投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-09-27 16:00:39 (3044 ヒット)

 自分の出身の高校は地方で純朴を絵にかいたような学校だった。卒業したのはもう40年以上前のことだ。本を読むか、勉強することしかなかったこれも極めて特色に乏しい3年間だった。こんなことを考えたのは母校の100周年記念式典での講演を頼まれたからだ。高校生相手に講演などしたことがない。こういう時は高校時代の涙ぐましい、もしくは感動のエピソードを紹介するとか、スティーブ・ジョブスのスピーチのような心に残る人生訓を話すかすべきなのだろう。しかし生来人様に訓示を垂れるような人格もないし感涙を誘う成功物語もない。散々考えた挙句、やはりここは専門の免疫学の講義を、今皆関心があるに違いないコロナにひっかけて話すしかないと結論した。特に山中先生の「ファクターX」の有力候補の免疫交差説を説明しようとすると、抗体や獲得免疫など免疫の基礎もやや詳しく解説できるだろう。抗体の話では利根川先生の遺伝子再構成にも触れることができる。ただそれだけでは文系には受けないかもしれない。そこで抗体や血清療法の話を引き出すのに野口英世と北里柴三郎の話も盛り込んだ。彼らには興味深いエピソードに事欠かない。どちらも留学しており高校生に「世界を目指す」お手本としては最適だ。
でも明治の偉人の話では身近に感じられないかもしれない。それに自分の話も少し入れないと「先輩」としての面目が立たないかと思って自分の留学時代の話も10分ほど入れる。そうなると「てんこ盛り」となるが練習を重ねて60分に収まるようにした。zoomの講義録画もだいぶ慣れてきた頃だ。何度かzoomで録画して練習を行う。最後にスタッフの高校1年のお子さんに録画を見てもらい「面白かった」「よくわかった」との言質を得て自信を得て講演会に臨んだ。

当日、PCの動作確認を行うがなんと音声が出ない。前日ちゃんと動くことを確認したのだが。かなり慌てたがしかし音声は「免疫劇場」のみでマイクでPCの音を拾うことでうまく切り抜けられそうだった。体育館で結構明るくスライドはかなり薄いが、今更しかたない。講演が始まると流石に600名の生徒らの視線というか圧力は強烈だ。いつになく舞い上がってしまった。言おうと思っていたことをかなり言い忘れた。例えば「大学が門を閉じているのは大学の偉い人たちの事なかれ主義」と批判したところで、「佐賀県は死亡者ゼロであり、高校ももかなり正常に動いている。これは先生や県の人たちの風評被害に負けない英断も大きいはず。」と賞賛するのを忘れた。 生徒さんらの顔を見て何度も言い直したりしたせいか時間もオーバーしそうになった。これはいかん、と焦り最後に「質問などあればメールして欲しい」と言うべきことも忘れてしまった。結局予定より10分もオーバーしたのではないかと思う。
話すのに手一杯でなかなか生徒のほうを見れなかったが、生徒の表情からは解ったのか、面白かったのか、つまらなかったのか全く読み取れなかった。今でも「真面目」「純朴」な生徒が多いそうなのでつまらなくても顔にも出さないのかもしれない。ひとりでも興味を持ってくれたらそれでよしとしよう。それにしても自分にとってはスリリングな体験だった。 
若い人たちに犠牲と閉塞を強いる今の状況。もし北里がいたら「オレが責任をとるから若いものはどんどん仕事せい」と言ったのではないかと思う。もっとも当時は死を覚悟して研究するのが普通だったようだが。肝が座っていると言うべきだろう。北里と一緒に香港にペストの調査に向かった東大教授の青山は感染して生死の境を彷徨っている。野口はアフリカで感染して客死したが、黄熱病ウイルス説を唱えて後にノーベル賞を受賞したマックス・サイラーは感染したが生還している。やはり運も重要なのだろう。

「大学オンライン授業はもう限界、学生の怒りと絶望と落胆の声123件」という記事があった。そもそも自分が感染しても軽症か無症状で重症化することがほとんどない大学生に多額の授業料を払わせておいて「大学に来るな」と言える根拠はどこにあるのだろうか?年金と同じとは言えないが未来を担う若者が老人の犠牲になってよいのか?大学生も署名活動を始めたという。大阪市立大のように全員抗原検査を行うとか京都産業大学のように学内に検査センターをつくるなどやろうと思えば可能な対策はいくらでもあるだろう。やらないのは大学側の怠慢や「ことなかれ主義」と言われてもしかたない。米国では大学を再開したことで感染者は増えたが最近は死者数は増えるどころか低下している。若者は重症化しにくいので当然か。もしオンライン授業を続けるなら「講義や部活を再開すると重症者が増える」というきちんとした根拠を示すべきだろう。

トランプ大統領がコロナに感染したという。これって本当なんだろうか(報道からは本当らしい)? 感染から早期に回復したところ示して「オレはコロナなんかに負けない強い男!」「コロナはただの風邪」をアピールして支持急拡大を狙う腹ではないか。そういう戦略をとっても全く驚かないが。
 


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-09-05 13:14:57 (4170 ヒット)

 先週「NewsPicks」というネットメディアの須田桃子さんというかたから取材の申し込みがあった。どこかで聞いた名前だと思ったら、有名なSTAP細胞事件の本を書いた方だ。毎日新聞社だと思っていたら最近移られたらしい。昔熱心に読んだ記憶があるので一も二もなく引き受けた。コロナの「交差免疫」の解説をして欲しいというので最近の論文を時系列的に追って説明した。ほとんどはブログに書いてきたことなのだが、須田さんの原稿が素晴らしくよくまとまっていて、手を入れるべきところもほとんどなく「さすが」と感心した。次どういう話になるんだろう?という知的好奇心をそそられる構成になっている。木曜日が須田さんのサイエンスの記事が出る日だそうで3日にアップされていた。残念ながら有料記事なので中身は公開できない(10日間お試しで入会可能。ただ経済記事が中心なので我々にはすこし縁遠いか)が読者のコメントがついていて面白い。
最初に出てくる新妻耕太さんは『ここまで「わかりやすい、かつ解釈と表現が正しい」交差免疫の解説記事はない』、産婦人科の先生からは「なんてわかりやすくかつ正確な解説。秀逸です」と褒めてもらっており、ちょっとドヤ顔で皆に自慢する(須田さんのまとめかたがうまいのだが。。)(そもそも他人の論文の解説。自分の仕事ではないのにそこまで胸を張ることではない!)。新妻さん、これもどこかで聞いたことがあると思ったら筑波大学渋谷先生のところの卒業生らしい。現在スタンフォード大学のポスドクをしているそうだが、渋谷先生は”彼はコロナで研究もできないのでYoutuberになったらしい”と言っていた。近頃海外で挑戦する日本の若者が少なくなっているのでぜひ頑張って欲しいものだ。専門用語なしでウイルスを学ぶなどの新妻免疫塾というのもされているようでYoutubeに公開されている。
このごろ運や間が悪いことが続いたり原因不明の皮膚炎に悩まされたりと面白くないことが多いが、ちょっと一服できた。

東京はPCR陽性者100人を切ったということで概ね収束と言っていいかもしれない。これに対する一般のひとのコメントで胸を打つものがあった。「学生、特に大学生は大人の都合でスポイルされている。学校にも行けない、部活もない、アルバイトも切られる。安易に大学に来るなというなら授業料を返還すべき。偉い人たちは若者は票にもならないし、自分たちのことしか考えていないのでは。」全く著しく同意する。高校生や大学生はたとえ感染しても自分はなんともない。年寄りの1年と彼らの1年は重みがまるで違う。高校生、大学生の1年は2度と戻ってこない。そろそろ若い人たちは声をあげてもいいのではないか。大人は次世代を担う人たちのことを考えるべきではないのか。文部大臣は対面授業をやれと言っている。それでもやらないのは事なかれ主義の悪癖が出ているのだろう。文科省はもっとはっきり「従わなければ罰則」くらい言ってもいい。学生全員抗原検査するという英断の大学もある。やろうと思えばできるはず。及び腰の上層部はコロナが怖いのではなく自粛派からの批判が怖いのだろう。

アメリカでは感染の再拡大は大学の再開のせいだという。もしそうならマスクなどの感染防止や陽性者の隔離が徹底されていないのではないか?アメリカはそれは大学だけの問題ではなさそうだが。「PCR検査を増やせば収束する」のは陽性だった人が次にうつさないように自粛すればの話。そこが守られないと検査の意味がなくなる。

慶應大学呼吸器内科のグループの解析から「痛風はコロナで死亡する危険因子」であることがわかったという。痛風持ちである自分にはドキっとする報告だ。だが死亡する可能性が2倍になるのか、3倍なのかいまいちよくわからないので今度聞いておきたい。痛風持ちはインフラマソームが活性化しやすくIL−1βの産生量が多くサイトカインストームが増悪化するのだろう。理屈はよくわかる。もし感染したらBTK阻害剤を飲むべきか。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-08-26 10:59:44 (7339 ヒット)

 ここ数週間ストレスの溜まる仕事が続いたせいか全身に蕁麻疹がでるようになった。ストレスの原因は2つほど特定できるが、何が抗原なのか、暑くて汗をかくせいなのかわからない。痒みにはいい薬がない(IL-4抗体療法やJAK阻害剤はまだ早いか)という意味では痛みよりも耐えがたく夜眠れない。なので昼間ぼーっとしていることが多い(元来そうだったかもしれない)。
赤いポツポツが治らないので皮膚科に行くといきなり「毛虫や」と言われた。毛虫皮膚炎というのがあるらしいが、さすがに庭いじりはしてないのでそれはないだろうとステロイドの外用薬と内服薬をもらう。その後数日して発疹が融合して大きな島状になってしまった。これはまずいと大学の皮膚科の先生に相談したら多形紅斑だろうということでこのままステロイド内服外用で様子を見ることに。調べてみると薬疹かヘルペスなどの感染症から来るものらしい。自然消退するらしいので我慢して待つこととする。先生には飲酒は控えるように言われたがとても飲む気にもなれない。
2週間ほどしてかなり良くなった。依然原因は不明。

今日の西川先生の解説ではCAT-Tregが取り上げられていたCARの細胞内領域を10種類くらい変えて結局CD28が一番良かったらしい。これはうちの結果と同じ。それ以外は新しいことはないのだがScience系の上位の雑誌に載っておりすこし癪に触る。しかしCAR-Tregも実用に近づいているのかと実感する。私の蕁麻疹で試してみたいものだが、CARを何にすればいいのかが問題。案外IgE産生を抑えればよいならCD19でもいいのかもしれない。
それにしてもコロナ禍で世界的に研究が停滞し論文が減ったり質が落ちたりするのではないかと思ったがそこまではないような気がする。やはり中国からの論文は多い。先日あるインタビューでコロナに関する論文は世界からたくさん出ているになぜ日本からは少ないのか?と質問された。こちらの調査ではコロナ関連論文は世界で4万2748報出ているが日本からは839報でわずか2%だそうだ。「特にコロナに限ったことではないでしょう。日本からの論文は右肩下がりですから」と自嘲気味に答えると、ある本を紹介された。毎日新聞出版の「誰が科学を殺すのかー科学技術立国崩壊の衝撃」。全くもって衝撃的なタイトルだが、中身も国立大学法人化からムーンショットまでばっさばっさと小気味よく切り捨てている。だいたい知っている内容だったが、日本の政策で何一つ褒められているところはなく、ここまでどうしようもない有様ばかり並べ立てられると暗澹たる気持ちになる。現状はそうかもしれないが「ではどうしたらよくなるのか?」少し落ち着いて前を向いて考えるべき時なのだろう。

日本電産会長の永守重信氏。小さな町工場を年商1兆5千億円の大企業に成長させたカリスマ経営者だ。とにかくポジティブ思考で常にピンチをチャンスに変えてきた。世界をリードする技術力があってのことだろうが、嘆いてばかりでは何も変わらない。

新型コロナを指定感染症「2類相当」から見直すらしい。ようやく世の中が正常化するのだろうか。高校や大学でも休校や封鎖で苦しんでいる人たちは多い。彼らは重症化しないのであればある意味大人の都合で翻弄されている。危険度の高い人たちを重点的に予防措置するほうが経済的には理にかなっているような気がする。うまくすれば集団免疫もついてやがてコロナ禍は終わるのではないかと個人的には思う。
日本はすでに「ほぼ収束」という意見も出ているが、さすがに根拠が希薄で言い過ぎなような気がする。しかし多くの国で第二波のほうが第一波よりも死亡率が低いというのは統計表を見ていると事実のように思える。
漫然と二類相当を続ける根拠には乏しいとする川口先生の考察は首肯できる。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-08-06 18:43:18 (8499 ヒット)

 ある意味衝撃的なレポートがイギリスから出ていた。Pre-existing and de novo humoral immunity to SARS-CoV-2 in humans (新型コロナウイルス に対する既に存在していた、および初回の抗体応答)と題する論文で査読前のBioRxivに7/23に出されたものだ。2018年から2020年始めのまだ新型コロナが蔓延する前(つまり感染していない人)の血液を調べたところ、6%くらいに新型コロナのタンパク質、特にスパイク(ウイルスが細胞内に侵入するのに必要なウイルスの突起)のS2部分に反応する抗体を検出したと言う。スパイクはS1とS2二つのサブユニットからなり、S1よりもS2のほうが一般的な風邪コロナウイルスと似ている。特に無症状が多いことがよく知られている子供と青年にこのような抗体がよくみられ(6歳から16歳以下だとなんと60%以上。17歳以上は数%)、その抗体は試験管内での新型コロナの感染を抑制したのだそうだ。つまり子供や若者が重症化しないのはすでに持っている類縁コロナに対する抗体のせいなのかもしれないというわけ(だろう。全くもって読むのが困難な論文なのだ。感染者と非感染者、ウイルスの抗原など様々な項目が錯綜している。ただたぶん言いたいのはこういうことだろう)。

