我々が発見したCIS/SOCSファミリーについての解説。
我々が発見したCIS/SOCSファミリーについての解説。 サイトカインのシグナル伝達機構 サイトカインにはエリスロポエチン(EPO)や顆粒球コロニー刺激因子(GーCSF)などの造血因子、免疫反応や炎症時にリンパ球や単球が分泌するインターフェロン(IFN)やインターロイキン(IL)などが含まれ、ホメオスターシスの維持や免疫、炎症にきわめて重要な役割を果たしている。サイトカイン受容体は細胞内ドメインに会合したJAK(janus kinase) 型チロシンキナーゼを介して細胞内にシグナルを送る。STAT(signal transducer and activator of transcription)はJAKによってりん酸化され2量体化し核へ移行して直接遺伝子の発現を制御する重要な下流分子である。またSHP-2/Gab-1/Grb2などのアダプター分子群を介してRas-MAPキナーゼ系も活性化され、これら2つの経路がサイトカインの主な細胞内シグナル伝達経路と考えられる(右図)image_preview.jpeg CIS(cytokine inducible SH2ーprotein)は多くのサイトカインによってすみやかに誘導されるSH2ドメインを有する分子である。STAT5の標的遺伝子であり受容体に会合してSTAT5を抑制する(1)。さらに我々はJAK2の新しい基質を検索する目的で酵母two-hybrid系を利用してJAK2のキナーゼドメインと直接結合しうる分子をスクリーニングした。その結果新規遺伝子JAB(JAK-binding protein)をクローニングした(2)。JABは構造的にCISに類似した分子であった。生化学的な解析からJABはJAK2に結合するものの基質とはならずむしろキナーゼ活性を抑制することがわかった。JAK2のみならずJAK1の活性も抑制し、多くのサイトカインのシグナルを遮断する可能性が考えられた。時を同じくして同じ分子が大阪大学第三内科とオーストラリアのグループからそれぞれ独立にクローニングされSOCS−1,SSI−1とも呼ばれている(3)。 データベースの検索によってESTとして登録されているcDNAのなかにCIS,JABと構造的に類似する遺伝子が他に少なくとも6つ存在することが明かとなった。このファミリーではSH2ドメインとC末端約40アミノ酸(SOCS-box)がよく保存されている。N末端領域はそれぞれの分子の間でほとんど相同性がない。ファミリー おわりに
CIS/SOCSファミリー
1. CIS/SOCSの作用機構
転写調節機構の解析よりCISはSTAT5の標的遺伝子であることが明かとなった。CISはチロシンりん酸化されたIL3受容体やEPO受容体と結合し、IL3やEPOの増殖促進効果やSTAT5の活性化を部分的に阻害する。CISはSTAT5によって誘導されSTAT5の活性化を阻害することから一種の負のフィードバック調節因子である(1)。
CIS1はEPOやプロラクチンによるSTAT5の活性化を抑制するがLIFやIL6によるSTAT3の活性化は抑制しない。一方CIS3,JABは強制発現によってJAKを利用するあらゆるサイトカインの作用をほぼ完全に抑制した。CIS3とJABはJAK2に結合しキナーゼ活性を抑制する。構造活性相関実験の結果JABはそのSH2ドメインを介してJAK2のkinase activation loopに存在するY1007に、またN末端部分のキナーゼ阻害領域(kinase inhibitory region;KIR)でJAKの活性中心に結合することが明かとなった。すなわちJABはSH2ドメインとKIRの2点でJAKチロシンキナーゼに会合し、基質がJAKキナーゼの活性中心に入り込む過程をブロックしているものと考えられる(4)。しかし最近IFNの場合はまず受容体と一旦会合してからJAKを阻害するとする可能性も提唱されている。structure
一方CIS3/SOCS3は受容体とJAKと両者と会合することで阻害効果を顕わす(5)。おそらくSH2ドメインを介してりん酸化された受容体と会合し、KIRを介してキナーゼ活性を抑制すると考えられる。しかし我々はSOCS3はJAKとも直接会合できることも示しており、SOCS1の場合と同様に阻害の時はJAKに移動する可能性もある。SOCS3
