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Spred/Sproutyファミリーの解説(この解説内の内容は若干古く適時加筆更新を予定しています)
Sprouty/Spredファミリーによる増殖因子、サイトカインのシグナル制御
Physiological function and negative regulation of cytokine signaling by the Sprouty/Spred family

要旨
サイトカインや増殖因子のシグナルは多数の負のフィードバック制御によって厳密に制御されている。近年同定されたERK経路の抑制因子Sprouty/ Spred遺伝子群はジョウジョウバエからほ乳類まで保存されたRas/ERK経路を選択的に抑制する分子群である。ノックアウトマウスの解析の結果Sprouty1やSprouty2はGDNFのシグナルを制御し、それぞれ腎臓や消化管神経の発生増殖を抑制することが示された。またSprouty4は指や頭蓋の形態形成に重要である。Sprouty2/4-ダブルノックアウト(DKO)は胎生致死である。一方Spred1、Spred2はSCFやIL-3,IL-5のシグナルを抑制し造血を負に制御することが明らかとなった。Spred-1/2-DKOも胎生致死であるが、胎児リンパ管形成に異常が認められる。SpredはVEGF-Cシグナルの制御因子と考えられる。Spred/Sproutyファミリーは発現部位に依存してERK経路を精密に制御していることが明らかになりつつある。またSpred1は家族性神経繊維腫様疾患の原因遺伝子であることが明らかにされた。

はじめに
MAPキナーゼファミリーの一つ、ERK(Extracellular stimulus-activated kinase)は、様々な細胞反応を制御する重要な役割を果たしており、ほとんど全ての細胞外刺激により活性化を受ける。基本的にはRafがMEKを、MEKがERKをリン酸化し活性化する。増殖因子の受容体は細胞内ドメインがチロシンキナーゼであり、アダプター分子を介してShc-Grb2-SOS-Ras経路によりRafが活性化されることは広く知られている(1)。またサイトカイン受容体のようにJAK型チロシンキナーゼが非共有結合で会合している場合も同様にRas/ERK経路が活性化される。サイトカイン受容体では転写因子STATが有名な下流分子であるが、エリスロポエチン(EPO)や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの造血因子の増殖作用はSTATよりむしろRas/ERK経路のほうが重要であると考えられている(2)。一方で、G蛋白共役型受容体やVEGFR2/KDRはRas非依存性経路によりRafを活性化することが示され、Ras非依存的な活性化機構の存在も明らかとなってきた(3)。これらのERK活性化経路は数多くの抑制系が知られている(4)。例えばCblはEGF受容体などのチロシンりん酸化蛋白と会合しこれをユビキチン化、分解する活性があり、RasGAPはRasの直接的な抑制因子である。アダプター分子であるDokファミリーや LnkもRasGAPを介してRas活性化を負に制御している。MAPキナーゼフォスファターゼ(MKP)ファミリーには恒常的に発現しているものと誘導性のものがあり重要なMAPキナーゼ阻害因子である。最近SproutyおよびSpred (Sprouty-related EVH1 domain protein)遺伝子群が単離され注目されている。これらは細胞膜に存在し受容体からのシグナル制御を分子レベルで理解すると言う点からも興味深い分子群である。本稿ではSprouty/Spredファミリーの機能について最新の情報を提供する。