さらにこの見解を支持する2つの論文が相次いでScienceとNatureに出された。抗体産生と深く関係するヘルパーT細胞を解析したものだ。Scienceのほうは以前交差免疫を言い出したCellに出したグループからで、ヘルパーT細胞応答をスパイクとそれ以外の抗原にさらに細かく調べたもの。Natureのほうはスパイクタンパク質に特化して、いずれも新型コロナと類縁の風邪コロナの抗原ペプチドに対する応答を調べたものだ。これらも難しい論文で正確に全部を理解できたわけではないが、やはり非感染者は特にS2に応答するヘルパーT細胞を高率で持っている。さらに詳しく調べるとそれらのT細胞の一部にはすでに蔓延している風邪コロナの「対応する部位」に確実に反応するものがあることが示された。つまり類縁風邪コロナとの交差免疫応答が確実に証明された。実際にScienceの論文で使われた非感染者の血清のほとんどで風邪コロナに反応する抗体が検出されたと言う(図S1B)。またNatureでは重症者はこのようなスパイクに応答するT細胞を検出できなかったと記されている(ExtDataFig.3.)。もちろんこれらの風邪コロナに応答するT細胞が新型コロナに対して本当に保護作用があるのかどうかは、このようなT細胞を持つ人と持たない人を実際に感染させてみないとわからない(倫理的に不可能だろう)。だが、特に子供や青年は類縁の風邪コロナに対してT細胞やB細胞の記憶、あるいは抗体を持つので症状が軽いのではないか、と言う仮説はさらに大きな説得力を持つことになった。

しかし、イギリスの報告では17-36歳の抗体保有者は数%なので若者が軽症なことを説明できていないような気がする。さらにNatureはドイツ、Scienceはアメリカからの報告だ。依然としてアジアで死亡率が低い理由にはならないのではないか。まだ解かれていない謎は残っているように思う。

極端な言い方だが、もし類縁の風邪コロナに対する抗体が軽症になる原因ならば、抗体陽性のひとは新型を恐れる必要はなくなり遠慮なく経済活動に参加し、抗体のない人は生ワクチンとして風邪コロナを接種すればよいことになる(安全性は保証できないのでアイデアとして)。

ロックダウンや休校を行わなかったスウェーデンでは7月17日に「抗体獲得率は20%未満でもT細胞免疫は40%近くに上り、ほぼ集団免疫が獲得された」と発表したそうだ。T細胞免疫が何を意味するのか、実際の細かいデータは探しても見つからなかったが(これか?)、やはり経済を維持しながら早期の収束を目指すならスウェーデン式が最も現実的な方法のように思える。スウェーデンの対策と結果の詳細はこちらの報告に詳しい
マスコミは「スウェーデンは失敗」とネガティブに捉えたいらしい。しかし感染者数と死亡者数の推移を見ると、規制を緩めると感染者が増える他の国(例えば日本やアメリカ)と比べると、方針に一貫性があり、感染者も死亡も減り続け、第二波第三波に対しても安心感があると言う意味でも成功していると言えるだろう。今朝も報道番組で「スウェーデンのやり方は失敗」と根拠も示さず否定する偉そうな評論家がいたが自分の目でデータを見ない人なのだろう。

今日は東京は462人陽性だという。PCRは数コピーのウイルスを検出してしまう。陽性者は感染者なのか?自然免疫ですぐに排除されるようなら感染とは言う必要はないかもしれない。最近抗体検査のことはさっぱり触れられなくなった。やはり抗体陽性率は低く感染しても抗体陽性にならない場合が多いのだろう。それだけ今回のウイルスは自然免疫か交差免疫で早期に排除されているということなのかもしれない。その場合は獲得免疫は得られず再度感染する可能性も否定できないが、訓練免疫説や交差免疫説が正しいならば再感染しにくくなる可能性は十分ある。自称専門家としてはRNAのコピー数や陰性化のスピードのデータも欲しい。
 
交差免疫説を支持する首都圏の抗体検査の結果がニュースになっていた。東京理科大学の村上先生らは抗体検査で感度をあげるとほぼすべての検体で抗体の反応があったという。なので首都圏ではほとんどのひとがすでにコロナか類縁コロナに感染していて免疫ができているとしている。よって高齢者やリスクの高い人たちに重点を置いた方策をとるべきだろうと言われている。もちろん感度を上げすぎると偽陽性が出るので注意しないといけないが。年齢別の陽性率も出していただけるとありがたいが。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-08-06 08:39:27 (2882 ヒット)

 数日前にMITでポスドクをしているというがん研究者からメールをもらった。自分が開発した新しい腫瘍モデルでT細胞を解析したらNR4aが非常に高く発現しているので共同研究をしたいという申し出だった。こちらとしても人手は足りていないのでぜひに進めたいが、ポスドクが勝手にやってあとでボスが「聞いてない」と言われても困る。それにMITの教授ならNR4aに興味を持ってくれたら阻害剤の開発にも乗り気になってくれるかもしれない。Zoomを使ったビデオ会議をセッテイングしてもらった。ボストンは朝9時でもこちらは夜中の10時だがラボで待つ。始まるとこちらの現状と向こうのシステムを確認して計画を聞く。残念ながら薬剤のスクリーニングはやっていないらしい。
一通り話が終わって、実は私は30年前にボストンにいたんだと打ち明けた。何処にいたのかと聞かれて、ホワイトヘッド研究所のLodish先生のところだというとボスがいつ頃か?と聞いてきた。1989−91年というと、なんと自分は同じ頃3Fのワインバーグ研でポスドクをしていたのだと言う(私は4F)。N先生やH先生など当時ホワイトヘッドにいた日本人やポスドクの名前が出てきてとたんに和やかな雰囲気になった。たぶんビジネスでもそうなんだろうが、研究でも何かしらつながりがあると信頼関係を築きやすく話はスムーズにいく。留学のメリットのひとつはやはり人脈形成なのだろう。久しぶりに昔を思い出したが、このボスTyler Jacksの顔は覚えていない。おそらく金曜日のハッピーアワーでビールを一緒に飲んだことはあるはずだ。HPをみると自分と同年輩とは思えないくらいいかにもインテリっぽくカッコいいではないか。さすがにMITの教授だけあってラボも大きく勢いがあるのだろう。

萩生田文科相が「大学だけキャンパスを閉じて易きに流れていないか」と暗にオンライン授業のみの大学を批判、との記事が出ていた。「ディズニーはいいのになんで大学だけ?」という大学生の苦悩を理解してくれているのかちょっと見直した。もっと強く言ってもいいのでは。
「言うならば授業の中身も非常に薄っぺらくなってしまうようなオンライン授業ではいけない」えっ?自分のことを言われているようで冷や汗が出る。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-07-18 17:32:51 (4951 ヒット)

 5月のCellの論文はアメリカ人のT細胞免疫記憶の話だったが 7/15のNatureにシンガポールから感染者、非感染者のT細胞免疫記憶の論文が発表された。例によって西川先生の解説がある。シンガポールは5万人近くが感染して死者はわずか27人の優等生国である。最も関心がある非感染者(抗体陰性もしくは2019年7月以前に採取された血液)の応答だが約半数(19/37)で反応が検出されたという。しかも反応するのは普通風邪の近縁のβコロナウイルス に保存されたペプチドで特にORF1遺伝子にコードされるNSP(非構造タンパク)に対するT細胞応答がみられる。感染者は広く多くのペプチドに対して反応にするのに非感染者はNSPへの応答に集中している。この理由としてNSPを含むORF1遺伝子がコードするタンパク質が感染最初期に合成されるからではないか?すなわち非感染者は感染していないのではなく記憶T細胞がごく初期に感染細胞を殺してしまうのでウイルスの構造タンパクができてから造られる抗体のような時間のかかる獲得免疫応答までいかないのではないか?という推測がなりたつ(論文が難しくて自分の推測かもしれない)。さらに興味深いことに非感染者から得られた新型コロナのNSPに応答するT細胞は普通風邪のβコロナウイルスの同じ場所のペプチドには応答しない。このことから筆者らは非感染者といっても"presently unknown coronaviruses, possibly of animal origin"に感染していたのではないかと書いているが、どういうことかイマイチよくわからない(動物ってなんだろうか?ペットなのか?)。いずれにしても新型コロナといっても我々にはすでにT細胞の免疫記憶が存在する可能性が高い。そういうひとは感染しても無症状か軽症の可能性が高い。交差免疫を応用したペプチドワクチンが簡便で極めて有効である可能性も出てきた。


といっても約半数である。この数字はアメリカでの非感染者のT細胞記憶の割合(40−60%)に近い。これではアメリカとシンガポールの致死率の違いは説明できないではないか!うーん、ファクターXはT細胞ではない?
この点、思いきって著者にメールして聞いてみた。なんとすぐに返事が来て”自分たちが使ったペプチドはウイルス抗原の10%をカバーしているにすぎない。反応の程度も比較できない”との返事だった。まだ結論は言えないとのこと。

ともかくT細胞の論文は読みづらい(T細胞の専門家と言っておきながら。。)。少なくとも私には難解で、同様にこれで免疫が嫌いになる人は多いのではないかと思う。

ほとんどの人が既にあるウイルスに感染している、という事実はなかなか受け入れがたいかもしれない。しかし例えばEBウイルスは日本人なら3歳までに6〜7割、成人でも8〜9割が感染しているがほとんどは症状はない。むしろ思春期以降に感染すると伝染性単核球症というやや厄介な病気になる。アフリカではバーキットリンパ腫という腫瘍の原因となる。子供には症状がないとか地域によって悪性度が異なるとか新型コロナに似ている。新型コロナもいずれはこのような人と共存するウイルスになるのだろう。感染力と毒性はむしろ逆相関することが多い。死者からは拡散しないので致死率が高いウイルスはやがて低致死率で感染力の高いウイルスにとってかわられるから。ぜひ「東京型」の毒性を調べていただきたいものだ。こちらの先生の解析は説得力あるが「重症者は2週間遅れて現れる」には全く同意する。重症者はじりじり増えているので予断は許されない。しかし軽症者の免疫系の解析も重症を回避するためにも必要だと思う。

重傷者数はじりじり増えているが感染者数1000人を超えているのにまだ4月のレベルには遠いし死者数の増加ははっきりとはみれていない。第一波の時にいかにPCR検査をやっていなかったかということかもしれない。

全くの暴論だが、このコロナ騒動を一気に解決できるかもしれない。40歳以下の人全員に現在流行中の東京株を生ワクチンとして投与する。ウイルスが弱毒化しているのか人間の身体が対応しているのかはわからないが、今の時期には新型コロナ東京株はなぜか重症化は少ない。少なくとも40歳以下で死ぬことはない。まずは若い人たちに積極的に接種して免疫をつける。もちろん一方で高リスクの人たちは厳重に注意して隔離する。まあ若い人でもリスクはゼロではないので難しいだろう。無謀な賭けとお叱りを受けるだろう。こんなことを考えたのは、ニュースではまずトップで今日は感染何人と報道されるのに重症者や死者の数は報道されないから。あまりに少なくニュースの価値がないのだろう。その後同じアナウンサーが様々な業種の苦境を伝える。アナウンサーは高給取りでコロナで影響は受けない。そんな人たちが同情するような口調で街の苦境を紹介している。その前に御本人がしゃべっている感染者数のみの危機感満載の報道がいたずらに不安を煽って苦しむ人を増やしているような気がするのだが。

東大河岡先生は弱毒生ワクチンを開発中とのこと。投与する年齢層を限定的にすることでより迅速に安全な生ワクチンができるのではないか?

