トップ  >  吉村研を卒業して思うこと

05年卒武富君より。 武富君は私が九大に赴任した年に入学した九大一期生です。



東京大学医科学研究所・炎症免疫分野 (九州大学 口腔外科兼)


学術振興会特別研究員 武富 孝治


卒業生にメールをいただいて、HP 更新につき、各自近況や自分の思いを自由に入れて欲しいということでした。吉村研を卒業した 2005 年 9 月から、私は東京大学医科学研究所 炎症免疫分野でお世話になっており、粘膜免疫の世界に足を突っ込んでいます。

私にとって 2005 年から 2006 年にかけてはまさに激動の年で、博士号取得、論文 Accept、結婚、子供が生まれるなど、多くの出来事がありました。現在は腸管にある M 細胞と呼ばれる抗原取り込みの入り口として知られる細胞について、その後に続く免疫反応の解析までを細々ではありますが研究しています。  

今回は卒業して思っていることを生意気ながら OBとして、そして吉村研後輩の励ましになればと思い筆を執りました。そして、慶応大学の方へ研究室を移動させるとのことなので、東京で先に生活をしている者としてのアドバイスも簡単に述べたいと思います。武富孝治(医科研ラボにて)



卒業して思っていること 〜 吉村研の後輩のみなさんへ 〜

私は吉村研が久留米大 分生研から、九大 生医研に移って、最初に入学した大学院生だった (2001 年 4 月〜)。当時の私は、研修医から大学院へ進んできたのだが、恥ずかしながら実験を含め、基礎生物学・分子生物学の知識はほとんどなかった。吉村研に入ってポスドクの佐々木さんの下で、ゼロから実験、分子生物学的知識を教えていただいたのだが、最初 AM 6 : 30 から実験を開始するようなスタイルだった。こうして実験を始めて数ヶ月。 Spred がNature に Accept になった (文献1) 。当時、上記のように朝早くから実験していたことや、私の実験台が入り口に近かったこともあり、吉村教授がやや興奮気味に「Accept になったぞ ! 」とうれしそうに話しかけて来た。AM 7 : 30 頃で、 多分、First Auther を差し置き、教授の次に Nature へのAccept を知ったと思う。ところが、この頃の私は、そこら辺(論文に Impact factor なるものがあること、それが研究費を大きく左右すること)の知識が全くなく、「はあ、よかったですね ???」といった感じだった。吉村教授はじれったい感じで「ああ、(もう、)君に言っても駄目か。」と奥で実験していた佐々木さんの元へ伝えに行った。あとから如何にすごいことなのか分かったが、当時の私はそんなことすら知らない “のんき君“であった。

また、私は筋金入りの“のんびり屋”でもあり(本人は一生懸命やっているつもりなのだが、頑張ることと、スピードを早くかつ効率よくやるのはまた別のこと。)、吉村教授も呆れるほどで、「武富君は実家(埼玉)に帰る時も新幹線を使うくらいだからな。(つまり、飛行機なら 2 時間のところをのんびり 5 時間もかけることから)」と言われ、また先日も、とある授賞式で東京へ来られた際、「あまりのゆっくりした仕事ぶりに、僕の方が散々苦労(我慢)させられたなあ。」とお酒を飲みながら(冗談っぽく それとも 本気 ?)話した程である。

更新された HPに ” 危機感のなさを嘆く“ とあった が、卒業して尚、あらためて自分のこととして反省した。このような私だったので、大学院時代は研究に限らず、怒られたこと・ダメ出しは多々あった。しかし ながら、どの叱責の裏にも、院生を思う優しさが含まれていたと思う。だからこそ心から反省できたし、それをバネに何とか頑張ろうという気持ちにもなれた (当時、実績的には遅々としていいデータは出せなかったかも知れないが・・・)。武富息子と

最近、子供 (右写真拡大) が生まれてから、「怒ってもらえるのは、その人のことを考えてくれているからなのだ」と更に思うようになり、今でも感謝している。そう、感謝すべきことな のである。それを証拠に吉村先生は感情的に叱責することはまずない。必ず理詰めで諭すように注意する。ましてや、院生は実の子供ではなく他人である。吉村 先生は「何でも教授に相談するように」と以前の 過去のHP で書いていたが、本当に親のようにラボのメンバーのことを親身になって考えてくださっているのだと思う。

ところが・・・である。更新された HP に「今の院生は褒めないといけない(院生へのメール0513)」とあった。ここまで院生の立場で考えてくれる教授は、めったにいない。優しい吉村先生だからこそであろう。しかしながら、卒業して尚、心から感謝している OB もいることを今の院生に知ってほしい。今は、怒られて落ち込むこともあるかも知れないが、後で必ず感謝する時が来ます。勿論、最初から何でもでき、教授に叱責させない優等生であるに越したことはないが・・・。



吉村研を卒業してから 〜ラボでの近況〜

2005 年 8 月に吉村研を卒業してから、私は関東に出て東京大学医科学研究所 炎症免疫学分野www.ims.u-tokyo.ac.jp/EnMen/index_j.html(粘膜免疫)で研究をさせていただいています (右拡大) 。武富実験中

