILC2が増加し、IL-5やIL-13を高産生することを示した。さらに阻害剤を用いてERK経路がILC2に重要であることを明らかにした。このときGATA3がERKによって安定化されることも示した。Ras-ERK経路はシグナル経路の古典でありすでに地味な分野になりつつあるが、まだまだ新たな発見がある。ILC2は細胞数が極めて少なく困難な実験も多かったが、地道にコツコツとデータを積み上げて来た鈴木さんの頑張りは立派なものだ。
5/26 今日は京都で免疫の講義。旧知の竹島先生が呼んでくれた。修士課程の学生さんらで講義室は満杯。朝8時45分のひとコマ目なのに。薬学部では系統的な免疫学の講義はないそうなのでなるべく平易にと、前半は『サイトカインと免疫の話』でいつもの『免疫劇場』を皮切りにスタートする。後半は七田君の脳梗塞を例に組織傷害と炎症、免疫の関係をデータを交えて説明する。後半はデータてんこもりなのでわからなくても前半は楽しんでくれただろう期待していた。講義が終わって前のほうに座っている子に質問すると『単語が多すぎてついていけなかった』。うーん、確かにタームが多すぎる。でもインターロイキン17とか23ではなく『あれ』とか『これ』では話にならんしな。。。私は理学部で稲葉先生(現副理事長)に免疫学を習ったが指先を示して『ほんのこれぽっち』も理解できなかった。『それでも免疫学の教授になれるのだからあまり細かいことにこだわらずに大枠を理解して欲しい。』と言って慰める。
途中免疫抑制剤が出て来たので『FK506とFTY720知ってるよね?』と聞くと誰も答えられない。竹島先生は『FTY720(フィンゴリモド)は京大の藤多教授と台糖、吉富製薬が開発したものなので(それでFTYなんだそうな)京大薬学部の学生は知ってないといかんのだが』と嘆かれていたが学生に短期記憶がないのは万国共通です。
京都は夏日で朝の一コマ目から暑い。それでも寝る者は少なく皆熱心に聞いてくれてはいたので非常にやりがいがあった講義であった。写真は講義終了後。
またまたNHKである。私は別にNHKの片棒を担いでる訳ではないことはまず申し上げたい。今回は4/5に放送されたNHKスペシャル『新アレルギー治療〜鍵を握る免疫細胞〜』で最近録画を見た。解説には以下のように紹介されている。
『鍵になるのが、“制御性T細胞(Tレグ)”。発見した大阪大学の坂口志文さんは、その業績によって先日「ガードナー国際賞」の受賞者に選ばれました。“Tレグ”は免疫の過剰な攻撃を押さえ込む役割を持っています。最先端の研究現場では“Tレグ”のコントロールによってアレルギーが完治するケースが出始めています。番組では、“Tレグ”とアレルギーの関係性について詳しくご紹介し、今研究が進められている新たな治療の、具体的な可能性についてお伝えします。』
すごく画期的な治療法が見つかったかのようである。言うまでもなく坂口先生はこの分野の創始者でありTreg(Tレグはできればやめて欲しい。どうもハイレグとかTバックを連想してしまう。。私だけか?)の発見者である。番組ではアーミッシュの人々にはアレルギーがほとんどいない一方でTregが多いことや、舌下免疫療法が効果があるひとはTregが増えていることが紹介されていた。確かにアレルギーの抑制にTregは深く関係しているし、おそらく経口免疫寛容の成立にもTregが関与するだろう。ただそれだけで全部説明できるとは思えない。アーミッシュの疫学調査をしたムティウス教授らは昔『家畜とふれあうとアレルギーになりにくい』という疫学調査を報告し『衛生仮説』をひろめたかたである。そのときはエンドトキシンがTh1を誘導しアレルギーの主役のTh2を抑えるという説明だった。今回Tregに宗旨替えしたようだがそんなに簡単に主張を替えていいものだろうか。そもそもどうしてTreg(だけ)が増えるのか?が説明できてない。有効なTregを増やす方法についても我々も含めて研究の真っ最中である。Tregの重要性を一般にも示してくれたのは大変ありがたいが、科学番組の宿命とはいえ『すぐにでも治る』『これが原因』ような表現をしてしまうので注意が必要だ。もっとも我々がプレスリリースするときも同じような『誇大広告』をしているのではあるが。。
家に戻ったらEテレで『ニボルマブ』の話が放送されていた。以前紹介した免疫チェックポイント阻害剤である。九大の講義でも免疫の力の偉大さ、免疫研究の必要性を強調するためにPD1のことは少し紹介したがこの放送を見せればもっと興味を持ってくれたかもしれない。コメンテーターの山口大学の玉田先生はかなり慎重に紹介されていたが期待は大きい。これまで免疫療法は眉唾ものだ思われていたと本庶先生も言われていたが不肖にも私もそう思っていた。再生医療も大事だろうが実際に治療に近いのはまずは免疫だろう。それにしては『新学術領域』などでは応用的な学問と思われているのか冷遇されている。ぜひ若い人が参入して盛り上げてもらいたいものだ。