ぼちぼち「新型コロナは2類感染症から外すべき」という意見も出始めた(なおうちの先生の指摘では新型コロナは「指定感染症」であってまだ2類感染症ではないらしい。いつのかわからないが厚生省の資料もそうなっている)。また現実に即した政策の提言も出てきた。こちらも同じご意見こちらも。こういう意見が増えてくれば潮目も変わるかもしれない。

日本の報道や政策の混乱をみると、来年、再来年もどうなっているか暗澹たる気持ちになる。やはりスウェーデンが最も成功したのかもしれない。失敗と報道されることが多いスウェーデンのやり方だが、報道内容と実際は異なる。また軽症では抗体陽性にならなくても強いT細胞免疫が獲得されているらしい。
 


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-07-16 15:23:01 (3519 ヒット)

  今日は東京で新規感染者数が280人を超えるとのことで、東京は諸悪の根元のように言われGOTOキャンペーンも槍玉に挙げられている。マスコミは第二波襲来かとあおりたてる。しかしやはり腑に落ちないことがある。これだけ感染者が増えても死者はほとんど出ていない。もちろん死亡は3,4週間後でないと反映されないのだろうが重症者数も増加がない(追記:と思っていたが最近じりじり増えつつあり楽観はできない)。40代50代も感染しており養護老人施設でもクラスターが見つかったと言われているのだが(追記:その後どういう経過になっているのか知りたい)。
世界の感染状況をみていると、一旦死亡数が落ちた国で再び上昇した国は少ない(イランは2度目も上昇)。アメリカですら感染者はまだ増えているが死亡率(数はその後増加)は減少している。イタリア、スペイン、イギリスなどでも死者数で見る限りかなり落ち着いている。ロックダウンをせずに集団免疫を目指したスウェーデンでは6月末に感染者数は2度目?のピークを迎えているが死亡者数は減り続けている。これはどういうことか?全く素人の考えだがこのウイルスは何度かヒトーヒト間を伝搬すると毒性が低下するのではないか?これは別にコロナウイルス に限ったことではなく多くのパンデミックを起こしたウイルスは感染力が上がっても毒性が低下して人類と共存するようになる。スペインかぜでは一旦強毒化したので第二波でさらに死者が出るとあおられているが今回もそうなるという根拠はない。ともかくこのときのH1N1亜型も低病原性となり持続している。「新型コロナもいずれ季節性のカゼになる」と最初から予想していた方もおられた。ぜひウイルスの遺伝子を調べてもらいたいものだ。3月と今では多くの変異が見つかるだろう(毒性と関係するかは詳しく調べないとわからないが)。
我々に免疫がついてきた可能性もある。抗体検査では1%いかなくても、実際にはかなりのひとが抗体を失っても免疫記憶を持っておりすぐに獲得免疫が発動して軽症で済むようになったのかもしれない。今日見かけた高橋先生は日本人は自然免疫の能力が高く抗体ができる前にウイルスを排除してしまう可能性を指摘されており、「訓練免疫」といって各国でも自然免疫力が高まった可能性もある(教科書的には自然免疫には記憶はないとされるが、最近は自然免疫にも記憶があるとする説も出されており今回がよい証明になるかもしれない)。もちろんインフルエンザだって罹患しないにこしたことはない。気を抜いていいとは思わないが底なしのパニックになる必要はないのではないか。

児玉先生は「ウイルスが変異して感染力が強い「東京型」「埼玉型」が発生している可能性を指摘とか。先生はウイルスの遺伝子を追っておられるので確かに変異は入っているのだろう。ただ「感染力が強い=毒性が強い」ではなくむしろ「毒性は弱まっている」と思うのだが。それがウイルス学では一般的な考え方だと思う(実際、ウイルスや感染症の専門家も以前からそうおっしゃっていたと思う)。実際に弱毒生ワクチンを分離するときは実験動物で何度も継代して得る事が多い。野口英世で有名な黄熱病のワクチンもそうやって確立された。ぜひ感染力だけでなく毒性も議論してもらいたい。

  イタリアの現場を指揮していた方もウイルスが弱毒化した可能性を指摘されているそうだ。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-07-09 18:45:04 (2679 ヒット)

 4ヶ月ぶりに演壇に立って講演を行った。もちろん無観客で聴いているのは座長の先生や大会関係者数名とWeb配信用のスタッフ。配信スタッフの方が多く貴重な拍手源だ。それでも学会は心踊る。翌日のシンポジウムはどの講演もものすごく新鮮でエキサイティングだった。やっぱり音楽の演奏会と同じくライブがいい。

破骨細胞の講演の質疑でつい素朴な疑問を思いついて「骨折では骨は再生するのにリウマチではなぜ骨は再生しないのですか?」と質問してしまった。「骨の先端には骨芽細胞がいません。」。今まで何研究してたの?「ばかな答えはあってもばかな質問はない」と言われるが、さすがに恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だった。

朝一番の講演の先生は大阪からで会場の新宿のホテルに泊まっていたのだそうだ。「勇気ありますね。」『いやあ周りから危ないところ(夜の街?)には行かんようにと言われました」。
その先生は関係ないとは思うが東京の感染者は今日は224人。確実に死亡は減っているのだが自粛要請前の200人と何が違うのだろうか?自粛前は単に検査してなかったから?死者数が増え出した時がヤバイのだと思う。今日は来年の学会の話も出た。本当に昔みたいに賑やかに開催できるのだろうか。

九州では大雨の被害で多くの方が犠牲になり、家を失った人も多い。この暑さの中、片付けだけでも大変だろう。災害でも自粛でも辛酸はいつも弱い人にまず襲いかかる。天は乗り越えられない試練は与えないと言われるがなんとかならないものか。

新宿区は感染が見つかったら見舞金として一率10万円を支給するという。入院に限らず無症状でももらえるらしい。どこをどういじったらこんな政策が出てくるのか。。感染者数が増えているのはこのせいか?
隔離に協力してもらうため、ならわからんでもないが。

だが本当の致死率がシンガポールのレベル(5万人近く感染して26人)なら指定感染症にしている意味がないと思える。最後は意識の持ちようか。でもそのまえに欧米とアジアの死亡率がなぜこんなにも違うのかはっきりさせるべき。なぜ若い人は軽症なのか?また今回の200人超えではなぜ前回よりも感染者が多いにもかかわらず医療は逼迫していないのか?このあたりをはっきりすればよい方法がみつかるかも。

それにしても何かがおかしい。陽性者が多いのはPCR検査を増やしたからだという。最近の陽性率は5%程度だそうだ。もし普段の生活をしているならこの程度は普通に蔓延しているはずでおそらく2月3月もそうだったろう。なのになぜ抗体陽性率が1%を切るほどに少ないのか。抗体検査の感度が悪すぎるのか、抗体は失われやすいのか、PCR陽性でも自然免疫系もしくは免疫記憶で素早くウイルスは排除されるのか。最近の研究では多くの感染者で数ヶ月以内に抗体価が下がると言う(と言って免疫記憶が残ればある程度素早く戻ると思うが)。感染したひとはPCR陰性になるまで何度か検査を受けるはずなので無症状のひとはどれくらいでウイルスが無くなるのか、また抗体価はどうなるのか、ぜひ調べて欲しいものだ。無症状の人を詳しく調査するのは意味がないと思われるかもしれないが、極めて重要なことだと思う。それで合理的な対策が見えてくるのではないだろうか。見えない恐怖に踊らされているというこの方の意見に著しく同意する。



 


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-07-03 16:02:35 (2631 ヒット)

 7/3 昨日に引き続いて東京では感染者100人超えたそうである。感染者数が増えているのが憂鬱なのではない。その数字に慌てふためいてまた「自粛」とか「第二波襲来」とか言い出す人がでてくるのではないかと心配だ。さらに感染した人を非国民の如く過剰に責め立てる風潮にも不快感を覚える。感染者は出ていても若者が中心で症状は無いか軽いので現在のところ医療体制を逼迫させてはいない。死者数はむしろ減り続けている。京都大学の先生が「慌てず冷静な受け止めを」とおしゃっている通り。PCR検査を拡充するのは感染した人を早めに見つけて他にうつさないように注意してもらうためで、それによって感染者数は漸減していくだろうしなにより高齢者の感染や院内感染を防止して重症者を抑えることが可能になる。若いので仕方ない、他にうつさなければいいくらいの寛容な世界にならないものか。

それでも感染者数が再び増加したということは「自粛」「緊急事態宣言」は少しは感染者数を抑える効果があったのだろう。でももし「増えたら自粛や休校をやる」なら永遠(とまではいかないでも)に増加ー減少ー増加ー減少を繰り返すばかりで一向にコロナ禍はなくならないことになる。案外長い目で見たら集団免疫を目指したスウェーデンが最も成功した国になるのかもしれない。素人考えだが感染可能性の高い場所のみに絞った対策などが有効なのでは?都知事に再選された小池さんもそんなことを言ってたな。ピンポイントでと。 

ワクチンはすぐに実用化されるだろうか?そうなればいいが期待のDNAワクチンやRNAワクチンは実はまだ医療用ワクチンとして認可されたものはない。本当に細胞性免疫まで十分に誘導できるのか(抗体よりもT細胞が大事という説もある)。ぶっつけ本番でチャレンジしているわけだが副作用はもっと未知数だ。10万人にひとりしか副作用がないとしても1億人打ては1000人に副作用が出る計算になる。1976年アメリカで新型インフルエンザが流行する気配を見せた。その時100万人が死亡すると煽った専門家もいて(似たのような話を最近聞いたような気がする)当時のフォード大統領は全国民にインフルエンザワクチンの接種計画をぶちあげた。しかし、結局新型インフルエンザの死者は一人でワクチンの副作用で500名以上のギランバレー症候群の患者を出し4000件の損害賠償が残った。そのせいかどうかわからないがフォード大統領はその年の大統領選挙に破れている。

NHKスペシャル「タモリx山中伸弥 人体vsウイルス」をみた。ビジュアルはさすがでHLAも分かりやすく説明されていた。しかし所々面倒なところは端折っている。抗体産生がなぜHLAに規定されるのかなどヘルパーT細胞を入れると説明が厄介だ。ケチをつけるつもりはない。ただファクターXの仮説から交差免疫説を外したのはどういう意図があったのだろうか?HLA説は10倍以上の差を説明するには分が悪そうだ。交差免疫説をとる人も増えているように思うのだが。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-06-18 09:38:43 (4213 ヒット)

 新型コロナウイルス 感染による重篤な肺炎やサイトカインストームに白血病(B細胞腫瘍)治療に用いられる薬剤ーBTK阻害剤が有効であるとの報告がなされた。論文はこちら。BTKはB細胞の発生や維持に必要なチロシンキナーゼで、これを遺伝的に欠損するとB細胞がいない、すなわち無ガンマグロブリン血症になる。B細胞腫瘍でもBTKは増殖生存に必要なのでBTK阻害剤はB細胞リンパ腫の治療に有効だ。今回これがサイトカインストームに効くことがわかった。といってもB細胞がサイトカインストームを起こしているわけではない。
BTKはマクロファージにおいてToll-like receptorとインフラマゾーム(炎症性サイトカインIL-1βの産生に必要な細胞内マシーン)の活性化に必要なのだ。2015年に伊藤さんと森田君がこれを世界で最初に報告し、この論文でもちゃんと引用してくれていた。日本語はこちら。サイトカインストームではIL-6が話題になるがIL-1βはその上流に位置すると考えられる。我々も整形外科の森君や宮本先生(現熊本大学教授)といっしょに関節リウマチで報告している(ちなみに日本の免疫学会が出しているIF=4~5くらいの雑誌だが152回も引用されている)。なのでインフラマゾームーIL1βを抑制するBTK阻害剤はサイトカインストームの根元を断ち切れる可能性がある。わかりやすい模式図(論文のFig.1)はこちら。我々基礎研究をやっているものが患者さんの治療に使える薬や治療法を直接的に開発することは難しい。しかし基礎研究を通じて自分たちの発見がたとえ小さくても「人類の知恵」のひとつに加わって、かつ結果的に人の役に立つことがあれば本当に研究者冥利につきる。私に残された時間は少ないがそんな研究をひとつでも増やせたらいい。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-06-16 22:09:30 (2515 ヒット)

 夜中の10時すぎ。AMEDの審査が尋常でない量があり今ものすごく時間がなく焦っている。ひとりで必死にパソコンの画面とにらめっこしているとパタパタと足音がする。もう随分前に最後の学生が帰ったはず。誰か戻ってきたのかと思って廊下に出るも誰もおらず、全ての部屋も閉まっている。気のせいかと机に戻るもしばらくしてまた足音。やはり誰もいない。これはいかん。もう帰ろうとすると隣の部屋でごそごそ音がする。思わず「誰だ!」と怒鳴ると学生さんが「1階の鍵を返しに来ました」と申し訳なさそうにしている。いや肝が冷えた。
でもその前の足音は間違いなく彼のものではない。この古い校舎は60年以上前に建てられた。それなりにいろいろな歴史を抱えているのだろう。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-06-06 10:06:20 (4995 ヒット)

 CD19-targeted CAR regulatory T cells suppress B cell activities without GvHD

プレプリントはこちら。
https://insight.jci.org/articles/view/136185/pdf

JCI insightというやや臨床よりの雑誌に受理された。CAR-TはT細胞にCARと呼ばれる人工遺伝子を導入して治療につかおうというもの。遺伝子操作と細胞療法を組み合わせた未来の医療のようにみえるが、一部の白血病ではすでに実用化されている。我々は制御性T細胞(Treg)を自己免疫疾患や臓器移植の拒絶反応の抑制に応用しようと長年研究して来た。マウスではかなりのところまで達成していたがヒトTregはマウスとはかなり違って難しかった。これに正面から取り組んでくれたのが某製薬企業から出向してしてくれていたI君。さすがに優秀で短い期間で卓越した成果を出してくれた。アカデミアでも十分すぎるほどやれると思うが悪い誘惑はしていない。

今回の研究ではSLEなどの抗体依存性の自己免疫疾患の治療を想定している。SLEではB細胞からの自己抗体産生が発症もしくは増悪化に関与することが知られている。重篤な場合はB細胞の除去が治療として選択されることもある。そこでB細胞を認識するCARを導入したTregを作成したところ試験管内でも個体レベル(特殊なマウスを用いているが)でも抗体産生を極めて効率よく抑制することができた。
CAR-T療法の問題のひとつは過剰な免疫応答によるサイトカインストームの発生。IL-6阻害等で対応はできるそうだが危険性はつきまとう。Tregはむしろサイトカイン産生を抑える細胞なのでGvHDのような標的以外を攻撃する危険は少ない。だがヒトTregを応用する場合の問題のひとつはマウスと違って安定なヒトTregを高純度で取り出すことが難しいことだった。I君は試行錯誤の末、これを複数のマーカーで純化することで長期間拡大培養してもTregの性質を維持できる分画法を見つけた。この分画はTregと思われる集団のうちのわずか3%しかいない。幸いヒトT細胞は刺激によってものすごく増える。実験に十分な量のTregは確保できるようになった。しかしヒトの治療にはまだ数は足りない。将来的にはiPS由来のTreg利用もあり得るだろう。
もうひとつの成果はヒトTregの表面には大量のTGFβの前駆体が発現しており、これがB細胞機能の抑制機構として重要であることを確認したこと。TGFβには免疫抑制効果の他様々な生理機能があるが、この性質をうまく利用した疾患標的を見つけると応用範囲が広がる気がする。