SOCS-boxはデータベースに登録されているいくつかの遺伝子にも認められる。これらはSH2ドメインをもたないが、かわりにアンキリン様リピート、GTP加水分解酵素ドメイン、WDドメインなどの特徴的なドメインを有する。SOCS-boxの一部はユビキチン化に関与するF-boxタンパク群に類似しておりSOCS-boxがユビキチンリガーゼE2分子のリクルートに関与し、N末側のドメインを介して結合する標的分子(JAB/SOCS-1の場合はJAK)のユビキン化を促進するという仮説も提唱されている(6)。実際我々はJABが恒常的に活性化したJAK2をユビキチン化し分解を促進することを示した(7)。またHiltonらのグループはSOCS-boxを欠いたSOCS-1をノックインしたマウスを作成した。その結果、SOCS-1そのものを欠損したマウスよりは生存は長びくものの、やはりマウスは炎症様の症状で死亡することからSOCS-boxはサイトカインのシグナル抑制には必要で生理的に重要な役割を果たしていると思われる。
2. CIS,SOCS分子群の生理機能
(1)CIS1
CIS1のトランスジェニックマウスは母乳の産生障害(プロラクチンシグナルの障害)や成長遅延(成長ホルモンシグナルの障害)などSTAT5aまたはbのノックアウトマウスと非常によく似た表現型を示す。またT細胞においても、IL2応答の低下、NK細胞の減少などSTAT5ノックアウトでみられた多くの表現型が認められた。実際にプロラクチン、成長ホルモン、IL2によるSTAT5の活性化はCIS-トランスジェニックマウスで低下していた。一方LIFによるSTAT3の活性化は影響なかった。したがってCISは少なくとも強制発現によって個体 においても非常に特異的なSTAT5の抑制因子として作用する(8)。
(2)SOCS2
SOCS-2ノックアウトマウスは正常マウスの約1.5倍の大きさとなり臓器でのコラーゲンの蓄積が顕著に認められ、IGF-1の臓器での発現も高い(9)。やはり成長ホルモンのシグナルを負に制御しているものと考えられる。
(3)SOCS1/JAB
SOCS1/JABノックアウアトマウスは多彩な表現型を示す。ノックアウトマウスは正常に生まれてくるが生後3週間以内に全て死亡し、胸腺、脾臓の萎縮と肝臓での脂肪の蓄積および多くの組織での炎症様の単球の侵潤が見られた。これらの表現型は抗IFNγ抗体やIFNγ-/-マウスとのかけあわせによって改善、ないし解消した(10、11)。JABは明らかにIFNγのネガティブフィードバック調節因子である。しかしIFNγ-/-JAB-/-ダブルノックアウトマウスでも長期の観察によって腎臓の障害や各種の炎症性疾患がみられる。したがってIFNγに依存しない炎症にもJABが抑制的に働く可能性がある。
さらにJAB-/-マウスのT細胞は刺激のない状態でも活性化されておりCD25, CD44, CD69 などを発現し、かつT細胞抗原受容体(TCR)の刺激がなくてもIL2に応答した。したがってJAB-/-のT細胞は何らかの理由で活性化されておりIFNγを分泌し結果として全身で炎症様の症状を引き起こし、個体を死にいたらしめると考えられる(10)。JABはT細胞においては活性化を抑え非リンパ系細胞ではIFNγ感受性を決める分子であることを示している。
しかしJABの機能はIFNγのシグナルの抑制に留まらない。IFNγは他のサイトカインに対して拮抗的に作用する場合が多いが、JABはその分子機構のひとつとも考えられている。例えばIFNγによってIL-4の作用は抑制されるが、その機能の本体のひとつがJABであると考えられている。逆にIL-4がIFNγの作用を抑制するがその場合にもJABが関与すると思われる。仲らはJAB-/-マウスにおける肝臓の劇症肝炎様病変は、特にNKT細胞に依存しており、NKT細胞においてIFNγとIL4のシグナルが同時に入ることが原因であると報告した(12)。
またノックアウトマウス由来の細胞を用いて、SOCS1/JABがTNFやインスリンのシグナル制御にも関わっている可能性が報告されている(13、14)。しかしこれらの分子機構は明らかにされていない。
一方 Jhons Hopkins 医科大学の最近の研究(15) によってSOCS1遺伝子が肝臓癌に高頻度でメチル化をうけ発現が低下していることが明らかにされた。SOCS-1遺伝子の発現低下によって肝炎が起こりやすくなり肝癌が発症する可能性が考えられる。今後動物モデルを用いた検証が必要である。
(4)SOCS3/CIS3
SOCS3/CIS3は脳を含めて様々な臓器で発現が認められ、広範なサイトカインで発現が亢進される。CIS3ノックアウトマウスは胎生致死であり、12日以前は野生型と大きな形態の差はないが12.5ー15日胚では全身での出血が見られた。また特に肝臓では構造が崩れており有核の胎児型赤血球で充満していた。したがってCIS3は胎児造血幹細胞においてEPOシグナルを負に調節する因子であることが示された(16)。 SOCS3-KO