再掲載
2/14 『がん免疫療法の最前線』と題するシンポジウムが慶應校内で開かれていたので聞きに行った。河上先生と中島先生が司会をされ、5人の演者が『免疫チェックポイント療法』『CART療法、TCR導入T細胞療法』『ウイルス療法』など実際の臨床治験の話を交えてわかりやすく説明して下さった。実は講演の先生も言われたように『免疫療法は効かない』という印象がつい最近まで強かった。免疫学者だってそう思っていた(少なくとも私は)。しかしCTLA4抗体やPD1抗体が実際に効果があることを目の当たりにして、我々も考えを改めることになった。今や製薬企業も多数参入し競争が激化しているそうだ。PD1やCTLA4を『チェックポイント』というのは免疫屋には違和感があるが、要するにこれらはブレーキだ。我々が発見したSOCS1もそのひとつと言える。T細胞のアクセルは3つあってTCRシグナル,CD28(副刺激)、そしてサイトカインシグナルである。PD1,CTLA4, SOCS1はそれぞれのアクセルに対してブレーキの役割を果たしている。当然ブレーキがないと免疫が強くなり抗腫瘍効果増強が期待できるが暴走すると自己免疫疾患になる。逆に言えばノックアウトすると自己免疫を起こすような遺伝子は新しいがん治療の標的になるかもしれない。おそらくNR4aもそのひとつだろう。SOCS1やNR4aは細胞内の分子なので抗体では阻害できない。siRNAの導入は遺伝子治療になってしまうので敷居が高いと思ていたら、がんの分野ではT細胞を培養しCARやTCRを遺伝子導入して体内に戻すことが今後ますます盛んになるらしい。なので同時にsiRNAやCRISPREも遺伝子導入して使える時代が来るかもしれない。免疫学は終わった学問などと言われたこともあったが最近治療に使える技術が増えて再び活気づいているように思える。それもかなり。これまで免疫リプログラミングは主に自己免疫やアレルギーを対象に考えていたのだが抗腫瘍免疫もかなり有力な研究領域のように思えて来た。SOCS1のshRNA導入はすでに論文になっていた。。。(Immunity. 2013 Apr 18;38(4):742-53. doi: 10.1016/j.immuni.2012.12.006.)
5/15(金)九州大学医学部での恒例の『サイトカイン学』の講義(2コマ180分)を行う。かなり厳しい出席チェックがあるからなのだろう。生命科学科の学生も加わって講義室は満杯である。今年は同大学生命科学科出身の伊藤さんの仕事や、九大出身の七田君や長谷川君の仕事も紹介しようとかなり実際の研究に近い内容も加えて準備していた。ところがその時間的余裕が全くなかった。例年のごとくまず自然免疫で重要なTLRやRIG-Iとそのシグナルについて話し始めた。前に座っている学生にTLRって知っているよね?っと聞いても知らないという。NK細胞は何をみてウイルス感染を認識するのか?と聞くと『レセプターみたいなもの』という。TLRを初めて聞いたというので『阪大の竹田先生のプリントを見せてみろ』と前回の資料を見せてもらうとしっかり『自然免疫』のテーマでみっちり講義がされてある。獲得免疫となってTh17の話をはじめる前にTh1,Th2は聞いているだろうがTh17は初めてか?と聞くと『そうだ』という。試しにまたプリントをみせてもらうとTh17はおろかTfhもちゃんと講義されている。これを聞いたら講師の先生は泣くだろう。薄々気がついてはいたが学生の記憶は数日と持たないようだ。短期記憶がめちゃめちゃ苦手である。そもそも記憶しようと言う意識があるのかすら怪しい。しょうがないので東大5月祭の『免疫劇場』のビデオを見せる。多くは喜んで笑っていたがこれは小学生向けの『超簡易版』ビデオである。日本の最高峰の九大医学部の学生が『免疫劇場』をみて喜んでいてはいけない。もちろん九大に限ったことではないのだが。どうしたらタームを覚えようという気にさせられるのか?もちろん試験が迫れば覚えるのだろうが。。おそらく実生活や疾患と結びつかないのでピンと来ないのだろう。考えさせられた180分であった。
13日より本年度の講義がはじまった。これまで大講義室の最後列から埋まっていたのが、皆詰めて前の方から座っている。どうしたことか?学生に聞くと後ろに座っていると出席カードをもらえないから、という嬉しい『誤』情報が出回っているいるという。せっかくなので今年からそうしよう。今年の3年生はいい先輩をもった。出席しなかった場合の代価のレポートを一回10枚から1枚以上と大幅に緩和した。おかげで出席率は悪くなったが今のところ講義に出て寝ている者はほとんどいない。これは大正解だったかもしれない。また講義のレジメはできるだけiPad用にupすることにした。過去問もupする予定だ。これでデュプロは必要なくなるに違いない。まじめに勉強することが何より効率的に学科を理解できることだし試験対策にもなる、というごく当たり前のことが普通になって欲しい。