私的にはこの数年間ヒトT細胞を用いた研究をやりたいと意気込んで来た一つの到達点なので極めて感慨深い。あとはもう少し倫理申請がわかりやすくなるといいのだが。一番の課題はそこか?
abstractの英語が変なのは変に修正したせい。校正時に直します。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-06-03 15:14:58 (2395 ヒット)

ほぼ毎日2コマ収録することでなんと実質10日程度で講義を終えた。満足感に浸っていると、動画を学生が観れるようにupするのでチェックしろいう。観なければよかった。聞き返すと、元来こもった声で滑舌が悪いのに早口なので、なんと言っているのか自分でもわからないではないか。そんな箇所が極めて多い。他の先生は全員zoom収録で良好に聞き取れる。今更zoom形式で再収録もしたくない。最後の講義で学生さんに謝って「聞き取れなかったら電話でもメールでもいいから質問して」と訴えたが、、後の祭り。まあいいたいことはスライドに書いてあるので理解はしてもらえると期待したい。
講義形式のほうがよいと思ったのは途中で板書ができるから。と思ったのだが位置の関係で板書を別に映すことができないことがわかった。モニターは大きなTVなのでこれに透明ビニールシートを貼って水性ペンで書き込むのはどうだろう?もし来年もあるならトライしたい。本当はスライド画面にappleペンで手書きをするつもりでiPadを用意したのだが、メモリが足りないのか止まってばかりで使いものにならなかった。ビニールシートは画期的なアイデアだと思うのだが。
録画なら講師と学生の対話形式にしてはどうだろうか?高校講座などでも生徒役が質問することでわかりにくいところを懇切に教えてくれる。一方的にパワポを見せて喋っているよりずっといいような気がする。これも来年やる機会があればだが。

巨人軍218人が抗体検査をして4名がIgG陽性だったという
。うち2人はPCRで「微陽性」ということだが、これはウイルスの死骸かもしれずIgG陽性なら無視していいと思うが、練習試合は中止になったという。4/218なので2%くらいが過去に感染したことになる。プロ野球界では相当に厳しく感染制御をしていはずで都内ではもっと感染経験者は多いのではないだろうか。児玉先生の検査では都内で500名中3名0.6%が陽性だったがこの差は検査キットの感度か特異性のせいだろうか。いずれにしても無症状の感染者が極めて多いということで、毎日PCRで何人陽性と報告するのもいいが、そのうち何人が軽症で何人が重症かを明確にしたほうがいいのでは。必要なのは軽症無症状な人を縛ることではなく重症になりそうな人を見つけて防護することで、そちらの方が効率的で経済的損失も少ないと思うのだが。

スウェーデンの小児研究では感染拡大におよぼす子供の寄与は大きくなく、学校を再開しても高齢者の死亡数は増えないと報告されている。日本の小児科学会も「学校や保育施設の閉鎖は流行防止効果に乏しく逆に医療従事者などが休まなければいけなくなり死亡率を上げる可能性がある」としている。大阪市は学校でフェースシールドを着けさせる方針を発表して「かえって危ない」と批判されている。あつものに懲りてなますを吹く、とはこのことだろう。どうしてこうもevidenceに基づかない「思いつき」が横行するのだろうか。
京都大学の藤井先生という方も「8割自粛は必要なかった」というようなこと主張されている。このかたも同じ意見のようだ。そもそも感染していない人たちを無理に隔てることに意味があるのか?という疑問はごく自然なことだ。マイカーの中でマスクをしている人は何を恐れているんだろう?もし不安なら生徒や学生には熱を測るだけでなく全員に定期的に簡易抗原検査をすればいい。東京では連日夜の街を中心に20名を超える感染陽性者が出ているそうだが、逆に言えば学校や普通の生活を送っている人たちはかなり感染防御が徹底しているということでは。PCR検査を拡充しようというのは、陽性だった人に「他にうつさないような自粛を徹底してもらう」ためなのではないか。都は夜の街の従業員に定期的に検査を受けてもらうという。これこそ実効性のある施策だろう。

6/16 厚労働省の抗体検査では東京都0.1%、大阪で0.17%だそうだ。どのキットを使ったのか不明。ELISAなのか簡易キットなのかでも感度は相当違うだろうが、やはりそんなものか?しかし巨人軍の4/200より相当少ない。日本、いやアジアでは欧米に比べるとなぜ感染者数自体が少ないのか?謎は謎のままか。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-05-26 15:38:47 (3470 ヒット)

本日はじめて学部の講義収録に臨む。これまでパワポの音声録画、Zoomを使った録画はやったが、今回は無観客試合ならぬ無観客授業。パワポを説明するだけでは面白くなかろうと教壇にたって普通に講義を行い録画する方式をお願いした。それでもZoomを使った双方向の講義ではなく単なる録画。聞き手は後日拝聴するらしい。どの方法がいいのか自分が聞く方の立場になることは滅多にないのでわからないが、少なくとも相手がいないと確実に早く終わる。普段90分の講義が60分もかからなかった。目の前に人がいないのにジョークも言う気がしない。機関銃のように喋って終わる。レスポンスもなく疲労感はこちらの方が大きい。やはりzoomを使った対面講義の方が余程いいと思う。浪速大学の仲野先生は「講義は一期一会」とか言って収録配信は断ったそうだ。そのほうが学生にも生活のリズムができていいのだろう。好評だったそうだ。私の講義などそんな大それたものではないので聞いてもらう必要もないとは思う。

緊急事態宣言が解除されて日常が戻ってきた。ラボも正常運転でいきたいがやはり関心はコロナである。本当に第2波は来るのか?自粛や都市封鎖は効果があったのか?薬のようにプラセボと比較することが難しいのでなんともいえない。ただ数十万人の死者が出ると脅していた疫学の人たちは100年ほど前からあるモデルを使っていたようだ。2013年にノーベル化学賞を受賞した分子シミュレーションの専門家のマイケルデビッド博士は真っ向から反対意見を述べている。彼の計算では都市封鎖はむしろ多くの死者を出すという。おそらく今は国民の努力と紫外線や湿度でウイルスの伝染力は落ちている。もし第2波が来るなら小休止の今こそ本当に有効な方法を科学的に議論してもらいたいものだ。

今日めでたくアベノマスクが届いた。これは子孫に残せば50年後プレミアがつくかもしれない。大事にとっておこうと思う。

疫学は素人なのでコロナについては言わないようにしようと思っていたがついつい自分の言いたいことと同じ記事があると引用したくなるし、ほれみろ、と思ってしまう。私の見解は強力な自粛は必要なく、高齢者など重篤になる可能性の高い人を徹底的に防御するようにして健常者は街に出たほうがよい、というもの。マイケル博士と同じくイギリスの研究チームは強力なロックダウンは必要ないという見解を発表しているそうだ。あわせて日本人を含むアジアではすでに近縁のコロナウイルス に感染の経験がある人が多いので重症化しにくいので(まだ検証はされていないが)そうでない人を守れば良いのではないかと疑っている。これも山中先生のファクターXと同じ発想
毎日感染者数が公表されているがこのうち何人が軽症で何人が重症かは報告されていない。クラスターの追跡ではPCR陽性の人の中には必ず軽症や無症状の人がいるはず。毎度のことながら今回のコロナ禍でも立場の弱い人たちが窮地に追いやられている。思い返すとWHOは1月の時点では厳しい渡航制限などは必要ないと言っていた。子供や若い人を中心に軽症や無症状が多かったせいもあるだろう。その時に軽症や無症状となるメカニズムをちゃんと解明しておけば対応の仕方も随分違っていたのではないかと思われる。トランプではないがWHOの無策が今日の混乱を招いたという考えには賛同する。軽症や無症状となる一番考えやすい機構は交差免疫による早期のウイルス排除だろう。

小児科学会は「休校は感染防止効果は少なくデメリットが大きい」として反対声明を出したそうだ。ようやくevidenceに基づいて考えようという機運になってきたか。なぜ子供は感染しにくく症状も軽いのか?これもメカニズムがわかれば大人の対策に活かせるだろう。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-05-25 08:31:05 (3994 ヒット)

 トランプ大統領は予防的にヒドロキシクロロキンを服用しているという。主治医は効果はないだろうと言っているそうだが。クロロキンは私にとっては縁のある薬剤である。もう40年くらい前の大学院生の頃にインフルエンザウイルスの細胞内侵入機構を研究していた。インフルエンザをはじめ多くのウイルスは細胞膜から直接入るのではなく細胞に取り込まれてエンドゾームに移行する。ウイルス表面のスパイクタンパク質はこのエンドゾーム内の酸性pHを利用して構造変化を起こして、膜融合活性を惹起させてウイルス核酸を細胞質に注入するコロナウイルス の場合は酸性pHで活性化されるプロテアーゼで切断されることも必要だが融合活性にも酸性pHが必要らしい。このエンドゾーム内の酸性pHを中和するのが塩基性化合物で様々な薬剤がその能力を持っている。クロロキンもその一つで私も40年前に実験室で使っていた。試験管内ではインフルエンザやコロナだけでなくエンドゾームから侵入するウイルスに広く効果がある。クロロキンはエンドゾーム内で蓄積するので比較的低濃度で効果があったが、服用される量で同じ効果があるとは思えない。

クロロキンのもうひとつの効果は免疫抑制である。ヒドロキシクロロキンは自己免疫疾患SLEの治療薬として使われており、その効果のひとつは制御性T細胞Tregを増やすことにある。なのでサイトカインストームには効果があるあだろうが、予防的に飲んでいると免疫抑制に働くのでウイルス感染を増悪化させる可能性がある。実際致死率は増加するとの報道もある。なぜクロロキンがTregを増やすのか?それはクロロキンの標的が我らがNR4aだからである。まだ確たる証拠はないが私はクロロキンはNR4aの活性を上げることでTregを増やすのではないかと考えている。残り時間はもう少ないが定年までにこれを証明したい。と思ったら論文出てた。考えることは皆同じか。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-05-20 15:15:14 (3233 ヒット)

雲の隙間から日が差して光線がスジ状に見えることを薄明光線という。関西は緊急事態宣言が解かれ、東京も新型コロナ感染者は一桁になり、いよいよ収束に向かいつつあるのか、という気がする。明るい希望を持てるかもしれない。
東大の児玉先生の抗体調査では東京都の推定感染者数は8万人でPCR検査で確定した5000千人あまりの8倍だという。この記事では重要なことが触れられていた。日本人の感染で軽症な人はひとはIgMよりもIgGの立ち上がりが早いという。通常初感染であればIgMができてそれがIgGにスイッチする。免疫記憶があれば(すでに一度感染していたら)早期にIgGが上がってくる。ということは実は軽症者では免疫記憶が成立していて重症者は初めてコロナに感染した、ということになる。やはり日本人(アジア)の多くはすでに類縁のコロナに感染したことがあって集団免疫に近い状態だったのか。もしそうなら新型コロナに特異的な抗体を検査するよりもむしろコロナに共通のコアタンパク質に対する抗体検査のほうが重要な意味を持つのかもしれない。最近のウイルス抗原に対するT細胞応答を調べた論文でも、新型コロナに未感染者の60%に少なくともヘルパーT細胞応答が見られるという。感染防御に直接働くキラーT細胞でも30%くらいは反応するらしい。新聞報道はこちら。日本人を含めてアジアで死亡者数が少ないのは、すでにかなりの割合で類縁の弱毒のコロナウイルス に感染した経験があって免疫をもっており、そういう人たちは重症化しないという仮説はかなり説得力があるように思える。同じアジア人でもイギリスでは死者が多いのでHLAのような先天的な要因よりも後天的な要因のほうが大きいのではないかという気がする。
Yale大学の岩崎先生(免疫学では著名な方)は論文で日本で感染者も死者も少ない理由として5つの可能性を挙げられている。その中の2番目の可能性として上記の説を取り上げられている。

こういうのは免疫学的には非常に興味深いのだが、私は一番の要因は社会習慣ではないかと思っている。日本人は衛生観念が高く、手洗い、マスク着用を常に行ってきたこと、何よりも大きな痛みを伴う自粛要請に相当素直に従ってきたことが大きかったのではないかと思う。国民の努力と忍耐の賜物であってこれは誇っていいような気がする。
 

でも今後普通の生活に戻るためには集団免疫が成立しているかどうかの検証が欠かせない。なので抗体検査もむしろ交差反応まで重視して感染防御効果のある抗体を検出するべきなのだろう。本当を言えばT細胞応答を調べることはもっと意義があると思うが残念ながら実験室での細胞培養が必要なのでこれを簡便に調べることは現状では難しい。しかし研究レベルでは国ごとにT細胞応答を比較することで重症化しにくいメカニズムを明らかにできるだろう。さらにT細胞応答を指標に新型コロナに交差できる弱毒コロナを見つけることができれば生ワクチンとして使用できる可能性がある。山中先生はファクター-Xと呼ばれているが、最近コロナウイルスOC43というのが候補に挙げられている。感染者数を数えることも大事だが近縁のコロナに対する免疫を持っている人は軽症だろうから分けて考えるべきだろう。 