ERK経路の負の調節因子群 Sprouty/Spredファミリー
生体は、ERKシグナル精密に調整する機構を進化の過程で獲得してきた。Sprouty/Spredはショウジョウバエからほ乳動物まで保存されたERKシグナルの負の調節因子である(図1)。Sproutyはショウジョウバエの遺伝学的解析によりFGFシグナルを負に調節する分子として1998年に同定された(5)。遺伝子欠損の結果気管が発芽したような状態になることからSproutyと名付けられた。その後、ショウジョウバエにおいてはEGF(Der)をはじめTroso,Sevenlessなど受容体型チロシンキナーゼによるERK経路を負に調節することが明らかにされた(6)。ほ乳動物では少なくとも4種類のSproutyホモログが知られており、少なくともSprouty2およびSprouty4はERKシグナルにより転写誘導されるネガティブフィードバック制御因子である。一方Spredはレセプター型のチロシンキナーゼであるc-kit (SCF受容体)に会合するSproutyに似た分子として発見された (7)。データベース検索によりSpredと類似するSpred-2、Spred-3もクローニングされた。ショウジョウバエにおけるSpredの機能は不明である。SproutyとSpredはC末端側が類似しているがN末端が異なっている。SproutyのN末端側には保存されたチロシン残基(おそらくりん酸化をうける)含む領域とセリン/スレオニンに富む領域が存在するがそれ以外に特徴的なドメインは存在しない。SpredのN末端側はEVH1ドメインとc-kit結合ドメイン(KBD)が存在する。EVH-1ドメインはタンパク間の結合に機能するもので、VASP (Vasodilator-stimulated phosphoprotein) やWASP (Wiskott-Aldrich syndrome protein) 等のactin重合化に関与する分子群にみられるドメインである。これらのEVH-1ドメインはFPPPPというプロリンを含む配列を認識し、細胞骨格再構築が行われている領域にactinを集蔟させる作用がある。しかしSpredのEVH-1ドメインはこれらのEVH-1ドメインと進化的に離れておりその結合分子やモチーフは不明である。
S
prouty2は刺激前には細胞内小器官(マイクロチューブルとする説もある)に局在するが増殖因子刺激後に細胞膜に移行する (8,9)。一方Spredは刺激前後より細胞膜に局在する (7)。SproutyとSpredはC-末端に約100アミノ酸よりなるシステインに富むドメイン(SPR-ドメインあるいはCRドメイン)を共有する (図1)。おそらくシステイン残基がパルミチン酸化されることで膜へ局在すると思われる。CRドメインはりん酸化フォスファチジルイノシトール(PI)と結合するドメインであるとする説もある(9)。RasやSrcといったシグナル分子も脂質修飾をうけ細胞膜、特にカベオラやlipid-raftと呼ばれるコレステロールに富む分画に集積する。Sproutyの一部はカベオリンに結合しカベオラに集積することが報告されている (10)。また我々はSpredもlipid-raft分画に存在することを報告した(11)。各ファミリー間でのCRドメインの相同性は高いが、SproutyとSpred間では部分的に高度に保存されているものの、全体での相同性は約40%程度である。しかし特にRaf1との結合に必要な15アミノ酸程度のモチーフ(Raf1-binding domain, RBD)が共通して保存されている(図1)(12)。両者に共通したCRドメインはSproutyとSpredによるERKシグナル抑制機構に関与していることが予想される。