さらにHiltonらのグループはCIS3ノックアウトマウスの解析からこの遺伝子が胎盤の形成や機能にも重要であることを示している(17)。最近IhleらもCIS3/SOCS3が胎盤形成、特にLIFシグナル制御に必要であることを示した(18)。また我々はSOCS3コンデショナルノックアウトマウスを作成し、SOCS3がgp130の重要な制御因子であることを明らかにした(19)。またTh2細胞での特異的な発現が示されており、IL12に対する応答性を制御し、Th分化の維持や方向性の決定に重要な役割を果たしている可能性が示唆される。さらにレプチンやG-CSFに対しても抑制効果を発揮することが知られている。
このようにCIS/JAB/SOCSファミリー遺伝子群はサイトカインシグナルの負の制御因子であること、また生体のホメオスターシスを維持するのに必須の分子群であることが明確に示されてきている。さらに病態との関連が調べられ、これらの遺伝子群が炎症性疾患や自己免疫性疾患とどのような関連があるのか解明されつつある。SOCSはJAKを直接阻害する新しいチロシンキナーゼ阻害因子である。このような性質をmimicできる薬剤が開発されれば多くの炎症性疾患の治療に応用可能と思われる。
文献
1 Yoshimura A, et al. (1995) A novel cytokine-inducible gene CIS encodes an SH2 containing protein that binds to tyrosine-phosphorylated interleukin 3 and erythropoietin receptors. EMBO J., 14, 2816-2826.
2 Endo, A.T., Masuhara, M., Yokouchi, M., et al.; A new protein containing an SH2 domain that inhibits JAK kinases. Nature 387, 921-924, 1997
3 Yasukawa H, Sasaki A, Yoshimura A (2000) Negative Regulation of Cytokine Signaling Pathways. Annu. Rev. Immunol. 18:143-164
4 Yasukawa H, et al.(1999) The JAK-Binding Protein JAB Inhibits Janus Tyrosine Kinase Activity Through Binding in the Activation Loop. EMBO J 18, 1309-1320
5 Sasaki A, Yasukawa H, Shouda T et al. (2000) CIS3/SOCS-3 suppresses erythropoietin (EPO) signaling by binding the EPO receptor and JAK2. J Biol Chem. 2000; 275: 29338-29347.
6 Tyers M, and Willems AR. One ring to rule a superfamily of E3 ubiquitin ligases. Science ,1999; 284: 601-604
7 Kamizono S, Hanada T, Yasukawa H, eta l. The SOCS box of SOCS-1 accelerates ubiquitin-dependent proteolysis of TEL-JAK2. J Biol Chem. 2001; 276:12530-12538.
8 Matsumoto A, Seki Y, Kubo M, et al. Suppression of STAT5 functions in liver, mammary glands, and T cells in cytokine-inducible SH2-containing protein 1 transgenic mice. Mol Cell Biol. 1999;19:6396-6407.
9 Metcalf D, Greenhalgh CJ, Viney E, et al. Gigantism in mice lacking suppressor of cytokine signalling-2.Nature.2000; 405:1069-1073
10 Marine, J.-C., Topham, D.J., McKay, C. et al (1999) SOCS1 Deficiency Causes a Lymphocyte-Dependent Perinatal Lethality. Cell, 98, 609-616.