今年は真面目ないい学生ばかりかと思ったらもうダレてきたのか最後列の5人はしゃべったり寝ていたり。一度注意しても聞かないので出席カードを取り上げた。講義に集中しないならレポート1枚適当に出せばよい。また『うざいやつ』と思われたことだろうが、学生の評判は気にしない。
2014年ほど論文に苦しんだ年はない。あまりにも落とされまくるのでもう研究はやめるべきかと思うことも何度もあった。それを大学院生の伊藤さんが救ってくれた。私のほうが御礼を言いたいくらいだ。
本研究の詳細は後ほど。キモは新規のインフラマゾーム制御因子としてBTKを見つけたこと、さらにすでに抗がん剤として認可済みのBTK阻害剤がインフラマゾームに依存する急性炎症性疾患である脳梗塞を抑制することを示したこと。こんなストレートですごい話はない。ほとんどは伊藤さんの努力と講師の森田君と七田君の指導のたまもの。私のアホさを乗り越えて伊藤さんは見事にやり遂げた。脳梗塞モデルは極めて難度の高い実験でこの系をマスターしただけでもすごいのに、さらに新機構の発見と結びつけてその阻害による治療の可能性を示した。藍は青より出て藍より青し(なんか変?)。このまま伸びやかに育ってくれることだろう。
We are delighted to accept your manuscript entitled "Bruton's tyrosine kinase (BTK) is essential for NLRP3 inflammasome activation and therapeutic for ischemic brain injury" for publication in Nature Communications. Thank you for choosing to publish your interesting work with us.
それにしてもNCの掲載料はあこぎではないか?on-line journalなので印刷費はかからないのに5000$くらい。円払いだとX0万円を超える。一日もはやく商業誌をありがたがる風潮を改めるべきである。
永尾先生(元慶應皮膚科、現米国NIH)の研究成果が大々的に報道されている。Immunityに掲載されたそうだ。アトピー性皮膚炎モデルマウスでは黄色ブドウ球菌やコリネバクテリウムが異常に増殖しているという。これを抗生物質でなくすことで発症を抑えられたそうだ。非常にシンプルでわかりやすい。これまで黄色ブドウ球菌の増殖がアトピー性皮膚炎に関連することは示されてきたが、今回それが直接の原因となりうることが示された点は大きい。
ではどうすれば黄色ブドウ球菌の増殖を抑えられるのか?実はその方策は数年前に我々が報告している。黄色ブドウ球菌の排除に働くヘルパーT細胞はTh17である。Th17はTh1やTh2で抑えられる。Th2病であるアトピー性皮膚炎ではTh17が抑えられるために黄色ブドウ球菌が増えやすくなり症状が悪化することは十分考えられる。そこでJAK阻害剤である。現在のJAK阻害剤はTh1やTh2の抑制に比べてTh17の抑制効果が低い。よって適切な量のJAK阻害剤を投与するとTh2を抑えてTh17はむしろ増強され、その結果アトピー性皮膚炎モデルはかなりよくなる。Th17の出すIL-17やIL-22を投与するだけでもかなりよくなる。これは殺菌効果だけでなくIL-17やIL-22の皮膚細胞の増殖促進効果も加わった結果である。我々の提唱したTh17増強によるアトピー性皮膚炎治療のコンセプトが今回さらにサポートされたのではないかと密かに思っている。
『ニュース』は自分のところの論文は落とされてばかりなので他人様の目立った論文を紹介するコーナーに成り下がった。
相前後して肥満とILC2についての論文がNatureとCellに出されている。IL-33欠損マウスは高脂肪食にすると太りやすい。IL-33はILC2を刺激するサイトカインである。元々小安先生らのグループがILC2(NH細胞と呼ばれていた)を発見したのが腸間膜脂肪組織でILC2と脂肪細胞には何か関係があるのではないかと疑われていた。Natureでは白色脂肪にILC2が特異的に集積しエンケファリンを分泌してそれが脂肪細胞に作用しUCP1の発現をあげることで ベージュ脂肪細胞様に変化させ、熱産生のほうに向かわせるという。CellのほうではILC2と好酸球からのIL-4やIL-13が脂肪前駆細胞の分化を白色から褐色のほうへ向かわせる機構が示されている。ともに肥満とILC2という注目されている話題を取り上げながらかつ新規のメカニズムを示しているのがさすがだと思われる。Th2優位なら肥満抵抗性ということか。私は花粉症でアレルギー体質なのになぜ痩せない??