今年は講義はすべて録画。収録が始まりかなり忙しくなってきた。Zoomの使用には少しずつ慣れて来たが録画はなかなか難しい。途中で電話がかかって来てそれも入ってしまった。編集することは不可能ではないだろうがとてもそんな余裕はない。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-04-22 18:16:38 (5997 ヒット)

4/22 たぶん素人のたわごとはこれが最後。
慶應大学病院では新規の入院患者は全員PCR検査をしているそうで、その結果が公表された。『コ
ロナ感染症以外の治療を目的とした無症状の患者さんのうち5.97%の陽性者(4/67)が確認されました。』NHKでも紹介された。
サンプル数が少ないとはいえ無症状のひとの6%がPCR検査で陽性(現在感染している)ということ。もしそのまま外挿すれば東京都の人口1000万人とすると60万人もが現在感染していることになる。若い先生に教えてもらったのだが
ニューヨークの妊婦さんのPCR検査では無症状の210名中29名(13%)が陽性だったという報告があるのでありえない話ではないだろう。さらにすでに感染しウイルスが消えて抗体を持っているひとはアメリカの結果を考えるとすごい数字なのではないか(もし抗体陽性者がPCR陽性者の10倍いるとするとすでに60%が抗体を持っていることになる)。10倍はいいすぎだろうが、23日の暫定的な報告ではNY州が14%NY市は21%だそうなのでそれくらいはいっているかもしれない。これは早期に抗体検査をすべきで、その価値は十分あるように思える。もし集団免疫が(かなり)できているとすると京大の先生のいうように弱いS型がすでに蔓延していたためなのかもしれない。そう考えると重症な人や死亡者が他の国に比べると極端に少ないことは説明がつくのかもしれない。
また、もし集団免疫が近いか、あるいはこれほど無症状が多いなら強力な封鎖はあまり意味がないか、むしろ終息を遅らせる可能性があるのではないだろうか?我々は壮大な無駄を行なっているのかもしれない。

私は『若い人は普通に生活して経済活動を再開しどんどん免疫をつける。65歳以上および基礎疾患のあるひとは厳しく外出を制限したり接触に十分注意する
。万一感染して症状が出た人はすぐに隔離しアビガンなど抗ウイルス剤を早期に投与する』でいいような気がする(スウェーデン方式+ハイリスク集団は接触制限)。PCR検査は症状のあるひと、および65歳以上あるいは基礎疾患のあるひとのみでよくて(今までと違って熱が出たり疑わしいのはすぐにやる)、むしろ抗体検査を中心にして高齢者でも免疫が成立したひとは外に出て良いことにする。もちろん医療関係者は一番に抗体検査を行う。

免疫学は専門でも全く疫学を知らない素人の言うことなので暴論かもしれない。ぜひ専門家の西浦先生には机上のパラメーターではなく実測値を使って理論を動かして(シミュレーションを行って)、封鎖の程度や隔離のやりかたによって今後の推移がどうなるかを予測していただきたいものだ(スウェーデンの疫学者は数理モデルで5月中には集団免疫が達成されると言っている)。そもそも実測値なしでどうやって「予測」や「方針決定」ができるのか実験科学者にとってはなかなか理解できないところだ。ただ抗体測定キットは世界中で需要が高く日本ではなかなか手に入らないし、感度と特異性の点で問題が指摘されている。確定診断はHIVのようにウエスタンブロッティングなどが望ましいのだろうが手間暇かかりすぎる。ぜひ国産のいいものを早急に発売、認可してほしいものだ

厚労省は抗体検査を始めるという。まずは検査キットの性能を確かめるために献血で得られた血液を使うそうだ。患者ではなく健常人の献血試料ということは内心では抗体陽性者がかなりいると思っているのでは?PCRに比べれば随分動きが早いのは何か確信があるのではないかと期待してしまう。


 
ついでに「抗体があるからと言って再感染がないとはいえない」といって難癖をつける人がいる。WHOもそう言っている。しかしそれは免疫学を知らない人の言うこと。抗体があってもT細胞免疫があっても再感染はします。再感染しても気づかないか軽くて済むということ。ついでに抗体価が低くても再感染によって急速に抗体価が上がる(これをニ次応答と言う)のでそれほど心配することはないと思われる。WHOも感染を経験したほとんどは抗体をもつがごく一部は抗体価が低いと言っているがその人たちが再感染して重症になった、あるいは感染を拡げたという正確な数を公表していない。PCRが陰性になって退院しても再び陽性になって感染させることはまれにあるらしいので抗体価も測って用心するにこしたことはない。熊本の例は発症から6日で退院させており獲得免疫が十分発達していなかった可能性がある。もちろんウイルスに変異が入れば別だが、それはワクチンも同じで「難癖をつける人」はワクチンも否定していることになる。肝炎ウイルスのように慢性感染に移行する可能性もゼロではない。免疫不全のひとは再感染で重症化するリスクはある。しかし100のうち2の例外があるからダメと言う場合もあれば98がうまくいけば理論的に多くの命を救えると言える場合もある。それほど心配なら抗体価の低い人は隔離の方にまわせばよい。WHOの誰かは知らないがこういう100のうち2の例外をあげて有用な98を完全否定する言い方は科学的とは言えない。100%完璧はないができるだけ事実に基づいて科学的、合理的な考え方を心がけたい。


誤解のないように付け加えると、言いたいことは「このままNY並みの強力な封鎖をしても、すでに蔓延した状態ではやはり万人単位で死者が出るのか?」「スウェーデン方式(ただ現在のスウェーデンでは高齢者も隔離はしていないようなのでそこは厳格に隔離すべきだろう)にしたら終息が早まりある程度の死者数はでるとしても結果的にこれくらい」などなど考えられる方策とシナリオを実測値を入れて、専門の西浦先生らが数理シミュレーションを行い、最もいい方法を提示すべきではないか、ということ。極論すれば「封鎖して感染を減らす」のと「一部解放して集団免疫をめざす」のと現時点でどちらが死者が少ないのか、どちらが早く終息するのかくらいは計算できるだろう。自分はどうも理屈で納得できないと行動に移せない性分らしい。
1918年のスペイン風邪を例に歴史に学べ(だから即封鎖すべき)というひともいる。しかし当時はウイルスも免疫の仕組みも分かっておらず、PCRも抗体検査も、数理モデルもなかった。抗ウイルス剤もなかった。特に大きな違いはスペイン風邪では若年壮年層に死者が多かった。この100年の科学の進歩を踏まえて議論する方が納得できると思う。

また追記。今日のニュースでは一回2万円くらいするにもかかわらず
ニューヨークの市民が民間の抗体検査場に行列を作っている様子を写していた。インタビューでは陽性なら安心できると答えていたので意味が正しく理解できているということだろう。採血なので簡易検査ではなくELISA法で正確に測っていると思われる(でないと2万円は高すぎる)。ニュース最後にはやはり100のうち2を心配する医師が出て来て「抗体はいつまで保つのかわからない、まだわからないことが多い」と反対していたのでやっぱりかと笑える。ニュースや記事で両論併記はしかたないにしても知識のない読者には賛否半々と受け取られてもしかたない。ニューヨークの市民のほうがよくサイエンスを理解しているように思える。

抗体もPCRも検査は本当は市民の要望が強い。しかし日本では大量の検査をさばけるとは思えない。池上彰の番組では機器が足りないと言っていた。多くの大学や国立研究機関や企業の研究室は半ば閉鎖されている。そこではかつてPCRもELISAも日常的にやっておりリソースも技術も十分ある。これらを活用しないのはもったいない気がする。航空会社のCAも医療用ガウンの縫製に手を挙げている。志願者だけでいい。今眠っている研究室のリソースを活用してはどうだろうか。PCRの機器が足りないとも言われているが休眠研究室にはすごい数が眠っているはず。せめて科研費(国費)で買った機器は非常時なので拠出させてはどうか。山中先生もそんなことを言っていた。
そんなことを考えていたらタイミングよく大学からPCR要員の志願兵、いやボランティアの募集があった。もちろん精製した試料で感染の恐れはない。
早速志願しようと思ったが「精度確認」の実技試験があるという。落ちたら恥ずかしいので迷う。

土曜日のNスペ見ていたが途中でやめた。アナウンンサーが市中で気づかれない感染が広がっているのではないか?病院に運び込まれてから感染が判明する場合があるのではないか(アナウンサーの聞き方も変だが)と専門家会議の先生に聞いていたが先生は「そういう可能性について今後検討していかないといけない」と答えていた。どなたかが「政府は
感染がおさまらないのはまるで8割削減ができていない国民のせいのように言っている。これだけの時間があったのに準備しなかったことは全く触れようとしない。」と怒っていたがその通りだろう。ところが26日は東京都の感染者が72人と100名を切りさらに27日は39人まで減ったそうだ。これから連休でこの数字はもっと下がるだろう。都民の血を流す努力が数字に現れたのだ。これを無下に否定していいはずがない。もう東京都が発表する数字をそのまま信じる人はいないと思われるが専門家会議はまさか検査数が少ないからとは言えまい。政府が自粛要請の成果が出たと解釈して緊急事態宣言を引っ込めてくれたらそれはそれで結果的にはよいのかもしれない。

4/30 東京新聞によると新宿区と立川市のクリニックで200人を調査したところ抗体陽性者は一般5%、医療従事者9%だったそうだ。思ったよりも少ない印象。キットの感度の問題か。市販の簡易キットの性能評価がされている。使い物にならないものもあるようだ。やはり感度はPCRよりも低いようだ。ELISA法などのより正確な測定法が望まれる。
 神戸市立病院の調査では無症状の外来者のうち3%が抗体陽性だったという。こちらは1000人規模で信頼度が高そうだが血清を使ったということか精度管理できていない検査は本当は使えないという意見もあるがおおまかなことは言えそうでやはり症状がない感染者(不顕性感染者)がとんでもなく多いのだろう。これまで教えられてきた重症化率や死亡率はずっと低いのかもしれない。この状況で今の対策で本当にいいのか、子供から高齢者まで全員の自粛に意味があるのか?本当はどうすべきなのかなぜか専門家も説明してくれない。
5/4 ドイツ西部ガンゲルトの抗体やPCR検査では15%が陽性。ニューヨーク州並だが死亡率は大幅に低下し0.37%になったという。
5/5 各地の抗体検査のまとめはこちらに詳しいこちらも。いろいろな視点はあるもののひとつだけ確実なのは症状の出ているひとの何十倍も無症状の(あるはPCR検査してもらえなかった)感染者がいるということ。それを踏まえると100年前のロックダウンと同じことでいいのかという疑問は当然で予想される効果と現実が必ずしも整合性がないと言う意見もある。
実際には予測に使われているモデルが正しいのかどうか誰も検証していないのではないか?専門家会議の世界的権威の先生がよもや最も単純で大昔インフルエンザで使われたSIRモデルを使っているとは思えないが、九州大学の小田垣名誉教授(物理学がご専門らしい)は改良したSIRモデルを使うとPCR検査を増やして感染者を見つけ出して隔離すれば「5割減」でも(つまり強力なロックダウンなしでも)
早期に収束するという。詳しい論考はこちら(高校の微分方程式の知識があれば理解可能)。先生は「人と人との接触を避けるのは市民の努力だが効率的な検査と隔離の仕組みを整えるのは政府の責任」と言われている。全くその通りと思われる。Nスペでは緊急事態宣言のために困窮した人々、アルバイトができずに学業を諦めざるをえない大学生が紹介されていた。検査と隔離の仕組みがあれば人々を困窮させるような封鎖は必要ない可能性がある。
小田垣先生の論考では考慮に入っていなそうだが不顕性感染者が増えれば(あるいは集団免疫ができれば)第二波が来たときに大きな防波堤になるのではないか。そういう観点での考察は今の所少ないように思う。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-04-20 23:40:05 (2949 ヒット)

Webニュースを見ていたら驚くべき記事が出ていた。きつい話題が多い中でもしかしたら非常に希望の持てる話かもしれない。スウェーデンでは5月中にも集団免疫が成立しコロナの恐怖から開放される可能性があるという。スウェーデンでは強力な隔離政策は行わず、致死率は10%くらいとかなり高いものの感染者数は1万5千人程度。集団免疫ができつつあるとするなら本来の感染者ははるかに多いのだろう。それを支持する試験結果が報告されている。カルフォルニアで抗体検査を行ったところサンタクララ郡では2.8~4.2%が抗体を持っていたそうだ。PCR検査での感染確認は1000人程度だが抗体から推測される実際の感染者は50-80倍で人口200万に対して5万から8万人だという。オランダの血液バンクの検査結果でも3%に抗体ができているということで概ね一致している。ドイツのガンゲルトという都市では14%だという。もちろん集団免疫が成立するには60~70%が抗体を持たないといけないとされるし、抗体を持てば絶対に2度と発症しないのかも不明と言われる(ただそれを言うとワクチンも疑問視される)。まだ喜ぶのは早いのかもしれないが、スウェーデンのやりかた、つまり若い人は外に出て経済活動を推進しリスクの高い高齢者のみ隔離(私も隔離組かもしれない)するような方策(記事ではハイリスク集団も厳格な隔離をされていないようだ)がもし成功するのなら強力なロックダウンから開放されて随分楽になるのではないか(ついでに若い人たちはのびのび働ける?)。日本のやりかたは意図したのかしなかったのかわからないがスウェーデンに近いのかもしれない。集団免疫を目指すかどうかは別としてもPCR検査で現在感染している人を見つけると同時に抗体検査も並行して行うことはいつ誰を対象に開放か隔離かを決めるような政策上も役に立つのではないだろうか(前にも書いた)。ニューヨーク州でもその目的で始めたそうだ。疫学には全くの素人の妄想だが経時的に正確な数字が得られるなら西浦先生の数理モデルが一番よい方法を教えてくれるのではないかと思うのだが。
勇んで書いたら橋下徹氏と同じ意見だった日経の映像がわかりやすい医師会も厚労省に要望書を出したそうだトランプまで同じことを言っているらしい。ここまで来たらもうこの話題は十分のような気がする。科学的な疫学理論の検証や応用に使うべきで封鎖解除政策の免罪符になりそうな危険性も危惧される。