こちらのラボではセミナーが全て英語でなされるので、英語が不得意な私の頭を悩ませるとともに、英会話の必要性をひしひしと感じています。

教 授は 1 年の半分近くは出張でラボには不在で、アメリカをはじめ、海外へも頻繁に出張されています。そのため、教授との Meetingの日は特別設けられておらず、結果に応じて自由に来なさいという感じです。アメリカなどではよく見られるスタイルなのかも。とにかく、吉村 先生のようにどんなに忙しくても、1 回/週もしくは 1 回/2週 で Meeting をやっていただけるのは、非常にありがたいことなのだと思います。ただ、今のラボでも半年に 1 度くらいのペースで仕事セミナーが、そして海外からお客様がいらした時にも発表する機会はあります。しかし、誰も研究のアプローチや進行度について、表 立って言わないので、教授へ自分から積極的にアプローチしないと停滞してしまう恐れがあります。要は自分次第ということです。

こちらの学生は博士課程の学生はもとより、修士課程の学生もセミナーなどでよく質問し、Discussion にも大変積極的に参加します。勿論すべて英語で。ラボ全体がAmericanize されていることもあるかも知れませんが、やはり一瞬 「できる!」 と思わされます。もちろん優秀な学生が多いのですが、よくよく聞いてみると毎回鋭い質問ばかりしている訳ではないし、実際の実験を見てみると細胞内シグナ ル伝達機構を基盤とした免疫学や分子生物学の分野では、吉村研の学生の方がよく知っている部分も多くあります。しかしながら、どんなセミナーでも興味を態 度で示す姿勢は昔の自分も含め、見習うべきところだと思います。パイエル板M細胞

研究の面では、腸管のM 細胞(Microfold cell)と呼ばれる抗原取り込み細胞の機能を研究しています。簡単に言うと、この細胞に強く発現している分子の KO マウスを用いて、その後に引き起こされる免疫応答を調べています (右図拡大) 。また一方で、口腔外科として舌癌における Spred / Sprouty のリンパ行性転移抑制機構、およびそれに伴う粘膜免疫応答をもう一つのテーマとして調べています。このラボでは粘膜の各層における免疫担当細胞の取り方や 扱いに長けているので非常に勉強になるし、今後もテクニックを少しでも多く身に付けて、来たる時に向けて日々トレーニングを積む所存です。



九大生医研から慶応大学医学部へ移る学生の方へ

ラボが来年度より移動になるにあたり、OB としては九大から引っ越しということで、全く寂しくないと言えば嘘になりますが、慶応大でも今まで以上に飛躍されるのは間違いないと信じております。そこで、九大から 2 年前に東京に出た者として、移動する後輩の皆さんに少しは参考になればと思うことを以下に挙げたいと思います。



1. 家はできるだけ大学の近くに借りよう〜自転車もしくは電車(できれば 30 分以内)

九大時代、何人かの人は通勤・通学に 1 時間くらいかけていたと思うが、多くの人はラボから自転車で通っていたと思う。東京に来てまず感じるのは家賃が高い。しかしながら、安いところを探して通 学時間をかけてしまうと帰りの終電が気になったり(夜 9 時以降 SDS-PAGE するなら泊まる覚悟で → 勿論 1 次抗体 O/N までと考えてのことだけど)、通学で疲れてしまうことが多かれ少なかれあると思う。もちろんそういったことがないように計画的に毎日の実験を組めばいいと 思うが、なかなか計画通りに行かない人は、特に大学近辺に住むことをお勧めします。都心から離れれば家賃は安くなるが、遠くてもせいぜい Door to Door で 1 時間以内にしておいた方がいいでしょう。



2. 昼食は生協が中心か?  ほか弁・宅配弁当も利用できる

九大周囲の食事処、すなわち若松食堂(通称:鍋屋)、TORICO、お宝チャンポン等、私も昼食では相当お世話になったし、ある意味気分をリフレッシュで きた。もちろん信濃町の慶応大近辺にも美味しい食事処はあるのだろうが、全般的に東京は値段が高いような気がする。特に私が通う医科研は白金台にあり、シ ロガネーゼと言う気取った名前があるように、小洒落た店が多いので外で食事をすると簡単に 1,000 円くらいかかる。そこで学生にお勧めなのはやっぱり生協である。他にも宅配弁当なども比較的安くあると思う。また、ほか弁や某牛丼チェーン店など全国区に あるものは東京だから高いということはないので、これを利用してもいいと思うが、くれぐれもお昼を食べに行くのに時間をかけ過ぎて、教授を心配させること がないようにするのは言うまでもない。もちろん夜も ”森” や “犬丸” はない。しかし東京にも同じような処はあるはずなので、いいお店を見つけたら、是非教授を誘って行ってください。

2. は余計な ”おせっかい” のつもりで書きましたが、1. は非常に重要です。

是非参考にしてもらえればと思います。



Acknowledgments



最後に改めて入学当初、マンツーマンで直接指導してくださった佐々木さん、 いろいろ相談に乗っていただいた当時ラボのメンバー(本当にみんな仲がいいと思う。)、 Revise で瀕死(笑)の時、徹夜で実験の指導・手伝いをしていただいた小林先生、知念さん、またコラボならびに御助言を賜った他の研究室の先生方、そして何より親 身に御指導いただいた吉村教授にあらためて心から感謝の念を申し上げ、また今後の吉村研の更なる飛躍を祈願し、筆を置きたいと思います。



References

1. Wakioka T, Sasaki A, Kato R, Shouda T, Matsumoto A, Miyoshi K, Tsuneoka M, Komiya S, Baron R and Yoshimura A Spred, a Sprouty-related suppressor of Ras signaling. Nature 412 :   647-651, 2001.


プリンタ用画面
友達に伝える
前
木村丹香子-NIHより
カテゴリートップ
卒業生より
次
留学記(大石正信)