Activated type 2 innate lymphoid cells regulate beige fat biogenesis. Lee et al. Cell. 2015 Jan 15;160(1-2):74-87. doi: 10.1016/j.cell.2014.12.011.
Group 2 innate lymphoid cells promote beiging of white adipose tissue and limit obesity. Brestoff et al. Nature. 2014 Dec 22. doi: 10.1038/nature14115
こちらはIL-33は脂肪組織のTregを制御することになっているらしい。
The transcriptional regulators IRF4, BATF and IL-33 orchestrate development and maintenance of adipose tissue-resident regulatory T cells. Vasanthakumar A, et al. Nat Immunol. 2015 Jan 19. doi: 10.1038/ni.3085.
1/17-18 品川で炎症再生学会ではなく『炎症再生研究会』(IRG meeting)が行われた。トップバッターのDr.Arjun Debは昨年Nature Articleに報告した[Fibroblast plasticity in heart repair]の話をする。今回初めて聞く内容だったが、非常に興味深い話だった。
Mesenchymal-endothelial transition contributes to cardiac neovascularization. Ubil E,, Deb A et al. Nature. 2014 Oct 30;514(7524):585-90. doi: 10.1038/nature13839.
心筋梗塞モデルにおける酸化(あるいは低酸素)ストレスでp53が誘導されると線維芽細胞が血管内皮細胞にconvertするという衝撃的な内容だった。酸化ストレス?だけで線維芽細胞が血管内皮細胞にre-programされるとしたらすごい。丁度うちでも森田君がETV2遺伝子導入で線維芽細胞を血管内皮細胞に転換できることを報告したばかり。がぜん興味を持った。しかしよくよく聞いてみると疑問点も多く早速質問にたった。森田君の経験でも培養条件を変えるだけでそうそう簡単に線維芽細胞が血管になるはずはない。何よりもfusionの可能性は聞かなければならない。一昔前に骨髄幹細胞が神経だの筋肉だのどんな細胞にもなれるという報告が相次いだ時代があった。今ではそれはほとんどが細胞融合(fusion)で説明されている。線維芽細胞から転換したとされる内皮細胞はかなり大きい。fusionの可能性はないのか?と質問したが『調べていない』のひとことで片付けられてしまった。Nature のArticleである。Reviewerは当然聞いただろう。酸で分化した体細胞が多能性を獲得したといういつかの話とダブって聞こえたのは私だけではないと思う。Nature編集部はどうもなあ。しかしもし本当に外部刺激だけで線維芽細胞を血管内皮細胞に転換できたら虚血性疾患の革命的な治療になるかもしれない。
朝出勤するなり七田君が論文を持ってきて『先生、FTY720が脳梗塞を劇的に改善するという論文がでています!』さっそく見てみるとまだ11名のパイロット的な臨床研究だが確かに相当効いている(実験マウスと違ってヒトは比較が難しいとは思うが)。
Fu et al. Impact of an immune modulator fingolimod on acute ischemic stroke. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Dec 23;111(51):18315-20. doi: 10.1073/pnas.1416166111
FingolimodとはFTY720のことで新しい免疫抑制剤である。七田君がこの免疫抑制剤がマウス脳梗塞モデルに有効であることを2009年にはじめて報告してから、雨後の竹の子のようにモデル動物での同様の報告が相次いだ。そしてついにヒトでもその有効性を強く示唆する結果が示された。まだ少人数のパイロットスタディではあるが今後大規模な試験が行われて有効性が証明されれば基礎研究に携わるものとしてはこんな果報なことはない。こんなふうに分子細胞レベルの研究が実際の治療にまで発展するような仕事をひとつでも多くできればReviewerにいつも苛められている苦痛も少しは和らぐ(といいのだが)。