なお抗体検査と抗原検査は似て非なるものなので区別したい。後者はウイルスのタンパク質を検出するものでPCR検査に代わるものとして期待されている。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-04-15 17:36:55 (11431 ヒット)

コロナウイルス が注目されてPCRだ、抗体検査だ、アビガンだと連日報道されている。BCGによる自然免疫やサイトカインストームというおそらく一般の方には聞き慣れない言葉も多く、私も説明を求められることがある。一応免疫学を専門にしているのでコロナに特定するわけではないがウイルスに対する生体の防御反応について簡単にわかりやすくまとめ、特に最近の話題との関係も書き記したい。免疫応答の全体像はこちらを。長文面倒というかたは「免疫劇場」を見てください。


ウイルスの防御には「バリア」「自然免疫」「獲得免疫」そして「免疫記憶」がある。最初にウイルスが喉や鼻腔などに侵入しても全てが感染できるわけではなく、粘液などの化学的バリアによって侵入そのものを防ぐ機構がある。場合によっては涙でウイルスを洗い流したり、くしゃみで吐き出したりすることもある。それでも細胞表面の受容体(コロナの場合はACE2と呼ばれる血圧調節に関係する分子)に結合すると細胞内に侵入して複製を始める。この過程も分子的にいろいろ複雑なことがことが起こり、ウイルスが侵入する細胞も特定の細胞に限られるらしいが専門的なので割愛する。
ウイルス感染が起こったあとのファーストデフェンスは「自然免疫」の中でもI型インターフェロン(IFN)と呼ばれるサイトカインである。これは感染した細胞自身が「やられた!」という警報を周辺の細胞に伝えて、警報を受け取った細胞は「これはウイルスが来るぞ」と身構えるわけだ。I型インターフェロンにはαとβ2種類あるがどちらも作用は同じと考えてよい。インターフェロンは少し前までC型肝炎ウイルスの治療に使われていた。コロナでも効果があるとされているがどこまで使用されたかは不明詳しい作用はこちらのHPを参照
しかしインターフェロンだけでは防ぎきれないことが多く次に来るのがNK細胞である。NK細胞はウイルスに感染してしまった細胞を見分けて容赦無く殺す。見分ける機構は難しいので興味ある方は総説などを見て欲しい。また感染した細胞には補体と呼ばれる血液中にある防御タンパク質がくっついて殺すこともある。感染した細胞は細胞内でウイルスがやたら増えて乗っ取られてしまうがやがて細胞死を起こして死んでしまうと同時に周辺にウイルスをばらまいてしまう。細胞が死ぬときにはアラーミンと呼ばれるやはり別の警報物質を放出する。これによってマクロファージが集まってきてIL-1やIL-6などの炎症性サイトカインや炎症性化学物質を放出して強い炎症を起こす。マクロファージはまた死にかけた感染細胞を食べて消化してしまう。NK細胞や補体やマクロファージは身内の細胞を殺すことで、なるべくウイルスが増える前にウイルス産生工場と化した細胞を葬ってしまおうという「肉を切らせて骨を断つ」戦略だ。話題のBCG接種はこの自然免疫の戦闘力をあげて活性化しやすくするというものだ。なお睡眠をとるとかストレスを避けると「免疫力が上がる」から感染防御にいいと言われるが多くはNK細胞を増やすものである。「笑うといい」という話もあるがおそらくストレス軽減効果だろう。実験的には笑わせると感染に強くなるという証拠はない。実験動物を笑わせることは非常に困難だからである。

自然免疫で対処できないと次は獲得免疫の出番になる。感染で死んだ細胞はマクロファージに似た樹状細胞という細胞にも食べられる。樹状細胞は感染細胞内のウイルス抗原をかかえてリンパ節に走っていき、そこでウイルスに反応できるT細胞クローン(兵士)を活性化し数を増やす。T細胞には感染細胞を直接殺すキラーT細胞(CTL;細胞障害性T細胞とも呼ぶ)とB細胞の抗体産生を助けたり自然免疫を増強するヘルパーT細胞がいる。キラーT細胞は感染細胞の表面に提示されたclass-I HLA-抗原複合体という分子を認識して感染細胞を殺す(HLAはMHCと同じ意味。HLAとかMHCはノーベル賞に輝く重要な分子なのだが説明は難しいので単にウイルス感染の特別な目印と理解していただきたい)。クローンが増えるのに時間がかかるために獲得免疫が有効になるのに1週間はかかる。一方でB細胞は抗原を細胞表面の抗原受容体(抗体の初期段階の分子)で認識してやはりクローンが増えて、やがて抗体を細胞外に放出することになる。ここでヘルパーT細胞の助けを借りてより強力な抗体が作られる。抗体検査キットはIgMとIgGが検出されるようになっているが、IgMは感染初期に作られる抗体でIgGはヘルパーT細胞の助けをかりてより強力になった抗体である。だから一般的にはウイルス特異的なIgM抗体が検出されてIgG抗体が検出されなければまだ感染初期でIgGも検出されるようなら感染後かなりの時間がたったと判断される。

抗体やキラーT細胞でウイルスを撃退できればよいがそれには時間がかかる。ウイルスの増殖スピードが獲得免疫系の活性化を上回って感染細胞がどんどん死んでいけば肺などの機能は失われる。一義的には肺機能の低下で死亡する場合はウイルスそのものが細胞を殺すことによる。しかし一方でウイルスが減っても器官が破壊され続けることがある。よく言われる「サイトカインストーム」もその一つである。キラーT細胞やNK細胞は我々の身体の細胞を殺しているのだ。そのため感染細胞が多いと殺される細胞も多く臓器のダメージは避けられない。またウイルスの目印があると言っても周辺の正常細胞もついでに損傷してしまう。某国のミサイルがいかにピンポイントに敵国の軍事拠点だけをたたいているといっても周辺の民家にも甚大な被害を与えているようなものだ。さらにヘルパーT細胞によって活性化されすぎた自然免疫系、特にマクロファージはIL-6などの炎症性サイトカインを過剰に撒き散らしてしまう。これが多臓器不全を起こすと考えられている。なのでコロナウイルスに感染した重篤な 患者を対象に現在IL-6受容体に対する抗体(アクテムラ)や炎症性サイトカイン一般の作用を阻害するJAK阻害剤の治験が行われている。
炎症性サイトカインは脳の視床下部に作用して発熱を誘導する。感染によって発熱するのは高温では一般的にウイルスや細菌の増殖が低下する一方で免疫細胞は活発化するからである。しかし熱で体力は奪われるので文字通り消耗戦だ。アクテムラ投与は急速に熱を下げて身体は楽になると言うがウイルスの増殖は抑えないことに注意すべきである。感染時に熱を下げたほうがよいかは判断が難しい。なおWHOは熱がありコロナ感染が疑われる場合の解熱剤はイブプロフェンなどのNSAIDsではなくアセトアミノフェンを推奨している(確実な臨床的根拠はないとされる)。何故か?少々複雑なので説明は割愛するが医学生には宿題とする。

さて免疫系がウイルスに勝ってめでたく退院となる頃には、ごく一部の記憶T細胞や記憶B細胞(免疫記憶)を残して獲得免疫は戦線を縮小する。記憶B細胞はしかし抗体を作り続けており身体を巡っている抗体が次に侵入してきたウイルスを早期に排除する。キラーT細胞もいち早く感染を検知して感染細胞を殺す。なので免疫記憶が成立すると2度目以降のウイルス感染から身を守ってくれるのだ。これがいわゆる「2度なし現象」で、ワクチンはこの現象を利用している。誤解されやすいのだが、免疫があれば決して感染しないと思われがちだが実際には感染する。感染はするが早期にウイルスが排除されるので感染したことに気がつかないか軽症で済むということだ。記憶T細胞や記憶B細胞は2度目以降の感染では素早く増殖するので初感染の時よりもずっと早く効果的に対応できる。これを2次免疫応答という。なので初感染のあと抗体価が低くても2次応答の際はすぐにIgGが増えることが多い。免疫記憶がどれくらい続くのかは実はまだ確定されていない。どうもウイルスや細菌の種類によるようだが少なくとも2,3年は持つと思われる。その間にまた感染が起こり2次免疫応答が起きればそこでまた新たに記憶が更新されるのでかなり長期にわたって記憶が続くことになる。現在RNAワクチンとかDNAワクチンとかコンポーネントワクチンとかいろいろ報道されているが基本的には擬似的にウイルス感染を模倣してB細胞やキラーT細胞の免疫記憶を成立させることだと考えてよい(ワクチンの種類によってはキラーT細胞の記憶はできないことがある)。WHOは感染したほとんどの人が抗体を持つがごく一部に抗体価が低い人がいることを理由に抗体保有者が再感染を防げる保証はないと寝言を言っている。もちろんヘルペスウイルスのような潜伏感染やC型肝炎ウイルスのような慢性感染も可能性はあるが、そうなるとT細胞や抗体で完全に抑えられないのでかなりの注意が必要になる。しかし今の所それらが憂慮するほど多いという報告はないと思う。
しかしウイルスもやられるばかりではない。ウイルスはあの手この手で免疫系から逃れようとしている。例えば抗原性を変化させて免疫から逃れようとする。特にRNAウイルスは変化しやすい。インフルエンザがワクチンを打ってもなくならないのはこのせいだ。ごくまれに起る一旦陰性になってまた陽性になる場合もこのようなエスケープ機構かもしれない。コロナウイルスも今開発中のワクチンが1年後も有効かどうか。ワクチンも完璧ではない可能性もある。しかしだからといってワクチンを推奨しないと言うのは1%の漏れを指摘して99%を救おうとしない無責任な態度とも言える。生体応答なので100%完璧ということは少ないのでそこはリスクと利益を考えてデータを基にシミュレーションを活用するなど合理的な判断が求められる。
WHOは抗体があっても再感染するかもしれないので抗体陽性者でも外出しないように言っていながらワクチン開発を推奨しているのは完全に自己矛盾している。ワクチンの効果を広く調べるためには抗体価を測るしかないし、ワクチンが生の病原体よりもよりずっと効果的な免疫を誘導するという話は今のところ教科書的にはない。

また抗体産生などの免疫系の発動や効果には人間の側の遺伝性の要因も大いに関係する。感染しても軽症で済む人と重症になる人がいるし、感染者の一部には抗体値が高くない人もいる。これは本人の体力や年齢のせいもあるが遺伝子の違いにもよる。特にHLAの違いは重要で、HLAは簡単にいうとT細胞がウイルス感染細胞や抗体産生するB細胞を認識する目印なので、この違いはウイルス感受性に大きな影響を与える。HLAは民族や人種によっても偏りがある。「日本の謎」としてコロナによる死者が少ないことの理由のひとつはBCG接種のためという説もあるが、HLAの違いのせいかもしれない。最近、ようやくHLAとウイルス抗原に着目した研究が報告されたそうで、やはり過去の旧型コロナウイルス感染でも新型に対して免疫ができる場合もありそうだ。しかしHLAの分布が日本とアメリカで近いなどすべてがHLAで説明できるわけではなさそうだ。単純に考えると日本で死者が少なかったのはこれまではクラスター潰しが奏功し医療崩壊を免れて手厚い看護が得られたためで、2009年の新型インフルエンザでも日本の致死率は際立って低かった。しかし首相の号令に関わらず相変わらずPCR検査は少なく(土日はやらないくていいのだろうか?)感染経路がわからない例が爆発的に増えつつある今後はどうなるかはわからない。怪我の功名で日本はPCR検査を絞ったせいで市中での不顕性感染が蔓延したことで集団免疫の成立を早めた可能性は十分ある。

その先の話。もしウイルスが排除されても重篤な場合、肺機能が著しく損傷されて生死の境をさまようことになる。幸いにも人工呼吸器を外せた場合次に重要なのは肺組織の修復である。ここでも免疫細胞の出番だ。最近は制御性T細胞T細胞(Treg)が脳をはじめ様々な損傷組織に集積して修復に働くこともわかってきた。最も一般的なのは線維化で、傷ついたところを線維芽細胞で埋めていくわけだが、線維芽細胞の増殖や線維化にはマクロファージやT細胞からの増殖因子やTGFβが関与する。残念ながら線維化は穴を埋めるだけでガス交換などの機能的な修復はできない。なんとか肺胞細胞を増やしたい。「肺は再生しない臓器」と言われて来たが最近では肺胞上皮細胞も増殖すると言われているし、幹細胞や修復再生を目指した研究も行われている。また肺細胞の細胞死を止め修復も促進するサイトカインとしてIL-22が報告されている。しかし他の臓器と比べると肺組織の修復や再生の基礎研究は極めて遅れている。この時期なので適応修復研究を目指すにはチャンスかもしれない。間葉系幹細胞による治療効果がコロナ肺炎でも言われ始めている。ただしただしAMED-CREST/PRIME「適応修復」領域では単なる治療を目指した応用研究は歓迎されない。あくまで病態を分子細胞レベルで理解する基礎研究領域だからである。