11 Alexander, W.S., Starr, R., Fenner, J.E.et al. (1999) SOCS1 Is a Critical Inhibitor of Interferon g Signaling and Prevents the Potentially Fatal Neonatal Actions of this Cytokine. Cell, 98, 597-608.
12 Naka T, Tsutsui H, Fujimoto M et al. SOCS-1/SSI-1-Deficient NKT Cells Participate in Severe Hepatitis through Dysregulated Cross-Talk Inhibition of IFN-gamma and IL-4 Signaling In Vivo. Immunity. 2001; 14: 535-545.
13 Kawazoe Y, Naka T, Fujimoto M, et al. Signal transducer and activator of transcription (STAT)-induced STAT inhibitor 1 (SSI-1)/suppressor of cytokine signaling 1 (SOCS1) inhibits insulin signal transduction pathway through modulating insulin receptor substrate 1 (IRS-1) phosphorylation. J Exp Med. 2001;193:263-9.
14 Morita Y, Naka T, Kawazoe Y, et al. Signals transducers and activators of transcription (STAT)-induced STAT inhibitor-1 (SSI-1)/suppressor of cytokine signaling-1 (SOCS-1) suppresses tumor necrosis factor alpha-induced cell death in fibroblasts. Proc Natl Acad Sci U S A. 2000; 97:5405-5410.
15 Yoshikawa H, Matsubara K, Qian GS, et al. SOCS-1, a negative regulator of the JAK/STAT pathway, is silenced by methylation in human hepatocellular carcinoma and shows growth-suppression activity. Nat Genet. 2001; 28: 29-35.
16 Marine, J.-C., McKay, C., Wang, D., et al. SOCS3 Is Essential in the Regulation of Fetal Liver Erythropoiesis. Cell,1999; 98, 617-627
17 Roberts AW, Robb L, Rakar S, et al.Placental defects and embryonic lethality in mice lacking suppressor of cytokine signaling 3. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001;98:9324-9329.
18 Takahashi Y et al. SOCS3: an essential regulator of LIF receptor signaling in trophoblast giant cell differentiation. EMBO J. 22:372-384 (2003).
19 Yasukawa H, Ohishi M, Mori H, Murakami M, Chinen T, Aki D, Hanada T, Takeda K, Akira S, Hoshijima M, Hirano T, Chien KR, and Yoshimura A; IL-6 induces an anti-inflammatory response in the absence of SOCS3 in macrophages. Nature Immunol. in press
用語解説-pick-up
JAK-STAT
JAK(Janus kinase/Just another kinase)は分子量130キロダルトン(kDa)のチロシンキナーゼである。STATはもともとはインターフェロンに応答する遺伝子のプロモター領域のDNA配列に直接結合する転写因子のサブユニットとして精製、クローニングされた。インターフェロンのシグナルにJAKが重要な役割を果たしていることは体細胞遺伝学を用いたStarkらの地道な努力によって明らかにされた。STATにSH2ドメインがあることから、受容体ーJAKーSTATー標的遺伝子という流れがただちに理解された。多くのサイトカインがこのシステムを利用しておりノックアウトマウスを使った解析などからそれぞれのSTATの特性が明らかにされている(図3)。
CIS/SOCSファミリー
CIS(cytokine inducible SH2ーprotein)はサイトカインによって共通に転写誘導される初期応答遺伝子としてクローニングされた。一方1987年、その類似分子JAB/SSI-1/SOCS-1が3つのグループから独立に報告されファミリーの存在が明らかとなった。現在このファミリーには8個の仲間が知られており、C末端のSOCS-boxを有する分子を含めると20個近くにのぼる。CIS/SOCSファミリーはサイトカインのシグナルを制御し、生理的にもきわめて重要な役割を果たしている。SOCS-boxの一部はユビキチン化に関与するF-boxタンパク群に類似しており, SOCS-boxが ElonginBC 複合体と会合し、ユビキチンリガーゼ複合体をリクルートすることで蛋白の分解を制御する。
![]() サイトカインのシグナル伝達機構 |
![]() TOP |
![]() Spred/Sproutyファミリー |