Sproutyの作用機構
SproutyによるERK抑制は単一のメカニズムでは説明できず、複数あると考えられている(図2)。またショウジョウバエと両生類、ほ乳類で作用機序が異なる可能性が示唆される。ショウジョウバエのdSproutyはFGF,EGF等広く増殖因子のシグナルを抑制するが、ほ乳類のSprouty(mSprouty)はFGFやVEGFによるERKの活性化を抑制するがEGFによるERKの活性化を抑止しないばかりかむしろ増強する (13)。またアフリカツメガエルのSprouty (xSprouty) はERKではなくカルシウムやPKCδの経路を抑制すると報告されている (14)。そのメカニズムとしてmSproutyのN末端チロシンのりん酸化の違いが報告されている (15)。例えばNIH3T3細胞ではSprouty1はFGF,PDGFによって、Sprouty2はFGFとEGFによってリン酸化を受けるがSprouty4は全くりん酸化されない。またリン酸かの経時変化は刺激によって異なる。このように各Sproutyで機能の違いが示唆されるが、リン酸化の程度で増殖因子選択性が説明できるほど単純ではないようである。
これまでにSproutyの作用メカニズムとして様々な仮説があげられている。しかしながら、それらは一定しておらず相互に矛盾しあっている。作用点ですらはきりしない。mSproutyはFGFによるRafの活性化をRas活性化を妨げること無しに抑制する報告と、FRS2とSOSの結合に影響することなしにRasの活性化を抑制する報告がある(16,17)。
Sproutyの結合分子としてこれまでGrb2、FRS2、Shp2、c-CBL、Raf1とGAP1を含むRas/ERK MAPK経路の多様な分子が報告されている(18)。花房らはSproutyがチロシンリン酸化を受けることでGrb2をトラップして抑制するメカニズムを報告した(19)。しかしSproutyはリン酸化すること無しにERKシグナルを抑制する報告もある(10)。また多くの報告ではSproutyが活性化型RasによるERKの活性化を抑制しないことから、SproutyはRasの上流で作用すると結論づけている。さらに我々は、VEGFのシグナルを抑制する場合にはSproutyはRBDを介してRafと直接会合してRafの活性化を抑制するというメカニズムを提唱した (12)。VEGFによるERKの活性化はSprouty4のSPRドメインのみで可能でN末端領域は必要ない。しかFGFの抑制にはN末端チロシンが必要である。N末端チロシン残基に会合する分子がFGFシグナルの抑制を担うと思われる。これらの報告よりSproutyの作用メカニズムは一つでは無く増殖因子ごとに異なった機構で抑制するものと考えられる。 Cblの会合については詳細に調べられている。 Cbl欠損細胞でもSprouty2はFGFシグナルを抑制した。さらにCbl欠損細胞では増殖因子刺激後のSprouty2の分解が抑制された。逆にSprouty2はCblを基質から奪うためにEGF受容体のユビキチン化を抑制する。したがってSprouty2はEGF刺激を抑制ではなく増強すると報告されている(20)。SproutyとCblは同じく抑制系でありながらお互いを抑制しあっており、増殖因子シグナルの綿密な時空間制御を担うと思われる。

Spredの作用機序
一方SpredのRas/MAP kinase経路に対する抑制メカニズムも複雑であるがおおむねRBDを介したRafの活性化抑制で説明できる(図3)。SpredはRasと恒常的に結合しているが、Ras自身の活性化(GTP型への変換)とRaf-1の細胞膜への移行は抑えない。しかし、活性化に必須であるRaf-1の338番目セリン残基のリン酸化を抑えることによりRaf-1の活性を阻害していることが分かった(7)。この抑制にはSpredのEVH-1ドメインも必要であった。SpredはC末端のシステンに富む領域を介して細胞膜に局在する。SpredはEVH-1ドメインを介して何らかの分子をリクルートし、Ras/Spred/Raf-1複合体上でのRaf-1のりん酸化を抑制しているものと考えられる。今のところSpredにはSproutyのような増殖因子、サイトカイン特異性はみられずほとんどの刺激によるERKの活性化を抑制する。またSpredは増殖因子刺激によりチロシンりん酸化を受けるが、血球細胞を用いた解析ではSpred1はSCFによってチロシンリン酸化されるがIL-3によってはりん酸化されなかった (21)。しかしSCFおよびIL-3によるERK活性化をともに抑制した。したがってSpredのリン酸化はERK抑制には必須ではないことが明らかとなった。
SpredはC末端SPRドメインを介して細胞膜に局在する(11)。このときカベオラやRaftと呼ばれる細胞膜ミクロドメインにも存在する。SpredのERK抑制効果はカベオラの主要構成分子であるカベオリンを発現させることで増強される。またカベオリンとの共局在と会合も確認できる。一方刺激後Ras、Rafもカベオラ/raft分画に集積することからSpredはカベオラ/raftに集積することで効率よくRas/Rafの活性化を抑制するものと考えられる(11)。
(追記)
現在ではSpred1はEVH1ドメインがRas-GAPであるNF1と会合しこれを細胞膜にリクルートすることが主要な機能であることが明らかにされている。われわれも追試してこのメカニズムが正しいことを確認している。

