サイトカイン一般のシグナル伝達機構の解説



要旨

サイトカインとは広い意味では蛋白質性のホルモンで広範なクラスの受容体が存在するが免疫系造血系に主に作用するサイトカインの受容体は幹細胞因子受容体のように細胞内にチロシンキナーゼドメインをもつかインターロイキン受容体のなどのようにJAK型チロシンキナーゼが非共有結合で会合する。細胞内でシグナルは主にアダプター分子を介したタンパク質ータンパク質の相互作用により下流へと伝達される。



はじめに

広い意味でサイトカインとは造血系、内分泌系、神経系、免疫系など様々な細胞間での主要な情報交換をになうタンパク質性のホルモンの総称である。当然ながらサイトカインは細胞表面の受容体に会合し受容体を活性化する。活性化は主に受容体の重合によって起る。例えばチロシンキナーゼ型受容体の場合は2量体に、TNF受容体の場合は3量体になる。このような変化によって細胞内のキナーゼが活性化されたりアダプター分子群がリクルートされる。これらのシグナルは細胞内のカスケードによって増幅および分枝し、最終的には多くの転写因子を活性化する。本稿ではこれらのしくみをおおまかに分類し概説する。



1.サイトカインは受容体のシグナル伝達機構によって分類される。

サイトカインの作用を受容体のシグナル伝達の観点で分類すると、以下のように分けられる(図1参照)。(1)古典的な幹一般.jpg細胞因子(SCF),マクロファージーコロニー刺激因子(M-CSF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの受容体で細胞内にチロシンキナーゼドメインをもつもの(増殖因子型受容体)。シグナルとしてはRas-MAPキナーゼ経路、PI3キナーゼ経路、PLCγ経路など広範な情報伝達系路が活性化される。(2)インターロイキン、インターフェロン、エリスロポエチンなどの造血因子、成長ホルモン、レプチンなど狭義のサイトカインの受容体でJAK型チロシンキナーゼが非共有結合で会合するもの(サイトカイン受容体)。この場合のシグナルを伝える最も重要な転写因子はSTATである。(3)IL-1やTNFの受容体のようにTRAFなどのアダプター群を介してIKKやJNKを活性化し、転写因子NF-kBを活性化するタイプ(IL1/TNF受容体)。FADDを介してカスパーゼ経路も活性化される。またTAK1などを介してjiNKやp38MAPキナーゼも活性化される。(4)Fasのようにカスパーゼを活性化するタイプ(5)TGFβ受容体のようにセリンスレオニンキナーゼドメインを有し、Smad転写因子を活性化するタイプ(6)ケモカイン受容体のように三量体Gタンパク質を活性化するタイプ。(7)Wnt/βカテニンを介したシグナル経路、あるいは(8)未知のシグナル伝達経路を有するサイトカインも存在する。


 


2.主要な細胞内シグナル伝達経路を例示する

ここではチロシンキナーゼを介した受容体のシグナル伝達を例にまとめる。その他の受容体については各論を参照願いたい。受容体によって、また細胞によって使われる主要な経路は異なる。例えば増殖因子が細胞増殖を促進するのにMAPキナーゼの活性化はきわめて重要であるが、EGFではGrb2-SOSによって、VEGFではPLCγの経路によって活性化される。多くのサイトカインの機能発現にはSTAT経路が最も重要である。また基本的にはりん酸化される受容体やドッキング分子のチロシン残基によってどの経路が使われるかが決定される。図2に基本的なシグナル伝達と転写因子につて概略を示している。図1サイトカインシグナル



(1)Ras

Rasは細胞内シグナル伝達系できわめて重要な位置を占める(4)。RasはC末を脂質で修飾されており細胞膜に存在し増殖因子など様々な外界の刺激で活性化される。Rasの恒常的活性化型変異は約30%の癌にみられ、細胞増殖と密接な関係があることがわかる。RasはGEF (GDP/GTP exchange factor)のひとつであるSos (son of sevenless)によって活性化(GTP型に変換する)され、逆にRasGAP (GTPase activating protein)によって不活性化(GDP型に変換する)される。SOSはGrb2とSH3ドメインを介して恒常的に会合してる。受容体やアダプター分子(SHP-2、Gab、Shcなど)がりん酸化されるとGrb2-SOS複合体が細胞膜にリクルートされる。その結果細胞膜に存在するRasと接触可能となり、RasをGTP型に変換すると考えられる。活性化されたRasは主にRafを細胞膜にリクルートしそこでRafはりん酸化(特にセリン388)され活性化される。活性化されたRafはMEKを、MEKはMAPキナーゼを活性化するカスケードを形成する(図-3)。 また活性化されたRasはPI3キナーゼを直接活性化する。またRal-GDSという酵素に作用して細胞膜のラフリングなど細胞運動を制御する。

MAPキナーゼはElkなどの転写因子をリン酸化し早期にc-fosを誘導する。これがc-junと会合し転写因子AP-1を形成する。JunはJNKによってリン酸化されその結果AP-1は転写活性が増大する。AP-1は細胞増殖の促進に働くと考えられる。


