トップ  >  問題解決のプロセス(2009-3-17)

 ラボでの日常的な成果はどのようにして得られるか、についての考察

通常学生と教授は実際のdataを見ながら討論を行う。それはなぜ必要なのだろうか?自分で解決するのが理想だが、そうならないときにアドバイスを受ける必要がある。それをしないとどんどん遅れていくだろう。実は失敗を繰り返して正解に近づくことは必ずしも悪いことではない(時間と研究費のロスはあるが)。むしろ大学院時代のトレーニングには必要なことだ。しかし問題は往々にして難しいことを単に避けるだけ、になりがちである。

結果がクリアに出ているうちは順調にデータが出る(例えばWTとKOの比較)が、鍵となる高度な実験になるととたんに進行が止まることがよくある。例えば現象の記載をしているうちは結果はどんどん出る。ではそのメカニズムはどうか、という実験になるととたんに出なくなることがある。なぜか。このあとは仮説を立ててそれに基づいて実験を行いその結果を判定して次のステップに進むという行程が入る。そのときに条件を変えたり阻害剤を入れたり遺伝子に変異をいれたりするわけだが、結果が予想と違ったり、はては論文に出ている結果と違うことがよくある。だから難しく進みが止まる。その時にどう判断するか。例えば論文と結果が違うときにどう判断するか。自分の実験条件を細かく吟味しポジコンとネガコンをきちんととって自分の結果に自信を持つと同時に人も説得できないといけない。私がみてきたところ学生はこのところでのつまずきが多い。それは結構おっくうな作業だ。細かく条件をかえポジコンネガコンをとるのはなかなかしんどい。でもそれをやらないと先にすすまない。

例えばIL-XとIL-Yの産生のバランスはERKの活性化の度合いで決まる、という仮説を立てたとしよう。すぐに思いつくし実行可能なことはERK阻害剤を加えることだ。ところが同じERK系阻害剤とされるUとPDで結果が異なることも多い。Uは効くがPDは効かないとしよう。そのときいくつかの可能性が考えられる。例えば(1)その細胞ではUはERKを抑えるがPDは抑えない。(2)ウエスタンでは同等に抑えているようにみえてもERKの下流のAP1のレベルでは差がある。(3)そのそもUやPDの特異性は完全ではないのでPDで抑制されずUで抑制される未知のキナーゼがあるのではないか?(4)単にUでは毒性のために細胞の生存率が下がった?などなど

このようにさらに様々な可能性(仮説)をたててひとつひとつ調べていかないといけない。それぞれの可能性を調べていくうちにさらに検証しないといけないことが増えていく。つまり仮説をたてて実験するとさらに仮説が増えていく。それはよく起こることで、現在の知識ではよくわからない、ということでそれ以上追求できないことも多い。しかし時には研究を完成させるためにこれをどうしても解明しないといけないことがある。その時に正しく推論して正しい実験を組めるかどうかで研究の進み具合のスピードが決まる。さらにそこに全く斬新なアイデアを加えて解けるとそれこそすばらしい仕事、ということになる。つまり困難があるときこそ革新的な展開がある可能性がある。実はそこで新しい解決策を示せるかどうかがそのひとの科学者としての出来不出来の判断に結びつくことが多い。例えば上の例ではU感受性の新しいキナーゼを発見できたら仕事のレベルがぐんと上がるだろう。多くの知識を持ち様々な経験があればそのキナーゼの予想がつくかもしれない。それが出来た人は優秀ということになる。広い知識が必要なことはこのような例からもわかる。学生のレベルではそこを教授やスタッフに相談することになる。だから上手にスタッフや専門家に意見を聞くことは経験不足を補う重要な方法である。

しかし実験手法の問題に起因する困難も多い。どうしても上手くいかないときは別の方向性を考えることも必要だろう。たとえばERK阻害剤ではどうやってもよくわからん、ならばERKを抑制する遺伝子を強制発現する、あるいはsiRNAを使うなど。それでも駄目な時ははじめの仮説が間違っていると考えてやりなおすしかない。この後戻りも大変難しい。これまでの実験がすべて無駄になる可能性だってあるからなかなか決断がつかない。しかしこれをしないとあっという間に2年、3年とすぎてしまう。研究に限らず引き際は難しい。

こういった問題解決の方法を学ぶのが大学院でのトレーニングだと思う。言われただけではわからない。自分で体験して会得するものかもしれない。

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