Sprouty/SpredのXenpusにおける生理的機能
過剰発現やアンチセンスRNAが容易なXenopusの発生過程におけるSprouty、Spredの機能が詳細に検討されている(図4)。AmayaらのグループはXenopus tropicalisを用いて Xtsprouty1, Xtsprouty2, Xtspred1, および Xtspred2.を単離した(14)。異所性発現とモルフォリノアンチセンスオリゴを用いたノックダウン実験からXtSproutyとXtSpredタンパクがFGFリセプター(FGFR)シグナルを抑制するが、それぞれ発生上異なった時期に異なった経路をブロックすることを報告している。詳細は原報を参照願いたいが、XtSproutyは形態発生とCa2+とPKCδ経路を抑制する(すなわちPLCγの抑制)が、ERK活性化には影響せず中胚葉の部位特異性決定には影響しない。対照的に、XtSpredはCa2+またはPKCδ経路に対する影響はほとんどなく、ERK活性化を抑制し中胚葉の部位特異性決定を抑制する。Spredの発現を抑制した胚は著しい形態異常を呈し、腹側が尾部化している。このような変化は活性化型FGF受容体を強制発現した表現型に似ている。SproutyとSpredはFGFシグナルの質を調節することで原腸形成、中胚葉発生を制御すると考えられる。
我々はSprouty4がVEGFによるPLCγ-Ca-PKC経路を介したRafの活性化を抑制することを報告している(12)。その際にPKCの基質であるMARKSのリン酸化があまり影響を受けないことからPKCを直接制御しないと報告した。しかしさらに詳細な検討が必要であろう。

mSprouty1の生理機能
ノックアウト(KO)マウスを用いたmSproutyの機能解析の報告がなされるようになった。mSprouty1-KOマウスは出生後早期に死亡する。死亡の原因は腎臓の形成不全である。KOマウス胎児は尿管芽が増加し結果的に過剰な尿管と過剰に枝分かれした集合管をもった腎臓が形成される。このような表現型はウォルフ管におけるGDNF/Retシグナルが過剰に入ったためと考えられる(図5)。実際にGDNF遺伝子のヘテロマウスとの交配でSprouty1欠損の表現型は改善された。GDNFとは神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor)であり、その受容体はRETプロトオンコジーンである。 RETチロシンキナーゼの恒常的活性化を引き起こす変異は甲状腺乳頭癌や遺伝性腫瘍性疾患である多発性内分泌腫瘍症2型(甲状腺髄様癌と副腎褐色細胞腫)の発症に、機能失活型変異は腸管神経細胞の分化異常によって生じるHirschsprung’s (ヒルシュスプルング)病の発症につながる。GDNF/RET経路は腎臓の形成にも必要不可欠であることが知られている。おそらく腎臓では他のSprouty/Spredの発現がないか機能補完ができないためにSprouty1欠損マウスではRETのシグナルが強力に入ったために腎臓に異常が生じたのであろう。
ではmSprouty1欠損でERKの活性化はどうか?残念ながら生化学的な解析は行われていない。最近の報告では、尿管芽発生にとってはERKよりもPI3キナーゼ-Akt経路のほうがより重要である可能性が示唆されている。PI3キナーゼもRasによって活性化されることからmSprouty1欠損の結果Aktが過剰に活性化されている可能性はある。しかしどのシグナルが表現型に影響しているのかは解析されていない。