(2)PI3キナーゼ

PI3キナーゼのp85サブユニットはSH2ドメインをもち特にYMXMというモチーフをよく認識する。p85サブユニットがこのリン酸化チロシンを含むモチーフと会合するとp110サブユニットの持つ酵素活性が上昇する。その結果イノシトールりん脂質(PI)の3位がリン酸化される。PI、PI(4)P、PI(4,5)PからそれぞれPI(3)P、PI(3,4)P、PI(3,4,5)Pが生成され、様々なPHドメインをもつ分子を細胞膜にリクルートする(図4)。最も有名なものはPDK、AKTである。AKTはBadをりん酸化してアポトーシスを抑制する。この負の制御系がSHIP(src homology-2 domain -containing inositol 5; phosphatase)やPTEN(phosphatase and tensin homologye/mutated in multiple advanced cancer)である。それぞれSHIPはPIの5位のリン酸基をはずしPTENはPI(3,4,5)Pを基質として分解する。


(3)PLCγ

PLCγは分子内にSH2ドメインをもちやはりリン酸化チロシンを認識して細胞膜付近にリクルートされる。PLCは酵素活性によってフォスファチジルイノシトールを分解しジアシルグリセロールとイノシトール3リン酸を生成する(図4)。前者はPKCを活性化し後者は細胞内カルシウムを上昇させる。その結果様々な細胞内シグナル制御にかかわる。VEGFの刺激によりPKCが活性化されるが、Rasの経路を介さずに直接Rafのりん酸化を誘導しMAPキナーゼを活性化するらしい。またカルシウムはカルシニューリンを介して転写因子NF-ATを活性化する。


(4)STAT

JAK下流にはSTATと呼ばれる転写因子が存在し、遺伝子発現の調節を直接になっている。図4にその概要を示す(2)。STATはSH2ドメインをもつ特徴的な蛋白質である。STATはサイトカイン刺激後、リン酸化受容体に結合しJAKによってチロシンりん酸化をうけとホモまたはヘテロ二量体を形成し核へ移行する。ノックアウトマウス解析の結果各STATが独自の機能を有しある程度リガンド特異的な役割を担っていることが明らかとなった(図5)。例えばSTAT4はIL12に特異的であり、Th1分化に必須である。STAT6はIL4、IL13のシグナルに特異的であり、Th2分化に必須である。STAT5は成長ホルモンやプロラクチン、IL2などのシグナルに必須の役割を果たす。STAT3コンデショナルノックアウトの結果からはSTAT3は細胞によってかなり異なった役割を果たしていることが示されている。標的遺伝子の主なものはSTAT1は例えば免疫系に関与する分子(Fc受容体,IRF-1など)STAT3は肝臓での急性蛋白を誘導に関与する。STAT5を活性化するプロラクチンは乳腺でカゼインなどのミルク蛋白を誘導する。しかしSTATの標的遺伝子は細胞によってかなり異なっている。例えばSTAT5は細胞周期を制御するサイクリンD、あるいはアポトーシス抑制分子であるBclーXLのを誘導する。また逆にある種の細胞ではIL6やG-CSFなどのサイトカインによる分化誘導において細胞周期の停止がしばしば認められる。このときサイクリン依存性キナーセ阻害因子であるp21やp19、あるいはアポトーシスを誘導するカスパーゼ群がSTAT1やSTAT3の標的遺伝子である。このようにSTATは細胞によって異なった遺伝子の発現を調節する。



3.シグナル伝達経路には必ず負の制御機構が存在する。

シグナルの詳細が明らかにされるにつれてシグナルを制御する機構についても関心が寄せられるようになってきた。サイトカインのシグナルを調節するメカニムズはすでに数多く知られている。最も古典的な機構のひとつは受容体およびリガンドのエンドサイトーシス/リソゾームによる分解である。RasのGDP型(不活性型)への変換を促進するGAP(GTPase activating protein) やそれをリクルートする分子群(Dokなど)もよく知られた抑制因子である。その他(1)フォスファターゼによる脱リン酸化による調節、Cblによるユビキチン化/分解調節、SOCS,A20,sproutyなどの誘導性特異的阻害因子による調節であり、これらの一部を図1に示している。



4.サイトカイン間にはクロストークが存在する。


ひとつの細胞は数多くのサイトカインに応答できるがひとつのサイトカインに遭遇した細胞は他のサイトカインに対する応答が変化する(増強ないし減弱される)場合がある(クロストーク)。これは生理的にきわめて重要な現象であり、様々なレベルでの調節が知られているが、特にシグナルレベルでの調節機構は解析が始まったばかりである。例えば抗炎症性サイトカインであるIL-10は細菌のリポ多糖(LPS)などのシグナルを抑制するがSTAT3が必要なことはわかっているがその基本的なメカニズムは未だに不明である。IFNγは破骨細胞の分化を強力に抑制するがTNFファミリーの分化誘導因子RANKLのシグナルを抑制することが知られている。また免疫系でもシグナルのクロストークは重要である。1型ヘルパーT細胞(Th1)細胞と2型ヘルパーT細胞(Th2)はそれぞれIFNγ、IL-4を分泌し互いを抑制しあっている。Th1/Th2のバランスの破綻が自己免疫性疾患やアトピーなどのアレルギー反応の病因であり、このメカニズムを解明することは新たな免疫疾患の新たな治療法を開発する上で極めて重要である。これらの分子機構は十分解明されていないがサイトカインによって強力に誘導されるCIS/SOCSファミリーの仲間がこのようなサイトカインに間のアゴニスト的な効果に関与している可能性が提唱されている。免疫系や造血系は複数のサイトカインが複雑に作用を及ぼしあっていることは確かでありそのメカニズムの解明はこれからである。



参考図書



実験医学別冊 BioScience  新用語ライブラリー 細胞内シグナル伝達 (羊土社)

山本 雅・編



イラスト 医学&サイエンスシリーズ

細胞内シグナル伝達がわかる (羊土社)

山本 雅・秋山 徹 編