木村丹香子の留学案内


 吉村先生から留学記を書くようにとの連絡をいただいたのですが、アメリカでの研究生活そのものについては先生のエッセイが掲載されていますので、NIHでの生活について記そうと思います。



NIHでポスドクを始めてから2007年の4月でちょうど1年が過ぎました。

私が留学しようと決めたのは2004年の秋頃です。この年の春に学位をとることができ、吉村教授と医局の先生方のご厚意で更に1年間吉村研で研究を続けている時期でした。

最近は留学している(いた)方のブログや本がたくさんあるので、留学に必要な情報は簡単に入手できます。ボスや秘書さんとのやりとりはメールでできますし、アパート探しもオンラインでできます。一昔前に比べると留学の敷居は低くなったのでしょうね。木村丹香子



NIHメインキャンパスはワシントンD.C.からメトロで30分ほどのBethesdaにあります。キャンパス内は緑に囲まれ、野生のリスやウサギが飛び跳ねている長閑な環境です。つい先日はカナダグースの親子がキャンパス内の道路を横断している光景を目撃しました。

さて、NIHでのポスドク生活ですが日本と大きく違う点がいくつかあります。   

まず研究費が潤沢です。戦争の影響でNIHグラントが削減されたため他大学は研究費の捻出に苦しんでいるそうですが、NIHはまだまだましなようです。Buffer やゲル、LB プレートなどは自分達で作らずに購入することがほとんどで、組織のプレパラート作成やgenome のsequenceは外注なので実質的な研究に使う時間を多く確保できます。(日本に戻ったときの反動が恐ろしいです)

おそらく日本人ポスドクなら、自分の研究に必要な手技は自分でできるようになるまで練習すると思いますが、うちのボスは「一人でできることには限りがある から、自分でできなければできる人間を探せばいい。その方が時間の節約になる。」だそうです。確かに周囲のポスドクを見渡せば諦めが早いです。

ボスの姿勢はラボによってまちまちのようです。研究テーマや実験の進め方を決めるのはボスの裁量というラボもあれば、うちのラボのように自分でやりたいこ とをボスに話して納得させられればOKというところもあります。ポスドクの間に出した業績は自分のものではなくボスの業績になってしまいますが、だからと いってすべてをボスの頭に委ねてしまっていたら、トレーニングにならないじゃないかとも思うのですが、「ポスドクは学生のようなもの」とボスに頼りきっ て、「いいアイデアが出せないボスはよくない」というポスドクもいます。価値観の違いを感じることがしばしばです。

NIHへ留学したメリットといえば、豊富なlectureとセミナーです。NIHでは毎日どこかでたくさんのlectureが開かれています。毎週他大学 や研究機関から招待した著名な研究者のlectureを聴くことができます。もし時間がなければPCでビデオキャストを見ることもできます。その他、キャ リアアップやグラント取得のためのセミナーも開かれているためPIを目指すポスドクにとって良い環境かもしれません。その他、有料ですがサイエンス(講義 と実験講習)やビジネスコース、語学などの履修もできます。サイエンスや英語のクラスを取る人が多いのですが、その費用は大抵ボスが負担してくれていま す。

教育といえば、NIHには学生はいないと思っていたのですが、実はいます。夏休みの期間を利用してラボにやってきて数ヶ月間実験を体験する高校生もいれ ば、大学院生もいます。大学院生に関しては、US内だけではなく海外からの院生も受け入れていて、所属大学の単位互換性を使ってNIHのラボで研究して論 文を出している人たちもいます。NIHの院生にはポスドクより安いものの、給料が支払われています。



私はまだ留学したことがよかったのかどうか自分でもわからずにいますが、研究はもちろんのこと、他国からのポスドクとの交流、アメリカでの生活を通して日 本にいた場合には知らずにいたことに気づいたことはいくつかあり、いい経験にはなっているようです。ただ、けっして留学はメリットばかりではないのでよく 考えて自分の進路を決めてください。



最後に、留学に当たってとても役に立ったサイトを紹介しておきます。NIHに留学されていた方のサイトです。

www2u.biglobe.ne.jp/~ksaito/index.html

生活のセットアップに必要な手続きの詳細が書かれています。



NIH公式ホームページ

http://www.nih.gov/about/leadership.htm