mSprouty2欠損マウスの解析
最近我々を含めて二つのグループからmSprouty2-KOマウスの解析が報告されている(23,24)。mSprouty2-KOマウスはメンデル期待値比の範囲内で出生するが、生後1ヶ月以内に半数が死亡し残ったマウスも成長障害を示す。その原因は食道吻門部閉塞による食物の停滞による栄養吸収異常によるものであり、これは食道アカラシアと酷似していた (図)。さらに小腸、大腸でガスの貯留が認められた。これはヒルシュプラング病と酷似していた。食道アカラシアの病因は自己抗体による食道噴門部の神経変性が知られており、また同様にヒルシュプラング病はGDNF受容体 Retやエンドセリン受容体の異常による消化管神経叢の欠如による。そこでホールマウント免疫染色法によって食道および大腸の神経細胞について解析した。PGP9.5抗体を用いて蛍光免疫染色した結果、驚くべきことにヒルシュプラング病とは逆に食道や大腸の神経叢の細胞体数が増加しネットワークも過形成していることを見いだした(図)。このような神経ネットワーク異常が食道吻門部の食渣停滞、消化管運動の低下につながっていると考えられる。実際に電気生理学的な解析から食道吻門部の筋肉層ではアセチルコリンに対する感受性が増加し収縮力が5倍以上増加していた。またM2型アセチルコリン受容体のの発現も著しく増加していた。ではこのような神経の過形成は何故起こるのか?消化管の神経の発生と維持にはGDNFが不可欠であると考えられている。消化管をex-vivoでGDNFで刺激するとKOの神経細胞でERK,Aktともにリン酸化が強く入ることが免疫染色、ウエスタンブロットにて確認された(図)。特にmSprouty2-KOマウスの神経がWTより強く染色された。さらに抗GDNFモノクローナル抗体を生後2週目から4週目まで投与したところSprouty2-KOマウスでは消化管神経の数とネットワークの著しい減少が認められアカラシア症状も解消された。これらの結果から、GDNF-RETシステムが生後の消化管神経の成長維持に必要であること、mSprouty2はその過程を負に制御しており、mSprouty2の欠損はGDNFのシグナルを増強し神経の過剰形成を引き起こすことが明らかとなった
またmSprouty2-KOマウスは重篤な聴覚障害を有する(23)。この聴覚障害は内耳細胞の分化異常に起因しており、FGF8のシグナルが過剰に入るためと考えられる。実際にFgf8遺伝子欠損マウスとの交配によってmSprouty2欠損による聴覚障害は部分的に改善された。mSprouty2は消化管神経でのGDNF-RETシグナルのみならず内耳におけるFGF8シグナルの制御にも関わっている。
さらに我々はmSprouty4の欠損マウスも作成している。mSprouty4-KOマウスは四肢の指の形態異常が認められる他は大きな障害は認められない。しかしSprouty2/Sprouty4のダブルKOマウスは胎生致死であり、頭部、四肢に著しい形態異常を呈する(谷口ら論文)。明らか胎児期にmSprouty2とmSprouty4は機能的に補完しており形態形成の制御に重要な役割を果たしていると思われる。
Spred-1の生理機能
Spred-1KOは3ヶ月以上を経過すると脾腫を示した(加藤ら、未発表データ)。また通常野生型マウスの脾臓には巨核球はほとんど見られないが、Spred-1 KOでは巨核球が増加し、色素の沈着がみられた。このような表現型はRas/ERK経路の抑制に関与するとされるLnkやDokの欠損マウスに近い。肥大脾臓で骨髄性の細胞の増加がみられたことからSpred-1が造血において負の制御因子であることが示唆された。そこで各種サイトカイン存在下でコロニー形成能を比較したところ、骨髄で約数倍、脾臓でSpred-1KOマウスが5-10倍多い傾向がみられた。特にIL-3やIL-5によるコロニー形成が増強された(21,25)。これらのことよりSpred-1が欠失することで造血前駆細胞の数が増加することが示唆された。
そこで造血系の細胞でのSpred-1の発現を確認したところ、骨髄細胞をIL3およびIL5で誘導したマスト細胞、好酸球で高い発現が認められた(21,25)。またSpred1欠損マウス由来の骨髄由来の細胞の増殖は野生型の骨随細胞よりも早かった(図6)。IL3, IL-5,SCFに対する応答を骨髄由来のマスト細胞あるいは好酸球を用いて確認した。その結果WTに比べてKOの方がいずれの刺激に対してもMAPKの活性化や細胞増殖を増強することがわかった。一方、JAK2やSTAT5の活性化には影響がなかった。以上のことからSpredはサイトカインの2つの主要なシグナル伝達経路のうちJAK/STAT経路ではなくRas/Raf/ERKの経路を選択的に負に調節していることが示された(21)。造血細胞の増殖はSTATよりもむしろERKに依存するという最近の知見を指示する結果と思われる。
次に個体でのSpred-1の効果を調べるためにWTとKOマウスにIL5を投与した。定常状態ではマウスの末梢血中には好酸球はほとんど存在しないが、IL5の投与後増加する。KOの方が好酸球の増加が有意に高いことが分かった。さらに卵白アルブミン(OVA)によって誘導される喘息病態モデルの系でSpred-1分子の役割を解析した。その結果KOがWTに比べて抗原による気道収縮が強くさらに気管支肺胞洗浄液中の細胞数が約三倍になっており、中でも好酸球が著しく増加していた。したがってSpred-1は喘息モデルにおいて好酸球浸潤を抑制する分子であることがわかった(25)。