随時加筆改訂中。素朴な疑問は歓迎しますのでメールを。

 

 


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-04-13 23:32:46 (4070 ヒット)

4/13  今日は少し遅く研究室に行って大学院生の論文を雑誌社に投稿した。未完成の課題の多い仕事だが大学院生にも自分にも「区切りをつけないと前に進めない」と言い聞かせて書き上げて投稿した。一仕事成し遂げた充実感は得られた。今日はよかったが明日から何を目的に暮らしていけばよいのだろうか。定年後をいち早く体験させてもらっているような気がする。
詳細は忘れたがある心理学の実験が行われたという。1日10万円くらいだったか高額な報酬で被験者を集め何もしないグータラ生活を何日間送れるかを調べた。もちろん本やスマホなどもなし。普通何もしないでお金がもらえるならこんなうまい話はないと思うだろう。何の目的かよくわからないが、どの被験者も3日ともたず「お金はいいから帰してくれ」と懇願したという(出典忘れた)。つまり人間は「何らかの目的や仕事」「外界との情報交換」がないと生きていけないのだ。外出制限の中、自分にできることを見つけないと。
そんな気分のせいか社会や弱者のために闘っている人の話を聞くとよけいに身にしみる。吉岡先生もだが今日のNHKの「逆転人生」の高橋先生の話も胸を打たれた。多くの病院で匙を投げられた脳性難病の小児を神業の手術で救ってきた。それだけではない。高橋先生の部屋には子供たちや親からの写真や手紙で埋め尽くされている。「社会に出るまでが治療」と言われ術後の子供たちとも診察や交流を続けているだ。その先生が薬害ヤコブ病訴訟で患者側にたったために病院を追われた。番組に出てきた田中さんはお子さんが高橋先生に手術してもらったこともあって、世の中に高橋先生の存在を知らせるべく先生と患者のドキュメンタリーを漫画にした「義男の空」を発表したのだ。コロナのPCR検査も肝炎訴訟もそうだが今も昔も厚労省はどちらを向いているのか。。高橋先生の言葉「家族の十字架を背負う」「不可能っていうのはいろんなことを工夫すれば可能になる。もっと挑戦しないと」

もっと自分が恥ずかしくなる番組があった。NHK「ストーリーズ」事件の涙「未来を見せたかった児童養護施設長殺害事件〜」元入所者に殺害された大森信也さん。自腹を切ってでも施設に保護された子供たちのその後にまで奔走して面倒をみてきた。こんなひとが自分が必死で見守ってきたその子に殺されるなんて不条理すぎる(加害者は刑事責任能力なしとして不起訴)。これはもう最後まで観ることができなかった。内容はこちらのブログに詳しい。世の中に光の当たらない場所は多い。しかし高橋先生や大森さんのように身を顧みず光を当てようとする人がいる。まねできない自分らはせめてそれを知っておくべきなのだろう。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-04-10 10:06:04 (2486 ヒット)

ここ2日ほど夜眠れない。「コロナうつ」のせいではない。右の膝が異常に痛むのだ。赤くはないが腫れて熱を帯びている。あまりの痛さに眠れなかったのだ。痛風とは違う激しい痛みで感染症かと思って調べてみるとどうやら中高年に多い「偽痛風」らしい。患者のほとんどは60歳以上で原因は尿酸ではなく「ピロリン酸カルシウム」の結晶によるインフラマソームの活性化によるもので原因物質は異なるが原理的には痛風に近い。なぜピロリン酸カルシウムが溜まるのかというと「老化による肝臓機能低下」という説があるらしい。これはもうどうしようもない。
コロナ自粛もあって家でテレビを見る機会が増えた。昨日のカンブリア宮殿はまた感動ものだった。ジャパンハート吉岡秀人先生の話だ。ハートといっても心臓病ではなくミャンマーやカンボジアで無償であらゆる医療を提供しておられる方だ。これまでも東南アジアなどで献身的に医療貢献をされている先生の話は何度かあったがこの先生もすごい。特に言葉に打たれるものがある。ボランティアに来る若者も多いという。口唇口蓋裂の手術を受けた日本人青年の話をされた。彼は顔の後遺症でいじめられてきたが今は職人として働いているという。しかし泣いてその境遇を訴えた。吉岡先生は彼をボランティアに呼んで15歳の子供の口唇口蓋裂の手術に立ち会わせて言った。「なぜ君が幸せになれなかったか分かるか?」「それはいつも与えてもらってばかりだからだ」「これから与える側に回らないといけない。与える側に回れば必ず幸せになれる。そうすれば社会は君のことを必要としてくれるし大切にしてくれるようになる。」普通は思っていても言えない。それを実践して来た吉岡先生が言うから納得できるのだろう。自分は何か社会に与えているだろうか。。。ぼーっと生きている自分が恥ずかしくなった。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-04-04 21:15:13 (3087 ヒット)

4/4東京で100名以上の感染者が出たそうだ。NHKの関東向けの放送(おはよう日本関東甲信越)「感染爆発を防ぐ闘い~保健所・病院で何が?」で実際の感染検査の現場の報道があった。たまたまこれを見て「東京では絶対に感染者数200は超えない」と思った。なぜなら区あたり6人ですべての問い合わせに対応しているそうだ。その6人が病院や保健所に検査を依頼し陽性とわかったら追跡調査もするのだという。東洋経済on lineのデータを見ると一目瞭然で東京都の1日のPCR検査人数は800を超えることはなくほとんどの日が200以下である。毎日感染者数を発表しているが意味があるのか疑わしいと言われてもしかたないだろう。こういうやり方を積極的疫学調査というのだそうで、初期段階では有効だが拡大期には感染防止にはならないらしい。この体制ではアメリカや韓国並みに検査を増やすことは不可能だろう。なぜずっと体制が変わらないのかはわからないが、これでは患者統計に歪みが生じ政策判断の材料にも使えないとシカゴ大学の山口教授が言われている通りだろう。

4/17 追記 熱などのコロナの症状がああるのに検査を受けられない。病院をたらい回しにされる。そんな声に推されて、役所が動かないのでようやく医師会や自治体が独自に検査体制を整え始めた。NHKの9時のニュースではキャスターが「ひと月前から言われていたのになぜこんなに時間がかかったのか?」と気色ばんでいた。もうお上は機能不全に陥っているのだろう。しかしそれは医師会も同じで、海外の例もあるのになぜもっと早くできなかったのか?どどのつまりこれは国民性というか人間性なのかもしれない。人は火事になっても足下に火が来るまで「自分は大丈夫」と思いたがり逃げ出さない。それでもまだイタリアやNYのようになっていないので、民間と自治体の活力でなんとか乗り切ることを期待したい。

発想を変えてみてはどうかだろうか。PCRでリアルタイムで感染者を追うのが難しいなら血液の抗体検査を優先して「すでに免疫を持った人」を特定してはどうだろうか?もし現在ウイルスの産生がなくかつ抗体陽性なら2週間の観察期間は不要で3密に関係なく経済活動に大手を振って参加できる。
もともと「免疫」という言葉の語源は「疫病を免れる」ではなく「税金を免れる」という意味らしい。昔ペストなどが流行した時に一度感染して回復した人は感染者の救護に参加し、神の御加護があるということで税金が免除されたという。もし日本の行政が今更ドライブスルー検査などできないというなら、将来必ず課題になる抗体検査をもっぱらにしてはどうか。ワクチン接種の時にも必要になるだろう。抗体のある人にはワクチンは必要ないだろうから。でもこれも民間の検査薬開発企業に検体が渡らなければどうしようもないが。。。まあ感染については全くの素人の独り言だが。

  今や「日本の謎」とされる検査数の少なさ。安倍首相は検査を1日2万件にまで増やすと宣言。だいぶ前にもおっしゃいましたが。。土日はしなくて大丈夫なんだろうか。多くの批判を浴びているが指示がどこかで止まっているということ。民間に受託しなければ難しいだろう。しびれを切らしたか島津製作所は高精度短時間のキットを研究用として販売するという。なぜこうなってしまったのかはこちらのブログに詳しい


緊急事態宣言。様子見の感があり、日本のお家芸である「戦力の逐次投入」と批判されている。陸軍と研究費だけでなかったか。

巷では「熱も咳もあるのに検査してくれない」という声があふれ「うつしたかもしれない」と悩む人たちが大勢いるらしい。検査結果が出るのに何故か何日か待たないといけなくて病院ではその間、運びこまれた感染の疑いのある患者を何処に収容すべきか迷うそうだ。クラスター潰しは多いに結構だが、それとは別に感染経路が分からない人たちからの拡散を防ぐには検査しかない。安倍首相もWHOの専門家(渋谷先生)もそういっているのになぜ検査件数が増えないのか、また1時間もかからずに判定できるキットを大手も開発ずみなのになぜ結果が出るのに数日かかるのか。やはり「日本の謎」としか言いようがない。ダム建設のように一度決めたことを途中で変えられないのも日本のお家芸なのかもしれない。押谷先生もNHKの番組で症状が出ているのに検査を受けられない例があることは問題で早急に検査体制を整えるべきと言っていた。

京都大学の先生が「日本人はすでに免疫を持っている」という説を論文にしたそうだ。論文はこちら。以前からささやかれていた説だが、残念ながら抗体検査の結果はなくて感染者のウイルス分類からの予測。なぜ抗体検査をしないのだろうか。日本はなぜ感染者や死者が少ないのか?という「日本の謎」。前者は単にPCR検査を渋っただけでカタがつきそうだが、死亡者は?カウントされていないだけか、これから医療崩壊が進行して増えるのか。それともやっぱり○風の国だからか護られているのか。
やはりこの国でPCR検査を増やすのは難しいんじゃないか。手ひどく「もう手遅れ」という専門家もいる。先を見越して抗体検査をしてどの程度免疫を持ったひとがいるかを確定した方が早いんじゃやないか。同じことを思う人は多いらしくすでに韓国やアメリカで検査が進められているという。せめて医療関係者は全員すぐに抗体検査をうけるべきではないか。

 


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-03-28 17:02:14 (3036 ヒット)

アメリカに留学中の人達から最近とみにメールをもらう。月末まで研究室には出入りが制限され実験にならないそうだ。実験用のマウスも7割方処分されたという話もあった。皆さん苛立ちと苦悩を隠せないようだ。では日本の方がよいかというとこれから先はわからない。
28日、東京で感染者数が60に跳ね上がり、国立がんセンターでも院内感染が見つかったという。いよいよ首都封鎖が現実味を帯びて来たのだろうか。つい数日前までは日本は感染者数も死者数も抑えられており海外のメデイアは「謎」と言っていた。PCR検査を抑えて重症者だけに絞ってピークを低く、かつ先に伸ばす戦略と言われていた。ところが検査を意図的に抑えていたのではなく、単に関係省庁の意識が低く融通も効かなかったせいで単に「できなかった」のだという話がある。また検査を意図的に制限していたとしても海外からはそれは大きな「ばくち」であり水面下で悪化し手遅れになるまで気づかない恐れがある」と警告されている。WHOは検査しまくれと言っていたが日本はそうはなっていない。そもそも自分が感染しているという自覚がない人に出歩くなというのも難しい話のように思える。以前は医師が依頼しても保健所が検査してくれなかっという話もあったが、最近では味がわからないということでも検査してくれるようになったらしいので潮目がかわったのだろうか。欧米のように外出規制とあわせて検査もやって陽性の人は隔離するのが実効性は高いのではないだろうか。ただ簡単に15−60分できる検査が開発されたという報道は数多く耳にしたがそれが実際にバンバン使われるようになったという話は聞かない。日本の許認可システムでは難しいという話もある最近よく言われるようになったように早く抗体検査をして集団免疫のレベルを確定すれば別の考え方もあるだろう。
もし首都封鎖になったら動物や細胞の維持くらいはできるだろうが試薬が来ないから実験は無理だろう。マウスも処分しなくてはいけないのか。回復に相当の時間を要するような気がする。考えるだけ憂鬱になってくる。いずこも大変なので自分のことばかり言ってられないだろうが、一番密集すると考えられる学生実習をどうするか、考えてはいるがよい知恵が浮かばない。

今朝は思いがけない季節外れのすごい「なごり雪」。今日は言われなくても外出規制だ。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-03-22 14:17:17 (2723 ヒット)