Spred-2 KOマウスの解析。
Spred-2欠損マウスは外見上明らかな表現型はみられないが、やや低成長でありFGF3シグナルの若干の増強によると思われる軟骨形成不全症を呈する(26)。またやはり脾臓での随外造血が観察される。骨随コロニーはKOマウスでは野生型マウスより2倍程度多い。したがってSpred-1KOと同じく造血を負に制御することが示唆された。胎生期の成体型造血の場であるAorta-gonad-mesonephros (AGM)領域でSpred-2の発現が高いことから、胎児期初期造血におけるSpred-2の機能を検討した(27)。In vitroにおけるマウスAGM分散培養は、マウス胎生期での血管内皮様の細胞から血球分化を再現する良いモデルと考えられている。Spred-2 KOを用いてAGM分散培養を行うと、WTのAGMと比べて、約3倍のCD45陽性細胞の輩出が確認された。逆にAGM領域の分散培養にSpred-2–IRES–GFPレトロウイルスベクターを用いてSpred-2を導入すると、対照GFPのみの導入と比べ、CD45陽性血球細胞の減少が起きた。これらの結果よりSpred-2は血管内皮からの造血幹細胞の発生を制御する分子であることが明かとなった。
Spred-1/2の発現が胎児期においてオーバーラップしていることから、互いに機能を相補しあっていることが考得られる(加藤ら;未発表)。そこでSpred-1,Spred-2のDKOマウスを解析した。Spred-1/2 DKOはE.12.5から15.5で出血や動脈瘤によって死亡した。今のところ、心臓や肝臓などに明らかな異常はなく、血管及びリンパ管の発生に問題がある可能性が考えられる。現在VEGFのシグナルを中心に解析を進めている。

Sporuty/Spredと癌
Sprouty/Spredのノックアウトマウスの解析から明らかなようにこれらのファミリーは増殖因子や造血因子の重要な負の制御因子である。一方癌や白血病の一因が増殖因子や造血因子のシグナルの恒常的な活性化であることはよく知られている。したがってSprouty/Spredは癌抑制遺伝子として機能することが期待される。ヒト肺がんではSprouty1とSprouty2の発現低下がそれぞれ79%と96%のがんでみられ、前立腺癌では40%の癌でSprouty1の発現が低下している(28,29)。その原因として遺伝子の欠失やメチル化によるサイレンシングが報告されている(30)。しかし乳がんではSprouty2の発現が少ないものの、ヒストンデアセチラーゼやDNAメチル化抑制薬によっては発現の回復がおこらないことから転写因子の欠損など別の機構も考えられる(29)。メラノーマにおいてもSprouty2が抑制的に作用する可能性が報告されている(30)。Spredについては肝癌において発現低下が認められる。
また逆にSprouty/Spredを強制発現させることで癌を治療するこころみもなされている。我々はSprouty2、Spred1を搭載したセンダイウイルスベクターを開発し、高転移性の癌LM8に導入したところともに癌の成長、転移を強く抑制した(31)。転移の抑制についてはむしろケモカインによるRhoの活性化抑制による運動性の低下によることを示した。同じくSprouty2はHGFによる細胞運動を抑制する(32)。しかしSpredの強制発現がアクチンストレスファイバーを消失させるのに対しSprouty2の強制発現では増加した(31,32)。SpredとSproutyは細胞骨格系に対しては異なった作用を持つようである。しかしこの点はさらなる解析が必要であろう。

Spred1はNCFC症候群の新たな原因遺伝子である
今回ベルギー、フランス、アメリカとの国際共同研究によって家族性の神経細胞腫(neurofiborosis)様の疾患家系にSpred1遺伝子のloss-of-function型の変異(優性遺伝)が複数見つかった。'neuro-cardio-facial-cutaneous' (NCFC)症候群とは表現型が重複する遺伝性疾患で神経線維腫症Type I(NF1)、ヌーナン症候群、レオパード症候群、心臓-顔面-皮膚(CFC)遺伝的症候群とコステロ遺伝的症候群を総称する。すべて常染色体優性遺伝形質を示す疾患でいまのところわかっている原因遺伝子はすべてRas-ERK経路のコンポーネント(gain-of-function型)かもしくはその負の制御因子(NF1すなわちRas-GAP)である。今回Spred1がこの遺伝子群の仲間に加わったことで、Spredが確かにRas-ERK経路の負の制御因子であることが確認された。また癌抑制遺伝子の候補であることも明らかである。
しかし今回の発見はさらに多くの謎を提示している。Spred1ノックアウトマウスは顔面の変形、低成長、メラノサイトの異常蓄積などヒトでの変異をよく再現している。しかしこれらはすべてホモ(Spred1-/-)欠損でみられるものでありヘテロ(Spred1+/-)は全く正常である。しかしヒトの家系ではヘテロで発症している。これはどのような違いなのだろうか?当初は変異Spredがdominant-negativeに働く可能性を考えたがそれは谷口君の詳細な検討で否定された。さらにヒトで見つかった5家系も症状はまちまちである。これはSpred以外の疾患感受性遺伝子の存在を疑わせる。一方Spred1-/-マウスは骨随増殖性疾患(myeloproliferative diseases)を呈する(これも遺伝的背景に依存する)。しかしこれらの家系では何人かに固形腫瘍がみられるものの白血病は報告されていない。これはNF1の変異で小児白血病の頻度が高くなることとは少し違うようである。しかしもしSpred1-/-(ホモ)のヒトがいれば白血病を発症するのかもしれない。
またほとんどの家系では知能障害を伴っている。Spred1欠損マウスでもNF1欠損マウスで学習障害が認められるようでこの点も興味深い。我々の検討ではSpred1とSpred2は発現場所も似通っており機能的な相補があると思われる。谷口君の研究によりSpred-1/2はリンパ管が血管から別れるところで重要な働きをしている(Taniguchi et al. MCB, 2007)。これにはやはり血球も関与しているようである。したがってSpredは造血幹細胞、血管内皮幹細胞でも重要な調節機能を持っていると思われる。今後その解明が待たれる。
当面興味深いのは他のファミリーメンバーの疾患への寄与である。哺乳類ではSproutyは4種類、Spredは3種類存在する。いくつかの癌で発現の低下が報告されつつあるが、いまだ癌でのこれらの遺伝子の変異は報告されていない。今回Spred1に家族性の変異が見つかったことで、癌においてSpred/Sproutyファミリー遺伝子のLOHと変異が探索され発見されることは時間の問題と思われる。また遺伝性の疾患においても変異が見つかる可能性もある。
Spred1やNF1のヘテロ欠損によっておこるERKの活性上昇は普通のWesternでは検出できるかできないかくらいのきわめて軽微なものである。それが疾患に結びつくのであれば、NCFC疾患は僅かな量のERK阻害剤で治療できる可能性がある。

おわりに
ここで紹介したようにSprouty/Spredファミリーの解析は抑制作用の分子機構の解明からノックアウトマウスを用いた生理機能の解明と癌における意義の解明へと発展しつつある。分子機構に関しては残念ながらいまだ一致した見解が得られていないがノックアウトマウス由来の細胞や臓器を用いることで本来の抑制機構が正確に表現できるものと思われる。さらにこれらの情報から癌をはじめとするシグナル伝達異常による疾患の理解と治療への糸口が得られることを期待したい。

文献
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