 水になるというのが普通だろうが、春になるという答えもある。もう桜の便りも聞こえてくるので季節的には春だろう。今日は都内は23度もあって初夏の陽気だ。しかし気分は全く晴れない。
毎日毎日聞かされる「コロナ」の話題のせいだ。今朝も国際学会中止のメールをもらった。6月に予定されていたカナダでの免疫学会で冒頭のkeynote lectureを頼まれていたので相当に気合が入っていたのだが。先週あたりカナダ政府は外国人の入国禁止措置を打ち出したのでダメだろうという予感はあったが。。。
それにしてもなぜ日本は他の国のように感染爆発が起きないのか?毎日報告はあるもののせいぜい数十人程度である。これから増える可能性はあるものの、もしかしたらこの状態がずっと続くのかもしれない。いやNHKスペシャルでは「予断は許されない」「ギリギリの状態」と言っていたので楽観は禁物だろう。
でも感染者数は欧米の万の単位と比べるとすっと少ない。死者数が増えていないところをみるとやはり日本ではもはやものすごい感染の拡大はないのではないか?と思えてくる。どうも「日本は違うんじゃないか」と思い始めている人はいるらしい。その理由は「検査していないだけ」という人もいるがそれでは死者数は説明できない。押谷先生はむしろPCR検査を抑えていることで、患者が病院に殺到して病院での感染を起こす危険性を抑えていると言っていた(本当なのか?ゲホゲホいっている人をすぐ検査しなければ自覚ないまま放置されて当然広まるのでは?)。「日本の医療制度がすばらしいから」と言う人もいるし「日本ほど清潔好きの国はないから」と考える人もいる。もうひとつの考えは「日本では実はすでに集団免疫ができてる」という説。集団免疫というのは今回イギリスで採用された考えかたのようで、ある一定割合の免疫を持った既感染者がいればそれが壁になって感染拡大が防がれるというもの。日本の現在の方針もこれに近いという。すでに集団免疫になっているかどうかは抗体検査をしてみないとわからないのだろうが可能性はあるかもしれない。今回のウイルスそのものでなくても近縁のコロナウイルスに感染していて抗体を持っている人が多い可能性も提唱されている。もしかしたら特殊なMHCで護られている?でも低レベルの感染ををだらだらと長引かせる(=いつかオーバーシュートするかもしれないという恐怖と長く対峙する)ことになりはしないのだろうか。NHKでは台湾の成功例が紹介されていたが基準を明確にしてきめ細かい対策が必要なのだろう。

他の方も言われているが、それにしても専門家の方はもう少しわかりやすい言い回しをしてもらいたいものだ。パンデミックはよく使われるがクラスターとかオーバーシュートとか一応微生物学を昔教えていたはずの自分もよく知らない。ともかくこのコロナ禍が1日も早く収束して春が来て欲しいものだ。

イギリスは3週間外出禁止措置をとったそうだ。集団免疫を目指すのではなく徹底した封じ込めに舵を切ったらしい。3週間外出禁止は強烈だ。自分なら頭がおかしくなるような気がする。

大学病院で院内感染。東京も昨日に続いて40名を超える感染者が出たそうだ。一気に緊迫して来た。研究室封鎖どころか首都封鎖も覚悟しないといけないのか。

『WHOは「都市封鎖」を全ての国に呼びかけ』と記事に出ていた。1月下旬ごろ「まだ緊急事態ではない」と言っていた人の言うことなのか。空いた口が塞がらないというのはこういうことか。ついでに押谷先生のPCR抑制作戦。確かに医療崩壊を抑制すると言われるとそうなのかと納得していたが、実は単に某省庁の石頭のせいで本当に検査できる体制になくて「作戦」は後からこじつけただけ?という疑念もわく。もしこの記事が本当なら落ち着いたらNHKは検証番組を作るべきだ。


自粛自粛、不要不急、不謹慎といった言葉はいつか聞いたことがあると思ったら2011年3月の大震災と原発事故に続く節電の頃だった。あの時も飲食業会をはじめ経済も大きな打撃を受けたはず。日本はあの時期を乗り越えたようにまた復活できると信じたい。


 


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-03-07 20:23:39 (2881 ヒット)

某科研費の中間報告の書類の締め切りが来週半ばである。この週末にチャチャッと仕上げようと思っていた。数年前にも同じことをしているので半日あればできると思っていた。甘かった。以前より多くの記載が求められているように思う。しかも「こんなのどうでもいいんじゃない」と思える項目ばかり増えている。例えば主要な研究費の使途は何で、この研究とどういう関係があるのか記載せよとか英語版も出せとか。2019年度の各経費の金額と主要使途の額はまだ今年度集計できてないので途方にくれる。いつもながら講演会とか学会発表の情報をまとめるのは一苦労だ(毎年のことなのに。学習能力ゼロ)。いかに3月学会がなくなって時間的余裕ができたとはいえこれは相当に時間がかかりそうだ。いまや日本の研究状況は危機に瀕していることは多くの識者が指摘している通り。もっと研究者に雑用ではなくちゃんと研究する時間を与えてほしい。いや私みたいに雑用しかできない人間はしょうがないにしても同じことを若くて優秀な研究者らもやらされているとしたら貴重な時間と才能の浪費なのではないか。途中段階の人はしっかり説明責任を果たす必要はあるだろうが、すでに成果を公表している人は論文リストだけでいいのではないかと思えてくる。研究遂行上の問題点と要望を書け、という項目があったので思わず「消費税が上がって実質的に使える研究費が減った。科研費で使用する経費は非課税にすべきである」と書いたが大人なので提出直前に削除するかもしれない。JSPSは研究者に寄り添い、いかに研究か進むかを常に考えてくれていると思っていたのだが。少なくとも科研費は研究者フレンドリーな使い勝手の良さとともに申請書や報告書作成の省力化を推進して来たはず。報告書を煩雑化するパターンはどこかの某研究費配分組織に似てきたのではないかと危惧する。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-03-03 14:22:00 (2508 ヒット)

3月は学会が軒並み中止となって出張が激減した。論文を読んだり書いたりできる。それに報告書も余裕を持って提出できるはず、と喜んだのだが、何故か締め切りに追われる生活は変わらない。余裕があるとタカをくくってつい飲んだり無駄なことをしてしまうものらしい。やはり「忙しくて論文も読めない」とぼやいているくらいが丁度いいのかもしれん。
新型と言えば調べてみると実は10年ほどまえ2009年に新型インフルエンザで大きな騒動が持ちあがった(らしい)。その時は今回のコロナどころではなく累計2000万人が感染して200人が亡くなった(日本国内で!)(そうだ)。「らしい」とか「そうだ」というのは実は全く記憶がない。その時は子供や若者を中心に感染が広がり休校が相次いで、やはり「マスク」も売り切れになった(そうだ)。そんな大混乱があったっけ?やはり人間は、いや少なくとも私は学習能力に欠けているらしい。時々院生に向かって「学習能力ないの?」とアカハラ発言するがもう人のことは言えない。
今日は新幹線で某研究所まで日帰り出張。この時期勇気ある行動と言える。この研究所ではついこの間まで「病院があるので常にマスクを着けろ」といわれていたそうだ。しかし最近病院でもマスクが手に入らなくなったらしい。「必要以外は着けないように」とお達しがあったそう。要るの要らんのどっちやねん。ただ買いだめに走るから棚に商品がなくなり、マスコミも報道するから余計に買わなきゃマズイと思ってしまうのだろう。多くの人が10年前と同じことを繰り返しているようだ。マスクは再利用可能だそうなので慌てることはない。もっとも私は単にずぼらの「使い回し」派なので、無いなら無いでたいした問題ではないが。
この時期に不謹慎!と思われてはいけないが、今シーズ、インフルエンザは昨年にくらべるとかなり少ないらしい。私は日本国民はかなり感染対策に注意していて、新コロナは思いのほか早く収束すると思っているのだが。。。

なおこれも不謹慎と言われると困るが、中国からのナゾのウイルスはこれが(私自身は)初めてではない。免疫がなければ長期化したり遷延化したりすることは十分考えられる。用心するにこしたことはないがパニックに陥ることは避けたい。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-02-24 20:04:37 (3268 ヒット)

東大での学会の翌日は京都まで日帰り出張。さすがに疲れた。3連休なので月曜日は休みとする。何気なくNHKをみていたら6時過ぎから「ひとモノガタリ」という番組をやっていた。労働者として来日したが事故や病気で病院に搬送されて治療を受け、しかし医療費を払えない外国人が増えているという。成田赤十字病院女性医師、浅香朋美さんはそんな高額な治療費を払えない外国人患者と日々向き合っているそうだ。もちろん患者は気の毒なひとたちばかりで保険もなく経済的にも困窮している。親族も医療費を払えず「逃げられた」と思ったら、少しずつでも返したいというメールが入って「人は信じられる」という感動的な話で締めくくられていた。東南アジアの人たちは家族の絆も強く純真なのだろう。ものすごく感動すると同時に毎日ぽーっと生きている自分がひどく恥ずかしくなった。通貨の格差を考えると母国に戻って返すのは大変なことだろうと思う。国の政策としてこれから多くの外国人が日本の経済を支えることになるのだろう。何か国が対策を考えるべきと思う。それでも今目の前の病気の人たちはどうすることもできない。自分も余裕があるほうではないが、浅香医師や出稼ぎに来て事故や病気で大きな負債を背負うことになった人に少額でも支援できたらと思わないではない。テレビを見て同じように思う人は多いと思う。残念ながら赤十字ではそのような寄付や支援は受け付けていないという。せっかくNHKでとりあげられたのだ。病院もNHKも寄付の受付先を設けたらいいと思うのだが。。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-02-23 07:29:58 (2162 ヒット)

22日土曜日。朝から東大伊藤ホールでの日本免疫治療学会に呼ばれる。行きがけ薬局の前に長蛇の列を見かけた。9時の開店と同時になだれ込んだ。マスクが入荷したのだろう。
NHKでマスクの正しい使い方のビデオが放送されていた。私は同じマスクを使い回したりポケットに入れたりと「ありえない」といわれたことを随分やってきた。

学会の中止や延期がアナウンスされるなか、主催の先生の英断には敬服する。ただ参加者は全員マスク姿。寄ると触るとコロナの話。感染者の増加が報道されている北海道からの参加者は何だか申し訳なさそう。自分は「私も微熱がありますが花粉症です」と宣言するも冗談のつもりで言うと炎上するかもしれない。アメリカは日本への渡航の注意レベルを上げたという。6月にはカナダでの学会参加が予定されておりアメリカはトランジットでも入国しないといけない。入国拒否になったらどうしよう。余裕のある先生は「どこか安全な国で2週間休暇を楽しんでから行けばいい」と言われるが、、貧乏性なのでとても。
講演では座長の大会長から「皆さんを笑わせる楽しい話を期待します」と言われるも急に言われても河本先生のようにはいかない。全く持ちネタなし。いつものように目一杯詰め込んで未発表のCAR-Tregのデータも紹介したので時間をオーバー。確かに大半はいつもの話なので何か用意しておくべきだったか。

25日、政府の基本方針が発表になった。大方の予想通りこれまでの方針とは大きな違いはない。ニュースに出ていた専門家の先生は「日本はまだ感染拡大の瀬戸際。まだ爆発的な連鎖になっていない」とおっしゃる。多くの人が疑念を持っているように「感染数が低いのは検査してないからじゃないの?」。これは払拭できていない。
それでも不思議なのは日本人の死亡者数が少ないこと。致死率は中国、韓国と比べると低いように思える。ニュースではイランの死亡率はかなり高い(12/61)。日本の医療が優れているからかもしれないがMHCとの関係も大きいのではないだろうか?その観点での報告はまだないような気がする。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-02-21 15:22:56 (2015 ヒット)

 今日は高松宮妃がん研究基金助成金贈呈式に出席するために東京駅付近まで地下鉄で出かけた。10時過ぎでそんなに混んではいなかったが、同じ箱に連続して咳をする人が乗っていた。咳をするたびに潮が引くように周りから人が離れていく。自分もなるべく離れるようにしたがもう遅いかも。。
この頃助成金は贈呈(審査)する側がほとんどで自分がもらうことは滅多にない。でも「がん研究」では研究費を取っていないのでつい出してしまった。大変ありがたいことである。が、もらっておいてなんだが今日は申請したことを著しく後悔。まず受領者は若い方がほとんどで私のような年寄りがもらうのは申し訳ない。それ以上に慌てたのは「贈呈式で受領者を代表してお礼の挨拶をしろ」と言われたことだ。もともと人前ではひどく緊張するタチである。挨拶文は雛形があってそれに自分で少しだけ手を入れて原稿を用意した。総裁であられる常陸宮(ひたちのみや)殿下にお礼を言わないといけないので何度かお名前がでてくる。同時に
高松宮(たかまつのみや)妃研究助成も何度か出てくる。練習では常陸宮高松宮を言い間違えそうになったので、目一杯に原稿に「ふりがな」をつけて念を押しておいた。しかし間違えないように、間違えないようにと思えば思うほど本番で間違えるのがあがり症の人の常。怖れた通り言い間違えてしまった。すぐに訂正するも顔から火が出るほど恥ずかしくそのあとどう席に戻ったのかよく覚えていない。再来年には学会大会長なので挨拶の機会は増える。これがトラウマにならなければよいが。。


投稿者 : yoshimura1212 投稿日時: 2020-02-16 21:10:49 (1990 ヒット)

 名古屋市の中部ろうさい病院で行われたリウマチ膠原病スプリングセミナーで制御性T細胞(Treg)に関する講演を行なった。世話人でもあるこの病院の藤田先生が呼んでくれたのだが、その理由がこのブログを読んで「ぜひ話が聞きたい」と思われたからだそう。私を紹介してくださった冒頭に言われたのだが、「いやもうただぼやいてばかりのつまらないブログです」と恐縮する。100名以上の参加で会場は満杯。ほとんどが臨床の先生だそうだが、皆さんメモをとったりスライドを写真にとったり(まあ全部既出の図なので気にしない)非常に熱心に聞いてくださったので講師冥利につきる。ただマウスモデルを使った実験的な話は難しかったかもしれない。でも前半はかなりTregの基本的な話を入れたので少しは馴染んでいただけらた嬉しい。あまり長い時間会場に居れなかったのが申し訳なかった。

帰りのタクシーのなかでスポンサーの会社の人と話をするが、話題はやはり新型コロナウイルス。4月の中国での会議はどうなりましたか?と聞かれて「やはり秋に延期になりました』。続けて「やれやれと思ったんですが、秋に中国に入ろうとしたら今度は日本人だからと入国拒否されるかもしれません」。冗談ではすまない情勢になりかけているのかも。。。


  
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